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沈丁花の咲く家  作者: 新井 逢心 (あらい あいみ)
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ホリーホックホーリー⑱

真司は慣れた様子で玄関を解錠する男を盗み見た。

何度か見た事のある顔だ。島の出身ではなかったと記憶している。


その男ともう一人こちらは島民の、漁船員をしている男が先導し、ギシギシ軋む廊下を歩いていく。

俊葵からの伝言があると言った細っこい男と転びかけたところを受け止めてくれた小さい男が後に続く。つまり真司はその四人に挟まれた形で廃校になった島の小中学校の校舎を歩いていた。


先導の二人が元保健室だった場所に入っていった。

そこには、床が底上げされ畳が一面に敷かれている。

ここがこんな風になっているなんて知らなかった。とびっくりしている真司に、


「今度、漁協で外国人労働者を試験的に雇用する事になってさ。それでここを借りたのさ。どんな部屋がいいかって聞いたら、禅寺の宿坊みたいなのがいいって言われてよ。板間に寝かすのもなんだから、畳を入れてみたってわけだ。」

部屋の中で待ち構えていた男が数名が近づいて来て、頭をワシワシと撫でながら言った。

「今井工務店が管理してるはずなのに知らなかったってか?お前ぇが島の連中を無視してたのがいけねぇんだぞ。」


「すんません。伯方さん・・・」


促され真司は長テーブルの窓際側に腰を下ろした。


「真司君。まず、言っておきたい事があります。」

すぐに西崎が口火を切る。

「私は、橋本 俊葵君の祖父、橋本 幸一の秘書で、西崎 羽澄はずみと言います。今回この島にやって来たのは私の通常の職務とは関係ありません。」

そして真司に身体ごと向き合った。

「真司君。俊葵君は君の身を案じています。君が何か困難に巻き込まれているなら救い出して欲しいと俊葵君に頼まれました。」


真司が息を呑んだ。


そして太郎が立ち上がる。

「同じく助っ人の鈴木 太郎です。本島で絵を描いています。俊葵君の友人です。元々祖父母がこの島の出身で、波間って言ったら分かるかな。」


波間と聞いた真司の身体がピクリと反応したが、太郎はそのまま続けた。


「俊葵君は今回のことで、マスコミに有る事無い事書き立てられ、追いかけ回された挙句、高校も追い出されるように繰り上げ卒業になって…だから、名誉を回復させてあげたいと思って来させて頂きました。」


「大学で心理学を教えている深見 操です。たまたま島に来ていたんですけど、俊葵君は僕の恩人で、俊葵君が困ってるってお聞きしてて、一肌脱ごうという訳です。」

深見がペコリと頭を下げた。


「ああー、あのパーソナリティーがどうのって、確か三年前かな?先生の名前聞いたような…」

真司が声を上げた。


瞬時にそのシチュエーションに思い至り、

「そうですね。それはきっと僕のことです。」

と深見は頷いた。


「ここは強調しておきたいんですが、俊葵君を始め私達は、君の身を案じはすれど、君に対して怒ってはいません。そして、君と君のお父さんにはいかなる容疑も掛かってはいない。まだ警察にははっきりと確認は取れていませんが、俊葵君自身も高峰 稀世の死について重要参考人からは外れているようです。さっき言ったように私達は、君の身の安全を確保するため、俊葵君の名誉を回復するためにここに来たんです。」

西崎が言うと、

真司が顔をしかめ、

「俊葵、警察に捕まってない?やっぱそうだったか…」

と言った。


「その言い方は、ホッとしたって言うのとはまたちょっと違う感じだね。」

と、深見。


真司はコクリと頷いた。

「俊葵は、三年前から稀世果の事を警戒してたし、俊葵の方から関わっていくなんて絶対にない。だから稀世果に何があろうと、俊葵は関係ねぇーって自信持って言える。お祖父さんはどうか分かんねーけど、」

言いすぎたと思ったか、西崎に頭を下げる。

西崎は気にするなと緩く首を振った。


「真司君。君は、警察に橋本家で高峰 稀世果を見たと証言したかい?」

西崎が尋ねた。

いささか直球過ぎると誰もが思ったが、じゃあ持って回った言い方がいいかというとそうでもない。

一同の目が真司に注がれた。


「それは…」

真司が項垂れた。


「君と大野さん、本島のターミナル駅の、parrotパロットに行っただろう?あれ、僕の弟がやってる店なんだ。」

太郎が努めて優しく言った。


「え、ああ、じゃあ色々聞いてるんすね…」

ぼそりと言うと、意を決したように顔を上げる。

「俺の親父…もう知ってると思うんすけど、稀世果と関係あったんで…それで、そういう奴等全員重要参考人と見なされるって、刑事さんが。特に親父はアル中で、その可能性が高いって…メッチャ悩んだけど、お、俺親父がやったんなら仕方ないって思って、兄貴にもそう言って…」


太郎と西崎は顔を見合わせた。


「兄貴は、『あちらさんは、お祖父さんが国会議員なんだから敏腕弁護士雇えるけど、ウチは無理だ。地元相手の生業やってて、親父と共倒れなんてあり得ん。』って、」


「んん、じゃあ橋本さん家で高峰 稀世果見たって言ったのは誰だ?」

伯方が、立てた膝を支点に身体を浮かす。


「兄貴っす。」


「お前の兄貴、嘘言ったのか?」


「嘘っつーか、やっぱ嘘か…見たの兄貴じゃないんで、稀世果は居た事は居たみたいなんだけど、俊葵ん家の庭に、」


「兄貴じゃなかったら誰が見たんだ?」


「お、おお大野さ…ん…」


「はぁー、」「ああ、」「なるほどなぁ〜」「そうかぁー」「ほぉー」「うーむ」


それぞれが一斉にリアクションしたので、真司は口をあんぐり開けたまま皆の顔を眺めていた。


「じゃあ、大野氏が高峰 稀世果を最後に見た人物ってことになりますよね。だから、それを誰かになすりつけようとしていたんですね。」

太郎が呟く。


「しかし、あの橋本のウチの崖から下に突き落としたところで海に直接落ちる事はねぇよ。」

伯方が言った。


「そうですよね。」

と西崎。


「い、いや、待ってください。俊葵ん家の庭で、高峰 稀世は確かに見られてる。でもそれは、出て来るところなんすよ。何かやってるとことか、入って行くとことかじゃなくて、」


真司は両手をバイバイするように振り、必死に言い募った。


「「「「「「えーーーっ」」」」」」


「ああ、それで、君は大野氏に、『話が違う。』と言っていたんだね。」

太郎が言った。


コクリと真司が頷いた。

「兄貴は、高峰 稀世はを見たって証言したけど、入って行くとこって言ってないし、その上、大野さん、絶対俊葵が犯人だみたいな言い方したから…」


「そうか。君は俊葵君が言う通り俊葵君を裏切ってなかった。」


西崎が言うと、

真司の目から涙がほろりと溢れた。

「でも、兄貴が…結果的には裏切った事になるんじゃあ…」


「俊葵君は、『もし、真司が偽りの証言をしたのならやむにやまれない事情があったんだ。だとしたら凄く自分を責めている筈だ。』そう言って、君の事が心配だと電話をしたんだそうだよ。

俊葵君は分かってる。きっと大丈夫だ。さあ、もっと聞かせてくれるかい?」


西崎は真司の背中をさすり、話を促すようにポンポンと叩いた。































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