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沈丁花の咲く家  作者: 新井 逢心 (あらい あいみ)
25/102

違う名前⑤

夕暮れて、俊葵は鈴木の元をいとました。


『君はもう、建て前で自分を守らなくて良いんだ。だって着ぐるみだろう?僕たち。」


帰る俊葵を見送りにきた時、鈴木が発した言葉だ。これから、この言葉を何度も思い出すことになるのだろう。



その晩から、俊葵は行動を起こした。

ただしのパソコンを借り調べ始めた。写真とはどういうものか、要る道具は、その費用は?


写真には、最近台頭し始めたデジタルと、昔ながらの銀塩写真がある。デジタルカメラはその機体自体が高価で、街の写真屋でプリントしてもらうこともできるが、自分でやるにはパソコンと高性能のプリンターが必要だ。片や、銀塩写真はカメラ自体も多く市場に出ているし、ネットオークションを使えば状態の良い中古も手に入れられそうだ。プリントも言わずもがな、街には多くの写真屋がある。


ふと、プリント用品のバナーが目に留まり、クリックする。

トングから、果ては業務用の流し台まで出てきて思わず目を剥いてしまった。

銀塩写真は、カメラが安価で手に入れられる可能性が高い代わりに本格的にやろうと思えばかなりの手間と道具・・・と言うかほとんど設備・・・が必要になる。


はあ〜

ーー困った。惹かれてしまった…銀塩写真の自家プリントーー


ある意味また悩みを抱えてダイニングに向かうと、ただしが帰って来ていた。


「お帰りなさい。叔父さま。パソコン借りてました。」

「ああ、いいよ。何か熱心に調べてたみたいだな。」

「ちょっと写真の事を、」

「へぇー写真か、」


俊葵は昼間にあった出来事を洋子と糺に話した。

二人は、驚いたように顔を見合わせる。

俊葵はその反応に首を傾げた。

姫島は同じ県内の島だし、その関係者と出会ったからと言ってさして珍しい事でもない。


「あなた…」

洋子が言うと糺が頷き、俊葵を正面から見た。


「俊葵、僕らから提案というかお願いがあるんだ。」

いつもユーモアを湛えたような瞳が、今は真剣な光を帯びている。


俊葵は無言で頷いた。



話が終わると空かさず、矢野が紅茶を持ってきた。

黙りこくる俊葵を六つの目が不安そうに見つめる。


「話は分かりました…」


「よく考えて。返事はいつまででも待つから。」

と洋子。


「叔母さま、」

「はい!」

「葵共々よろしくお願いします。」

俊葵は立ち上がり、深々と頭を下げた。


「え、あ…いいの?」


戸惑う洋子が子リスのようで思わず俊葵は笑ってしまった。

俊葵は頷く。


「小さい頃から俺たちは、叔母さまと叔父さまの子供みたいに過ごしてきたからね。養子になることに全然抵抗はないよ。葵には俺が話す?」


「これは僕が話すよ。けじめはつけないとね。」

糺がホッとしたように微笑んだ。



俊葵は、写真で頭を一杯にしながら、島に帰った。

まだ何も手を付けない内から、島の家に写真現像専用の流し台や排水設備を付けたいという俊葵の話を糺と洋子は真に受けてくれた。

その許可を幸一おにいさんに取ってあげるとも洋子は言った。俊葵が養子の件をOKした報告のついでだから。と弾むような声で付け加えて、


それから、週三回の中型免許の教習が俊葵のスケジュールに組み込まれ、目の回るような忙しさだった。けれども、その合間に古本屋で写真雑誌を探したり、中古の道具屋でカメラを物色したりできるのは本島の街中ならではなので、過密なスケジュールを充実して過ごしていた。


葵はあれから、必要以上に喋らなくなったものの、遅く帰ることは無くなり、俊葵は安心していた。

また次のスクーリングの日が来た。本島に向かうフェリーの中で俊葵は葵のメールを受け取った。


『橋本の家に行きます。日曜日の夜には帰ります。』


俊葵は、ため息を吐いた。

ーーどうして、家にいる間に言ってくれなかったんだろうーー


またピコリとメールの着信。

『どうして言ってくれなかったの。養子のこと。』


俊葵は返事を打ち始めた。


ピコリ、

『私のことまで勝手に決めないで、』


打ちかけた返事を一文字ずつ消していく。

代わりに洋子の番号を押した。


「今日これからスクーリング。そう。葵、また祖父さん家に泊まるって、」

『ちょうどよかった。あなたに話したい事があって、帰りに家に寄ってって言おうと思ってたの。』

「うん。お互い、電話ではできない話なんだね。」

『そのようね。糺さんも今日は早く帰るって言うから。』

「じゃ、後で、」

『ええ、気を付けてね。』







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