表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
沈丁花の咲く家  作者: 新井 逢心 (あらい あいみ)
78/102

ホリーホックホーリー⑬

「いい天気ですねー。」


太郎は、軽トラのハンドルを操りながら呑気に呟く西崎を見遣る。


ーー僕もそうだけど、この人も全く似合ってない…これで意味あるのかな…ーー


二人は、伯方が用意した上下グレーの作業着に身を包んでいた。

一度ハウスクリーニングのユニフォームを着た太郎は、妙に変装に慣れてしまっていたが、見るからに繊細なインテリの西崎の作業着姿は、ほとんどコントのようだ。


情報交換を終え、具体的な行動計画を立てる段になって、ネックになったのが、

今回の渡島の主な目的である今井 真司が、極端に島の男達を避けており、肝心の真司本人の意思を確かめられていないという点だった。

島の男達から孤立させようというアジトの面々…大野、おそらく高峰 由稀世…の狙いだろうが、真司本人が囚われている事を自覚しない限り、真に自由になることはない。


伯方が丁度、漁協宛てに港に届く荷があるから、誰かが業者としてそれを受け取るために港に出向き、真司に接触を図るのはどうかと言い出した。それには島民ではない方がいいと、太郎と西崎がその役を担う事になったのだ。



関係者以外駐車禁止の看板がある辺りで軽トラを止め、真司の到着を待つ。

それから四、五分後に、郵便局のマークの付いた白い軽ワンボックスカーが港に入って来た。

まれに、郵便局長が同乗している場合もあると聞いていたが、車から降りて来たのは肩先に付くほど伸びっ放しにされたせいで、根元から半分が黒髪に戻りかけている金髪の少年が一人。

ーー真司だ。ーー

太郎と西崎は頷き合うとドアを開けた。


西崎は、人目を避けるようにターミナルの建物の柱の影に立っている真司の視界に入るように、ゆったりと荷物搬入出口に向かって歩いていく。

真司の頭があさっての方に向けられたのは、近づいてくる西崎に気が付かないフリをするためだろう。


「こんにちは。郵便局の方ですか?今日も暑いですねー。」

後に続く太郎の耳に、西崎の軽妙な挨拶が聞こえてきた。


「こ、こんにちは。」

ビクッと肩を跳ねさせて、それでも挨拶を返そうとするところに、西崎は微かな希望を見い出す。


「漁協に届くちょっとした機械をね、受け取りに来たんですよ。」

西崎がニコニコと話しかけると、

「あ、それはご苦労さまです…」

真司がちらっと西崎を見上げた。


「ここ、良い島ですよねー。あ、荷物出てきたみたいですね。」

島民は、一目で余所者を見分けるから必要はないと思ったが、敢えて島民でない事を強調しておいた。


四、五メートル前で荷物の山が出来上がると真司は、荷役の職員に差し出された書類にサインして、慣れた様子でキャリーに箱を載せ始めた。

対する、漁協宛ての荷物はまだ出てこない。このままでは真司が先に港を出て行ってしまうと太郎は焦ったが、西崎は悠然と積み下ろし作業を見守っている。


すると突然、

「うわぁ〜これってこんなに大きかったっけぇ?」

西崎がキャラクターにはなさそうな奇声を上げた。


積み込み作業に没頭していた真司も頭を上げるほどのそれに、太郎は思わず笑い出しそうになったが、何とか堪えて、

「あー、中身バラさずに、一個にまとめちゃったんですねぇー」

と切り返した。


「こんなキャリーじゃ運べないなぁ、第一、二人でどうやって荷台に積んだらいいのか…」


荷物は、大人の男一抱ひとかかえほどもあった。


「応援頼みますか?」

西崎の小芝居の趣旨を理解した太郎が訊ねると、


「あのぉ、俺…これ積み込んだら、手伝いますよ…」

真司がおずおずと言葉を挟んできた。


「え、助かる!じゃ、君のを先に積み込もう!」

西崎は真司が手にしていたキャリーを奪うように押し、スタスタ歩き始めた。


軽トラの荷台に軽々と飛び乗った真司は、息を切らしながら二人で持ち上げた箱を慎重に受け取り、そっと床に下ろし、押し滑らせて運転席の後ろにピタリとくっ付けると、窓の桟に、運んでいる間に動かないように丁寧に括り付ける作業までしてくれた。


「わぁ〜ありがとう。俺達だけじゃ、ここまでできなかったよ。」

西崎がまたもキャラ崩壊気味の声で礼を言うと、


「いえ…こっちも荷物の積み込み手伝ってもらっちゃったんで、」

真司が照れ臭そうにボソリと答えた。


「いやいや、こっちの方がお世話になったよ。郵便屋さんて大きな物運ぶのも上手なんだねー。」

太郎が言うと、真司は明るい笑顔を見せ、

「あ、俺ん家、工務店なんで、大きな物運ぶの慣れてるっす。」

と、二の腕を上げ、Tシャツの袖で額を流れる汗を拭った。


「あ、良かったらこれ、」

西崎が座席に置いていたクーラーバックからスポーツ飲料のペットボトルを取り出してきた。


「あ、すんません。いただきます。」

真司は素直に受け取り、キャップを捻った。

良く日焼けした喉元が、飲み物が通るたびにトクリトクリと動くさまは、健全そのものだ。


西崎は太郎をちらりと見た。太郎も視線を返す。

二人は目顔で頷き合った。


ペットボトルの中身が空になり、真司が「ふぅ、」と息を吐いたと同時に、西崎は口を開いた。


「君は今井真司君だね。橋本 俊葵君からの伝言があるんだ。」




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ