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沈丁花の咲く家  作者: 新井 逢心 (あらい あいみ)
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ダフネに捧ぐ③

俊葵は腕組みをして、一点を見つめている。

しばらくして、

「それにしても異様な会合だよね。」

ぼそりと言った。


突拍子も無い。

しかしそれは俊葵の集中力のなせる技だ。

謎解きのための果てしない問答が俊葵の頭の中だけで進められていて、問答に必要な質問をする時だけ言葉を発する。それだけを聞けばどうしたって突拍子無くなってしまうのだ。


「ん?ああ、そうだな。」

養子の件で感情的に沈んでいた糺は、すぐに反応できなかった。が、俊葵のそんな発言はいつもの事だと思い、その先を促すために相槌を打つだけにしておく。


「オーストラリアの時にさ、世話をしてくれた井上さんがね、言ったんだよ。『あなたのお祖父さまがお決めになる事は、突拍子もない事のように見えて、実はちゃんと意味があったのよ。』って、」


ーー『突拍子も無い』正に今思ったことだーー

糺は思った。


オーストラリアであったことは、既に俊葵から聞いていた洋子と矢野がコクコクと頷く。


「あの、祖父さんだよ?意味がある無しどころか、何の策略も無く高峰 稀世果を連れて行ったはずは無いよね?」


俊葵がそう言うのには根拠があった。

糺は高峰 稀世果についての情報を集めていて、それを俊葵にも伝えていたのだ。


高峰 稀世果は、一言で言うと非の打ち所の無い人物だった。

父親の仕事の関係で海外で生まれた稀世果は小学校で二度飛び級していた。しかし、地元の中学校では指導できる教員がいないという理由で通信教育を自宅で受けていた12歳の時には既に高校卒業程度の学習をしていたという

謎の転校でこの島に来てからも、児童、生徒、教職員の評判、寄宿舎での生活態度もパーフェクト。とにかく、稀世果を悪く言う人物が居なかった。


『その彼女にはエキセントリックなものを感じますね。』とは、以前から葵のことを相談している深見教授の弁だ。


「高峰 稀世果に実際に会ってみて叔父さまはどう思った?」


皆が糺に注目する中、洋子は一際ひときわ期待の篭った目で見つめている。


「どうもこうも、皆の評判通りの人物に見えたよ。」


糺は、洋子の圧力に瞳を揺らしながらも正直に答えた。

洋子が明らかにがっかりとした顔をする。


糺は洋子をちらっと目を向け、

「僕の会社の業務内容や立ち上げたばかりの新事業のことまで調べ上げていた。その話を展開させながら、絶妙なタイミングでお義兄さんにお酌したりするんだ。危うく相手が中学生だということを忘れそうになったよ。」

と言いながら肩を上げて見せた。


「ふ〜ん。」

「もう一つ、いつもと違うのは、お義兄さんの側に西崎さんが居なかった事だ。」

「それは珍しいですね。」

矢野が頷きながら言った。

普段矢野が誰かを批評するのを聞いたことがない。それほどに珍しい事だ。


「お義兄さんにそれを聞いたんだ。そしたらなんて言ったと思う?『西崎にもプライベートはあるからな。たまには休ませないと。』と言ったんだ。」

糺はおどけて目玉を天井に向けた。


糺は何も幸一を冷酷非道呼ばわりしたいのではない。

幸一に関わる人間は公務の言葉の前に、常に蔑ろにされてきたし、その先鋒を務めていたのが西崎だった。今までの西崎の扱いを棚に上げ、いかにも西崎の私生活を重んじているような発言をした幸一を揶揄せずにはいられないだけなのだ。


「ふ〜ん祖父さんがねぇ、」


「その時にな、目に入ったんだ…」」

ここで糺は急に声のトーンを落とした。

そしてテーブルに肘を突き、身を乗り出す。


この家の中にはこの面々以外誰も居ないというのに、全員が糺にならった。


「ニターっと笑った顔が、僕はお義兄さんに西崎さんの事を聞いていたんだけど、たまたま目の端に入ったんだ。その時あーちゃんと彼女は学校の話をしていた。その話の筋に関係無く彼女は笑ったんだ。ニターっと、」


俊葵は大きく頷いた。バイク乗りの糺の視野は広い。だからその場面を捉えることができたんだろう。


「とても女の子だとは思えない笑い方だった。柄にもなく背筋がゾッとしたな。」


洋子が、それ見たことかと、さらに身を乗り出した。

糺は苦笑いして、テーブルの乗せられた洋子の手の甲を指先で叩く。


「祖父さんといい、高峰といい、何を考えている…」

俊葵は唸るように呟いた。


「僕には、洋子のような鋭い直感は無いけど、演じてる顔と素顔の違いは分かる。間違いなく高峰 稀世果には裏表があるね。」

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