ダフネに捧ぐ⑪
「お三方ともご存知のようですね。高峰 稀世果。」
田村が血走った目を向ける。
「ええ。でもその話は後です。今は高峰 稀世果でしょう。この記事では果島の海岸で発見とありますが、遺体発見から三日経って身元が分かったというのは、どういう経緯で?死因は?」
二神が詰め寄ると、
田村が笑った。
「まあまあ、順を追ってお話ししますよ。
身元が分かったのは、住民の通報です。高峰 稀世果の父親が姫島小中学校に私設文庫を作り、その記念式典で、欠席した父親の代わりにスピーチした様子が村の広報誌に載った。高峰 稀世果はそれこそ稀に見る美少女だったようですね。ところが遺体は変わり果てていて、第一発見者は高峰 稀世果だとは気が付かなかった。しかし自宅にあった村の広報誌を見て、この子だと、
死因については、まだ言う段階ではないですね。」
「どうして言えないんです?司法解剖は終わっているでしょう?」
フッ、
田村がふてぶてしく笑った。
「それは、そちらの橋本 俊葵君が重要参考人だからですよ。」
は?
俊葵はそのままフリーズしてしまった。
その顔を横目で見た二神は、攻撃は最大の防御とばかりに、
「と言うことは、死因は自殺ではないと警察は考えているのですね?」
と、返したが、田村は肩を上げただけで答えなかった。
「そうでなければ、アルバイト先に二日連続でやって来るわけもないってことでしょうが、その根拠は?」
二神が変わりない調子で畳み掛ける。
「高峰 稀世果の足取りが姫島のご自宅の敷地に入って行く姿を最後に途絶えたからですよ。」
「え?姫島の俺の家ですか?」
「はい。」
田村は含み笑いを隠そうともしない。
俊葵は首を捻った。
ーーあの防犯カメラに映って以来高峰 稀世果は島の家に来ていないはずだ。一体何をしに?ーー
「それはいつのことでしょうか?」
「それも今はお答えできません。」
田村は悠々と茶を飲み、カタリと茶碗を置いた。
「じゃあ今度は私の番です。
お三方が高峰 稀世果をご存知の理由をお聞かせいただきたい。」
糺は、俊葵の背中に手を添え、
「実は以前、高峰 稀世果にストーカー行為を受けていましてね。この俊葵が、」
と、言うと、俊葵の顔を覗き込み、微笑んだ。
意外だったのか、多少驚いた様子で警察の二人が目を瞬かせた。
「姫島の家に盗聴器が仕掛けられていました。」
「私はそれ以上の行為を受けた場合について相談を受けていました。」
二神が話を継ぐ。
俊葵はそれを知らなかった。
糺を見ると口を笑みの形に上げ、小さく頷いてくれた。
「被害届は?」
「出していません。」
「なぜ?」
「だから、それ以上の行為を受けたら、と相談を受けたと言ったでしょう。」
二神が言う。
それを遮るように俊葵が口を開いた。
「男だからです。男が女性に盗聴器を仕掛けられたと被害届を出したところで恥をかくのがオチでしょう。」
ーー本当はそうじゃない。が、しかし、事実を話すのに葵を避けて通る事はできない。
今や葵とは没交渉で、葵と高峰 稀世果の関係がわからないのがもどかしい。
取り敢えず、俺の口から葵の名前を出さないように気をつけなければーー
「何かストーカー行為の証拠があると良いんですがねぇー」
田村が半分ニヤついて言う。
「取り外した盗聴器はあります。あとは、防犯カメラの映像が、なあ俊葵?」
俊葵はコクリと頷いた。
しかし、あの映像は単に鍵を間違えて差し込んだり、別の鍵を差し込んだり、側から見れば、ただそれだけの映像だ。その鍵の出所を問われれば、葵の名前を出す事は避けられない。




