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沈丁花の咲く家  作者: 新井 逢心 (あらい あいみ)
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愛される資格

地元での葬儀の後、納骨を済ませると、幸一と西崎は東京に戻っていった。

俊葵と葵はそれぞれの学校に登校し始めた。


大叔母の洋子は、俊葵と葵両方に以前にも増して優しく接するようになった。二人の学校と密に連絡を取るようにしていた。

俊葵は、考え込むことが多くなったように感じたが、一方の葵は、段々と以前の明るさを取り戻しているようだ。担任によると、小学校で、時々ぼんやりしているものの、友達と仲良くしているし、長い休み時間は校庭で遊んでいるという。


オーストラリアから戻り二ヶ月ほど経った頃、葵の様子に変化が見られるようになった。

やたらと眠るようになったのだ。学校から帰ると、与えられた自室にすぐに入ってしまう。おやつや夕食で呼びに行っても、いつも寝ている。

初めのうちは、洋子と家政婦が起きるのを待って食べさせていたのだが、段々と、そのまま朝まで寝てしまうことが増えていった。それでも、朝は時間通りに起き、身なりを整え、朝食も食べて登校していく。給食も普通に食べているようだ。

『成長期は、眠いものですよ。』学校側は呑気だった。

成長期のこの時期の一食は貴重だ。葵はどんどん痩せていった。

洋子は、医師に指導を仰いだ。

医師には、葵なりに生活のリズムができているのかも知れません。様子を見ましょう。と言われ、洋子も洋子の夫も家政婦も祈るような気持ちで葵を見守った。


その頃、葵に関して、俊葵は何も知らされていなかった。

それは来年受験生となる俊葵への配慮だったのだろうが、


葵の表面上正常な学校生活は長くは続かなかった。

清掃時間、室内側の窓拭きをしていたはずの葵が、二階から転落したのだ。

幸い命に別状は無かったが、すぐに緊急搬送され、手術が行われた。


右腕右足の骨折と顔の擦過傷。

真下に前の週の清掃で刈り取られた雑草が積まれままだったため、それがクッションになったのだが、葵の体型と年齢、落ちた高さの割に怪我は重いという。

その病院が偶々《たまたま》相談を持ちかけた精神科医の勤める病院だったということもあり、すぐにその医師が呼ばれた。


葵は睡眠障害を起こしていると診断された。慢性的な睡眠不足に陥っていたところ、突然深い睡眠に入ってしまい、体のバランスを崩した。落下の最中も目が覚めなかったために、大怪我になってしまったのだろうということだった。


洋子夫婦と家政婦は、葵があまりに長い時間眠り過ぎることを懸念していただけに、医師の診断が信じられなかった。

その疑念を解いたのは、俊葵が夜中に感じた振動の話だった。

当時俊葵は自室でヘッドホンで音楽やラジオを聴きながら勉強していたのだが、時折足元にトン、という振動を感じていた。その振動は長くは続かず、ランダムなものだったので、俊葵はほとんど気に留めていなかった。さらに、二人の部屋が二階に並んでいるのに対して、洋子夫妻の寝室は階下の対角側で、その振動や物音が洋子夫妻に感知される事はなかった。


俊葵の話に基づいて医師が立てた仮説は、

夜中、葵は自室内を動き回っていた。それは恐らく半覚醒の状態での行動であり、本人には昼間にやたらと眠いなという自覚しかなかっただろう。初めのうちは学校から帰ってすぐに眠れば、それなりに帳尻が合っていた。夜中の半覚醒の時間がだんだん長くなって、夕方から夜にかけての睡眠だけでは足りなくなり、今回の事故に繋がってしまった。というもので、

じゃあ治療はどうすると色めき立つ洋子に、

まだまだ病気と呼ぶほどではない。父親の死がきっかけであろうと思われるが、本人は自分の異常を自覚していない。これが長く続くようであれば投薬治療を検討しなければならないが、まだ小学生であるから、様子を見るということが一番いいと思う。とにかく目を離さないように。と付け加えるのを忘れなかった。


目を離すなという医師の命を受けて、ウイークデーは洋子、洋子の夫、家政婦。週末は俊葵が病院に泊まり込むという日々が始まった。

その間、医師の指摘した半覚醒行動らしき動きは起こることはなかった。


退院も近づいたある日、葵が島に帰りたいと呟いた。

島の学校に通いたい。あの家に帰りたいと言う。

話し合いの結果、洋子大叔母の家で起きた症状だったということもあり、慣れ親しんだ島の方が葵の精神衛生上良かろうという結論になった。


まずはもう一ヶ月学校を休ませ、洋子叔母と家政婦が島に移り、週末は俊葵も島で泊まると決めた。大叔父には、本島に留まってもらうことになった。


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