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時の宝石  作者: 李氷 仁
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第17章 癒しの石に宿るは躑躅の瞳を持ちし者

 ガーネットの守護者――睦月に招かれ、鈴たちは家に入った。

 家の中には、色とりどりの花が飾られており、落ち着いた空間となっていた。

「良かったら食べてください」

 椅子に座った鈴たちに、睦月は紅茶とクッキーを出した。

 食べてみると、それはしつこい甘さが無く、とても美味しかった。

「お味はいかがですか? それはアザレアの蜜を使っているんです」

「とても美味しいです」

 鈴が微笑んで言うと、睦月は嬉しそうに笑った。

「それは良かったです。それでは本題に入って宜しいでしょうか?」

「あぁ、構わない。ガーネットは何処にあるんだ?」

 蒼氷の問いに睦月は答えず立ち上がると、鎖のかけられた本を持ってきた。

「この中に入っています。これは守護者と箱に認められた者しか開けることが出来ません」

 鈴が受け取ろうとすると、睦月は本を遠ざけた。

「あの……?」

 鈴が睦月を見つめると、睦月は申し訳なさそうに言った。

「ですが、私がまだ守護者見習いの為、宝石の制御が出来ないんです。その為、なんというか、その、三日前、宝石が目覚めたことに驚いて、本を落としてしまい、そのひょうしに宝石が暴走して行方不明になってしまいました……」

 その言葉に鈴たちは一斉に動きを止めた。

「も、もう一回いってくれる?」

「……宝石が、行方不明になってしまいました……」

 ポロポロと涙を流しながら睦月は再び言った。

「本当に申し訳ありません! 今必死に探しているんですけれど、見つからなくて……」

「でも、箱はこの家にガーネットがあるって示していたけれど」

「それは多分、この本にガーネットが眠っていたので、その余韻を感じたのだと思います」

(それ問題だろ)

 四人の中に浮かんだのは同じ言葉だっただろう。

 初っ端からこんな状態ではやばいだろうと、これからの旅が不安になっていく鈴たちであった。


                   *


「とりあえず、町に戻って聞いて見るか。最近ガーネットを見かけなかったか」

 時の宝石以外でも、普通の宝石としてガーネットは存在する。その中から、精霊の宿ったガーネットを探し出すのは困難なことだが、やるしかないのだ。

「私ももう一度、探して見ます! これでも守護者の見習いですが、精霊の宿ったガーネットの気配を探すくらいはできます!」

 涙をぬぐい、燃える睦月。そんな睦月に鈴は尋ねた。

「何で守護者“見習い”?」

「そ、それは、前守護者だった祖母が……」

 俯く睦月。

 悪いことを訊いたのではと思い、鈴が慌てて謝ろうとしたその時。

「“シャークス一の健康で、綺麗な長寿の女性は誰だ!”というチラシを見て、それに参加するため、一ヶ月間私に守護者のノウハウを叩き込むだけ叩き込んで守護者の座を引き渡し、旅に出たためです」

 顔を真っ赤にして言う睦月。蒼氷はそれを聞いた瞬間、うずくまった。

「守護者交代するときは、交代を決めた日から最低でも一年は守護者についての知識をじっくり後継者となる人間に教えなくてはいけないはずなのに……」

 小さな声で一人、ブツブツと呟いている蒼氷。

「“まぁ、箱に認められる人なんてそうそういないし、それ以前に箱が何処にあるかもわかんないんだから形だけでもやっておけば平気よ”なんて言って旅立ったんです」

 睦月はそこまで言い、息を吐いた。

「ごめんなさい、来ちゃって……。とりあえず探しに行こう」

 鈴はそう言うと、扉を開ける。

「リンちゃん、前!」

「へっ?」

 ルナの忠告も空しく、鈴は扉のすぐ外にいた人にぶつかった。

「ご、ごめんなさい!!」

「平気だよ。怪我は無いかな?」

その声に鈴は顔を上げ、答えようとする。

「あっ」

 鈴、ジェイ、ルナは驚き、同時に声をあげた。

「ん? 僕の顔に何かついているかい?」

 男性が不思議そうに尋ねる。だが鈴たちが驚いたのは男性の顔ではなく隣の女性の方だった。

「あら? もしかしてさっきの旅人さん達?」

 それは町でジェイが、アゼレアの事について訊ねた女性だったのだ。

「ジュリア、知り合いかい?」

「えぇ、アゼル。さっきアゼレアの事について訊ねてきた旅人さんよ」

「あぁ、確かに旅人さんは町の様子にビックリするだろうからな」

 アゼルと呼ばれた男性は、その話に楽しそうに言った。

「そうそう、用事はこっちじゃないんだったわ。睦月、これもしかして貴方のじゃない?」

 ジュリアが袋から取り出したのは、ここに咲くアゼレアと同じ色のガーネット。

「えっ! ジュリア何故それを?」

「花壇からはみ出したアゼレアを片付けていたら、出てきたのよ。以前、貴方のおばあ様が付けていたのを思い出してね。貴方のことだから大方、町に来たとき落としたのでしょうけど」

 ジュリアからガーネットを受け取ると睦月はそれを眺めて、微笑む。

「確かに私のです。ジュリア、有難うございます」

「いいのよ。いつもクッキーご馳走になっているからね」

「宜しかったらお茶しませんか?」

 睦月の言葉にジュリアは言った。

「悪いんだけど、今日は遠慮するわ。これからアゼルとデートなの」

「それでは後日お礼しますね」

 笑って言う睦月にジュリアは手を振るだけして、帰っていった。


                   *


「それでは改めて、お渡しいたします。癒しの石と呼ばれるガーネットを」

 睦月の手から鈴へと渡された宝石は赤い光を放ちながら、鈴の手の中に納まる。

「癒しの石に宿りし精霊よ。その姿を見せたまえ」

 睦月の言葉と共に、宝石から、小さな人が現れる。人といっても形は殆ど無く、ハッキリと見えるのは躑躅色の瞳だけだった。

【名を】

 その声は穏やかな女性の声だった。鈴は言われるまま名乗った。

「鈴・如月」

 鈴の声に精霊は、じっと顔を見つめる。

【鈴、主に尋ねる。癒しとは何だ】

「癒しとは、傷ついたものを助ける優しく暖かいもの」

 鈴の言葉に精霊はゆるりと目を細めた。

【鈴。古の箱に認められし子よ。我、汝を認める。我が名は永遠。真の名をトワ・ガーネット】

 それだけ言い、永遠は姿を消した。


                   *


「これからの御武運お祈り申し上げます」

 見送りに来た睦月は鈴たちに言った。

「ありがとう。睦月さん」

「次は何処に行くんだ?」

 蒼氷の言葉に、鈴は箱を見つめる。箱は紫色の光を発しながら西よりの北を示す。

「こっちは確か……レフィール。っていう事は愛の石と言われるアメジストだな」

 ジェイは地図を指した。

「じゃあ行きましょう。レフィールに」

 ルナの言葉と共に、四人は空へと飛び立った。



 少女は手に入れる……癒しの石を


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