ダフネに捧ぐ⑩
程なくして現れた弁護士は、名刺を取り出し、
「二神 晃澄と申します。橋本君の叔父の戒田 糺社長の会社の顧問弁護士をしております。
しかし、いきなり同行を求めるとは、未成年なら手続きを端折ってもいいとでも?警察の人権意識もまだまだ低いと言わざるを得ませんね。」
と言って一重の鋭い眼差しを警察官に向けた。
そう言われた警察官は二神と同時に名刺を取り出し、残った手で頭を掻いた。
「いやいや、ここでは部外者も居ますし、近くの喫茶店にでも場所を替えて、と思ってたところで…私、〇〇署捜査一課、巡査部長、田村 景清と申します。」
さっと腰を折り名刺を差し出す。警察官らしいその仕草がかえって慇懃無礼だ。
「ほぉ、表の自動車にはエンジンが掛かったままもう一人お巡りさんが待っているのにですか?私には今すぐ警察に連れて行くぞという風に見えましたけどね。」
「なんとも戦闘的な弁護士さんだ。これは橋本君、心強いな。ハハ、」
田村の乾いたその声を聞くだけで俊葵は心がささくれるような気がした。
秘密の保持の観点から、警察署が良いが、二神の事務所でも構わないと田村が譲歩した。
二神の事務所は、市内の中心に位置する城の内堀を見下ろすオフィスビルの中にあった。
「ほぉ〜、流石に大企業の顧問弁護士さんともなると、良いところにオフィスを構えられるんですねぇ〜、やはりあれですか、何もしなくても毎月きっちり決まった顧問料が入って来るっていう…」
窓際に立った田村は、新緑が眩しい内堀の植え込みを見下ろしながら、言いたいことを言っている。もう一人の警察官がこちらを見て苦笑いした。
コンコン、
「どうぞ。」
さっき二神が頼んでいた茶だろうと全員が振り返る。
「二神先生は優秀で引く手数多ですよ。多少割高の顧問料をお支払いしても引き止めておきたい位にね。」
そう言って茶を配り出したのは、
「叔父さま!」
「!」
警察官二人は息を飲んだ。糺は地元では名の知られた経営者だ。見覚えがあったのだろう。
「戒田社長。割高な顧問料とは心外な、うちはいつもニコニコ明瞭会計じゃないですか!」
「すまんすまん。二神先生の働きは金銭には替えがたいと言いたかったんだが、」
さっきまでの固い雰囲気とは打って変わった和やかなやり取りに、警察官二人は面食らってしまったようだ。
「たまたま打合せでこちらに出向いたんですが、警察の方がうちの俊葵に用がおありだと聞きましてね。ご挨拶させていただこうかと、」
ハァ〜、
二人は目を合わせている。
「ああ、僕はここにいる俊葵の父親ですから。未成年には親が同伴しないと、」
そう言ってにっこり笑った。
「え?」
「正式にはまだですが、養子縁組の手続き中です。」
「しくった、」
田村が小さく吐き捨てるように言った。
「聞こえましたよ田村さん。あなた達は、橋本 俊葵君が代議士橋本 幸一の孫だと知り、幸一氏が出張って来る前にと俊葵君の身柄の拘束を急いだんですね?」
うっ、
二人は言葉に詰まる。
「一体何があったんですか?」
打って変わって穏やかな声で二神が聞いた。
二人は頷き合った。もう一人の警察官が椅子の傍に置いていたビジネスバックを持ち上げると、バックを開ける前に、
「これでしょう?」
糺が何かををさっと滑らせて寄越した。
「新聞?」
日付けは五日前だ。
『若い女性の遺体。死後一週間から十日。』
二神が読み上げる。
「はいそうです。実は一昨日この遺体の身元が判明しました。」
今度は田村が自分のアタッシュケースからコピー用紙の束を取り出した。
二神、糺、俊葵が顔を寄せて覗き込む。
「高峰 稀世果…」




