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沈丁花の咲く家  作者: 新井 逢心 (あらい あいみ)
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ダフネに捧ぐ⑧

「そんな項目は、反社会性パーソナリティー障害の診断基準にない。」

怒っているようにさえ見える勢いで俊葵は言い切った。


そんな俊葵のピントのボケたところも既に知っている真司は苦笑いし、同意を求めるように糺を見遣った。


糺も笑い返し、

「しかし、パーソナリティー障害の病名間で特徴同士が重複するのが普通だって言ったのは俊葵だよ。ほらこの、自己愛性パーソナリティー障害の項目を見てごらんよ。今真司君が言った事が当てはまっているだろう?」

と言って資料の一枚を手に取り、その記述部分を指で弾いた。


「なるほど…欲望への忠実さが、自己愛の過剰にも似て、恋愛様の症状を起こすことも、あるいは…

よし、今度、深見教授に聞こう…」

俊葵がぶつぶつ言う。


その時、真司が手元の紙を丸め、パコンと俊葵の頭を叩いた。


「なるほど〜聞こう!じゃねぇよ!その前にやる事あんだろ?」

真司がキレ気味に突っ込んだ。


「ん?」

俊葵が首を傾げる。

「ん?じゃねぇわ!お前、既にストーカーされてんの!家の中まで侵入されてんの!これからどうすんだよ!」

真司は半ば呆れ顔で言った。


俊葵は掌を拳でポンと叩いた。

「そうそう、そうだよ。忘れるところだった。実はちょっと思いついてて、お前に頼もうかと、さっきから考えていたんだ。」



ピロリン、

『かかったぞ』

その短文を目にすると、俊葵は武者震いした。


あの後、小中学校の寄宿舎を出た俊葵は島の家に戻り、必要な荷物を持ってフェリーに乗った。

郵便局の仕事は真司が引き受けてくれたので、しばらく休む算段をつけることができた。

真司には、あれから島の家の監視をお願いしている。

と言ってもずっと張り込んでいるわけではなく、監視カメラを取り付け、その録画映像のチェックをしてもらっているのだ。


島の家の鍵は既に高峰 稀世果の手に渡っているだろうというのが三人の共通した認識だった。初めは、プロである真司に鍵の全取っ替えを依頼しようかと考えた。しかしそうしたところで、替えた鍵を葵に渡した途端、高峰 稀世果に渡るのがオチだと気がついた。どうせ高峰 稀世果に渡るのなら、一つ実験しようじゃないかと思いついたのが今回の計画だ。


島から出てきた真司と落ち合ってその録画を見せてもらった。

高峰 稀世果は昼間堂々とやって来て、葵に郵送してあった物と思われる鍵を鍵穴に差し込んだ。しばらく格闘した後、やっとはめられたことに気がついたのか、バックの中から、もう一つの鍵を取りだし、差し込んだ。今度はすんなり回ったが、ドアを開ける事なく玄関先から姿を消した。


そう、俊葵は鍵を替えたと偽って葵に鍵を郵送していた。

真司には監視カメラの取り付けと共に、鍵穴の周囲を適当に磨いておいてくれる様に頼んでおいた。家の中にも監視カメラを取り付けて、中で何かをしようものなら警察に突き出すネタにしようと期待していたのだが、

さすがに高峰。鍵の取り替えが偽装だと知るや、中に入る事は無かった。多分、俊葵が盗聴器に勘付いた事をも瞬時に察したのだろう。

俊葵達が探しきれなかった盗聴器の電池替えか、ブレーカーを落としたせいで、コンセント直結の盗聴器の故障と思ったか、目的は終ぞ分からなかったが、これで高峰 稀世が島の家に侵入する可能性はなくなった。

しかし、それによって俊葵が暮らす家の鍵を簡単に渡してしまうほど、葵が操られている事実が浮き彫りになり、俊葵の苦悩はますます深くなったのだった。





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