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沈丁花の咲く家  作者: 新井 逢心 (あらい あいみ)
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愛される資格⑤

葵に全てを話すという俊葵の提案に、二人で出した落とし所は、

医師に相談して、goサインが出たら。というものだった。

俊葵だって何も、葵に辛い思いをさせたいわけではない。


医師、南雲なぐも医師にはすぐに連絡が取れた。葵の事が気になり、今日も携帯をこまめにチェックしていたそうだ。島に行くことも考えたが、週末は外せない学会に出席しており、週明けは診療の予約で一杯の中、何とか時間を空けてくれたという状態で、そこまでは行けそうになく、申し訳ないと言われて、洋子はひどく恐縮してしまった。

洋子は、南雲との電話を俊葵に丸投げしてきた。

ーーまあ確かに、葵にありのままを話そうというこの案は叔母さまの意見ではない訳だし、ーー

何だか良く分からないまま俊葵は、若干14歳にして、妹の主治医と対峙することになってしまった。


葵の入院中、一度挨拶を交わしただけで、特に印象のない南雲医師だったが、逆に南雲医師にとって俊葵は、もう何度も会ったことのある人のようだと言う。葵が診察の間中、俊葵の話ばかりしていたというのがその理由だが、南雲医師には、それが少し不思議だったのだそうだ。

大切な人を亡くして精神のバランスを崩し、南雲医師の元を訪れた人には、その亡くなった人の話ばかりする人と、亡くなった人のことを話すのを避ける人、大まかにその二種類に分かれるのだそう。葵は、聞かれたら話すという感じで、時に淡々と時に笑いを交えながら一葵との思い出を話したそうだ。しかし自発的に話すのは主に俊葵の話題で、葵はかなり俊葵に依存しているなと感じたという。


「だから、俊葵君も葵ちゃんに依存してる可能性を考えてたんだけど、それは専門的には、共依存というのだけど、」

「はい。聞いたことあります。」

「それは俊葵君には当てはまらない気がする。」

「そうですか?」

「だったら、葵ちゃんがショックを受ける可能性が高いと承知の上で、はっきり伝えようなんて言い出さないと思う。実際、戒田の奥様はそんな辛い事言えない渋っておられるんだし、むしろ奥様の方が君より葵ちゃんを甘やかしてる。つまり依存してるって思うよ。」


結局最後には、

「何はともあれ、診察しなくちゃ大多数の九割か残り一割かも分からないわけで、そのためには病院に来てもらわなきゃいけない。葵ちゃんに重い腰を上げてもらうには葵ちゃんを説得する必要があって、それが唯一ありのままを話す事だと俊葵君が考えるんなら、俊葵君に任せる。」

と言ってもらえた。

「ただし、説得がこじれそうだったら、すぐに私に電話して。ひとりでがんばらないで。」という、むしろ心強い条件を付けられて、


電話での成り行きがある程度分かったのだろう、洋子が不安そうにこちらを窺ってくる。

「南雲先生が俺に任せるって。葵が昼寝から目を覚ましたら話すよ。」

俊葵がきっぱり言うと、洋子が白い顔をして頷いた。


葵に伝えるべき言葉を書き出そうとペンを持つ。

共依存という言葉が頭を離れなかった。

南雲医師は葵の主治医だ。家庭環境を知ってそう言っているのだろう。


ーー俺たち家族が普通じゃないなんて、そんなのもう、とっくに知ってるーー


ーーだからこそ、家族のステレオタイプを少しでも当てはめてくる人間には、葵の説得は任せられない。

南雲先生には、生意気だと思われたかもしれないけど、これは俺にしかできないーー


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