メランコリック アポロン⑯
「それ、やってくれそうな人物に心当たりがある。あ、今日じゃなかったかな…例の約束の日、」
そう言って、糺は俊葵の顔を覗き込み、肩をポンポンと叩いた。
「島に行ってくれそうな人…約束…あ、」
俊葵が糺が言った意味に思い当たり、声を上げたところで糺の携帯が震え始めた。
「あ、洋子だ。はい。うん。大丈夫だよ。うん俊葵も。そっちは?そうか良かった。ん?ああ、きっとそうだね。そっちに掛けてきてくれたんだ。ああ。分かった。僕から掛けてみるよ。明日には帰れると良いんだけどな。うんお休み。俊葵かい?替わるよ。俊葵。お母さんがお休みって言いたいって、」
俊葵に携帯を渡すと糺は、ニヤリと笑い、思わせぶりに二神を見た。
その視線を受け二神は、怪訝そうに眉間にシワを寄せる。
俊葵から携帯を返された糺は、すぐさま指を動かし、耳に当てた。
「あ、もしもし。自宅にお電話いただいていましたか?すみません今出先でして、そうなんです。それで、お電話いただいたのは、例のジャーナリストの?ああ、やはりそうですか。いま、関係者が集まっていましてね。スピーカーに切り替えさせていただきたいんですが・・・あ、ありがとうございます。」
ボタンを操作すると糺は携帯をテーブルの上に置いた。
「では、西崎さん。お願いします。」
一瞬、斜向かいに座る二神が体を固くしたようだったが、間も無く西崎が話し始めたので、意識はすぐに携帯の声に移っていった。
『はい。今日、この間お話しした友人と食事をしまして、色々と聞くことが出来たので、
早速ですが、高峰 稀世果の遺留品について、どうして友人がそれを知ることができたのか、』
「はい。」
『友人は、国会記者会館詰めの同期に聞いた話がきっかけだったと言っていました。』
「して、その詳しい出所については?』
『複数の議員の秘書としか言えないと最初は渋っていたのですが、ふ、二神さんに聞いた井野業代議士の情報を少し匂わすと、話してくれまして、』
「ほぉ、」
糺がちらりと二神を見遣る。二神は睨み返したが、俊葵と鈴木は気がついていない。
『他の右派、左派問わず複数の政党の議員秘書の間で、ある女性の話で持ちきりだったと、その中に、井野業代議士の秘書も含まれているそうですが、』
「その女性とは、高峰 稀世果の事ですね?」
『はい。ところが、後になってあの話は他言無用だとわざわざ電話がかかってきて、』
「ご友人の方に?」
『いえ。秘書から記者会の人物に、まさか他言はしていないよな?と念押しまでされたと、私の友人の方に連絡が来て、』
「なるほどね。だから中々話してくれなかったんだ。」
『ええ、そこでどうも変だと思った友人は色々聞き回って、高峰 稀世果が水死体で発見された事、遺留品の事を知ったのだそうです。』
「なるほど。西崎さん、ちょっとまってて下さい。」
『はい。』
糺は、何やら二神に耳打ちをしている。二神はすぐに頷いた。
「お待たせしました西崎さん。
ご友人が他言無用と言われたのは、高峰 稀世果が東京の女子校の構内で、売春斡旋組織を運営していた事に関係があると思われます。」
『ええっ!』
「えーっ!」「げっ!」
西崎と同時に鈴木と俊葵も声を上げた。
知らなかったと、こちらを見る俊葵に糺は目顔で謝った。
「学校に家宅捜索が入ったようだ。」
二神が幾分固い声で言った。
『そうなんですか。報道がされないので知りませんでした。
「そうそう。報道されてないですよね。ビーガン実業家の青木氏の逮捕が発端だと見られるんですけどね。この事はご友人にお知らせして頂いても構いませんよ。」
『それはありがとうございます。青木氏の件は話題になってましたね。政府の委員をいくつかしていたみたいで、』
「そうらしいですね。ところで西崎さん。そちらでの仕事の予定はどうなっていますか?」
『予定と言いますか…辞表は提出しました。先生に直接お渡しする事も叶いませんでしたけど、』
「そうですか。じゃあ、と言うのもなんなんですけど、西崎さん。こちらに来て私達を手伝って下さいませんか?」
『長井さんに聞いてみてからのお返事になりますが、それでもよろしいのでしたら手伝わせていただきます。大方、すんなりいくと思うんですけどね。』
そう言って西崎は、乾いた声で笑った。




