表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
沈丁花の咲く家  作者: 新井 逢心 (あらい あいみ)
69/102

ホリーホックホーリー④

その様子を見澄ましていた糺は、

「それがもし事故だったとしても、こんないわれがある島なんですからね。どうですか?断るなら今ですよ。」

と、軽い調子で言った。

更に、

「その上、これが事件だったなら、犯人と相対する可能性だってある。」

と言い添え、ニヤリと俊葵言うところのギャングのボスの笑みを浮かべた。


フッ、

西崎が我慢できないといった風に、鼻で笑った。

糺が意外そうに西崎を見遣る。


「戒田さん。戒田さんは冒頭で『僕達は、』と、何度も仰っていました。あの時には既に私と鈴木さんを巻き込んでいたのに、今更『断るなら今です』は可笑しいです。後で文句が出た時のために保険でも掛けているおつもりですか?まるでやる事が政治家ですよ。」


ぶあっ、はっははは…

糺が弾けるように笑い出した。

クスクス西崎も笑っている。

初めはキョトンとしていた太郎も釣られて笑い出した。


「負けた負けた!西崎さん。あなたの言う通りだ。僕はお二人を見くびっていたようです。すみませんでした。」

糺は立ち上がり、深く頭を下げた。


フフ、

西崎は笑って、

「いえ、」

と、軽く頭を下げる。


照れ隠しか、糺は咳払いを一つした。

「それでは改めまして、太郎さん。西崎さん。島での情報収集をお引き受けいただけますか?」

太郎と西崎はお互い微笑みして、

「ええ。」「もちろん。」

と頷いた。


それを見て、糺は頬を緩ませると、

パン、

と手を一つ叩いた。


「早速なんですが、姫島漁協の漁労長が情報を伝えて来ました。それによりますと、大野氏が頻繁に島を現れている事が分かっています。

そして、警察に確認したところによると、姫島の何処にも規制線は張られていないとの事です。

元の波間の地所に規制線が張られているという誤った情報を流しているのが誰にせよ、バックにいるのは警察本体じゃない事がこれで分かります。

その地所の現在の持ち主は、高峰 由稀世で間違いないそうです。これは二神先生からの情報です。

漁労長がその地所を部下に探らせたところ、複数の人間の足跡と車が出入りした痕跡があり、それは最近のものだったそうです。」


もたらされた情報は想定されていたものばかりだった。しかし、予想と事実とでは心算こころづもりは違ってくる。それぞれが潜考にふけった。


「一つ良いですか、」


太郎の声に、ふと我に返る。


「どうぞ。」

「戒田さんは、漁労長をとても信頼しておいでのようですが、その…その根拠を教えていただきたいと…」

太郎がもじもじとしながら尋ねた。


西崎は、太郎を勇気付けるように口の端を上げて見せる。

太郎がホッとしたように息を吐いた。


「これは、僕の説明が足りなかった。太郎さんと西崎さんには、まず、漁労長を頼ってもらわなければならないのに、関係性を知らなければ信頼関係は築けないですよね。失礼しました。」

糺はそう言って説明を始めた。


姫島群島の主な産業はミカンの栽培と漁業だが、姫島は群島の中でもミカン栽培に適した地形である一方で島の周りの海は浅く、港を作るには不向きな地形だった。他の島は天然の良港に恵まれているのに、これではミカンの積み出しも満足にできない。群島の主島としてこれではいけないと陳情を受けたのは、当時県会議員だった幸一。幸一は県を飛び超えて国に働きかけ、フェリーも接岸できる港を造る計画を取り付けた。


「そこまでは、誰もが喜ぶ話だったのですが、島の海岸では、作れる港の大きさに限りがある。フタを開けると港は、フェリーの接岸と漁港としての用途に特化した作りになっていた。」


「でも、それから間も無くミカンの価格は低迷したはずです。それに、小さな渡し船だった頃より格段に安全に島に渡れるようになった。幸一先生には先見の名があったと言えるのでは?」

とは、太郎。


「それはそうですが、経済は勢力図を変えます。村の議会には農協系の議員数を漁協系の議員数が上回った…」


「そうか。今考えると姫島小中学校でも微妙に派閥があった気がする。そもそも、お父さんと漁労長の伯方はかたさんは、祖父さんを通じて知り合ったんだもんね。」


俊葵が当時を懐かしむように言うと、糺はゆったりと頷いた。


「島の空気としてはこうです。橋本 幸一は島の名士だが、港の建設に最初に立ち上がったのは百姓なんだ。それを漁民は後から掻っ攫って、その上漁民の肩を持つなんて、先生も先生だ…」


と言うと、島民と交流のある、洋子や矢野、俊葵の顔を見渡した。

洋子と矢野は顔を見合わせ、

俊葵も過去にあった出来事を思い出したのか、コクコク頷いている。


糺はグンと体を乗り出した。

「僕達は橋本の縁者ですから、島民は表面的には歓待してくれます。しかし裏に回ると、燃えさしの感情は確実にあって、今だに、きな臭い匂いをさせているんです…」


「ほぉ、」「なるほど、」

太郎も西崎も感心して聞き入っている。


糺がニヤリと笑った。


「なーんて、いかにも自分が考えたような言い方をしましたが、これ全部、伯方さんの受け売りです。

お義兄さん抜きで食事に行ったり呑んだりする内に、聞かせてくれるようになりました。

こんな話、島の出身では無い僕の耳に入れたところで、彼には一文の得にもなりません。

これで分かっていただけますか。僕が個人的に伯方さんを信頼する理由が、」




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ