第14章 仲間
昔、精霊と人が共に暮らす村がありました。
その村には十二の精霊が存在し、村人達を守護していました。
村人に災いが訪れないように、村人が幸せでいられるようにと。
そのことに村人は深く感謝し、精霊たちが眠る場所に十二個の宝石を収め、精霊たちが好きなときに其処に宿れるように、いつでも休めるようにと、十二個の宝石が眠るための箱を作り、神殿も造りました。
それから何百年もして、精霊たちのことが忘れ去られた頃、一人の旅人が神殿を訪れました。
旅人は宝石を見、其処に宿る精霊たちを見つけるといいました。
「私は此処に昔、神殿を立てた村人達の子孫だ。私に力を貸してくれ」
精霊たちはその事にとても驚き、喜んで力を貸しました。
旅人は喜んでその場を立ち去りました。
「また必ず此処を訪れよう」
と言い残して。
それから数年後、以前来た旅人が約束どおり神殿を訪れました。
「君たちの力を貸してくれ」
精霊たちは旅人の様子が少し変わっていた事に気がつきましたが、気にせずに力を貸しました。
「また来よう」
旅人はそれだけ言い、立ち去りました。
それから十年ほど経ち、旅人が再び神殿に訪れました。
しかしどこか以前より、荒々しくなっていました。
「力をよこせ!!」
旅人の目はギラギラと光り、まるで飢えた獣が叫ぶように更に言います。
「残っている力を全てよこすんだ!! 富も名誉も全て俺のものにしてやる! よこしやがれ!!」
その時、精霊たちは気がつきました。
旅人の体に血の匂いが染み付いていることに。
それは以前来たときにもかすかに、染み付いていたことに。
精霊たちの与えた力を争いの道具として使ったという事に。
「これは我らが招いた災厄。我らの力を人が争いに利用するのなら、我らは眠りにつこう。正しく力を使用してくれる者が現れるその時まで」
その言葉を最後に精霊は宝石と共に世界に飛び散り、残された箱はそれと同時に行方知らずとなりました。
時空さえも歪めてしまいそうな力を持つ宝石を、後に人は『時の宝石』と呼び、それが収まっていた箱を『時の箱』と呼ぶのでした――。
レナンは持っていた本を閉じた。
「これが時の宝石の話だよ。伝説上、いわば神話の物語だと言われているけれど、実際に存在するんだ。時空さえも歪めてしまいそうな力を持つ宝石として。物語のとおり世界に飛び散り、眠りについているようだけどね」
レナンの言葉に続くように蒼氷は言う。
「ここからは一部の者しか知らないが、時の宝石にはそれぞれ守護者がいて、時の宝石の力を悪用されないように守っているそうだ。そして時の箱によって導かれた者のみに時の宝石を渡すようにしている」
蒼氷は言い終わると、時の箱を取り出し鈴に渡した。
「鈴、お前は時の箱に認められた。認められたものだけに、箱は宝石への道筋を教えるんだ。ためしに頭に浮かんだ言葉を言ってみろ」
箱を渡された鈴は戸惑ったが、言われたとおりにしてみた。
「古の箱よ、我を時の宝石へと導きたまえ」
その途端、箱からは光が満ち溢れた。しばらくすると光は一閃の細い躑躅色の光となり、北を指した。
「どうやら北に宝石の一つはあるようだな」
蒼氷は光を見、光の示す方向を眺めた。
「北か、確かそこは癒しの石と言われるガーネットが眠る土地だね」
レナンは地図を見ながら、ある地域を指差す。
「確か……あぁ此処だ! 北の町タクレス。此処がガーネットの眠る土地だと噂されている所だ」
「北は、四神の一人である大地の玄武が守護する土地だ。その配下である雷兎一族の隠れ里もあるはずだが」
地図を見ていたジェイは顔をあげると、鈴と蒼氷を見据える。
「俺とルナもこれからタクレスに向かう予定だったから良かったら一緒に行かないか? 伝説と言われる時の宝石にも興味があるし」
その言葉に蒼氷は顔を歪めた。
「遊びではないんだぞ」
「あんた達の様子から見て、遊びではないことは承知している。竜の蒼氷とアリアスから来た鈴、時の宝石を集めるのも何か理由があるんだろう?」
ジェイは了解を取るかのようにルナを見た。
「私達は旅をしながら伝説について調べているの。時の宝石の事や、何故ダオスに封印されたはずの魔物が十年前からシャークスに現れているのかを」
鈴はその言葉に驚き、ルナに尋ねる。
「魔物は昔からシャークスにいたのでは?」
「えぇ。十年前、突如ある町から魔物が現れ、そこを拠点として世界中に魔物が散らばり人々を襲い始めたの。その元凶である闇を倒そうと多くの人がその町に向かい、亡くなったわ。その為シャークスの首都であるシャトスに城を構えるシャトス王は、広がりつつある闇を抑えるため五つの結界石を作り、北の玄武、西の白虎、南の朱雀、東の青龍が眠るといわれる四つの地とシャトスに結界石を置き、闇の進行を防いだの。それでも闇は結界石の綻びを見つけ、そこに魔物を送り込んでいるわ。そして徐々にその綻びから力を送り込み、結界石の効力を消していってる。ある時は闇の配下と呼ばれる者達を使って殺戮を行い、ある時は力の強い精霊や妖精、人を生贄として……その大地を血で染めたわ」
ルナはそこまで言うと息を吐いた。その顔には悲しみが見えた。
ジェイはその後に続くように話す。
「今では、北と南の結界石は効力を失い、闇で覆われている。残る三つもそう長くは無いだろう。それが効力を失えば、待っているのは……世界の破滅だ」
「それを防ぐためにも、私達は旅をして魔物が現れた原因を調べているの」
ルナは持っていた鞄から、一冊の本を取り出した。
「これは、光の姫シャインが書いたといわれる光の書の写本の一つなの。とある経由で手に入れたのだけれども、この中には私たちの知らなかった事が書いてあったわ。ここよ」
ルナは本の中の一文を指差した。
【光に選ばれ 光の意思を受け継ぎし者 時の宝石操り 時の歌 歌わん
さすれば闇に捕らわれし者 闇の呪縛より解き放たれ 新しき魂へと転生せん】
「ここまでは私も幼い頃聞いたことがあったけれど、次の文は知らなかったわ」
【闇より生まれし魔物 闇の消滅と共に消え去らん
信じよ 己を 歌え 想いを込めて 信じ歌う者の上に 奇跡は舞い降りる
これが私の意思を……次代シャインとしての使命を果たしてくれる 心優しき子に贈る最後の言葉】
ルナが示す最初の文は鈴にも聞き覚えがあった。
門で蒼氷と紅蓮の話してくれた予言、それは闇を、魔物を消す唯一の手段でもあったのだ。
「鈴、蒼氷。そっちの事情は知らないが、俺たちの目的は今言ったとおり同じようなものだと思うんだ。光に選ばれ、光の意思を受け継ぎし者が誰かは分からないが、時の宝石を集めるという目的は一致している。先ほども聞いたが、もし二人が良かったら、俺たちと一緒にタクレスまで、いや、時の宝石を集める旅に同行させてくれないか?」
ジェイの言葉に鈴は蒼氷を見て、聞いた。
「蒼氷、目的が一緒ならそれでも良いと思うけれど、どうする? それと何故、時の宝石を集めるのかという事を私はまだ、聞いていないから教えてほしい」
蒼氷はゆっくりと大きく息を吐く。そして口を開いた。
「闇を、闇の姫を倒すためだ」
男は笑う……居場所を把握しながら