第13章 目的と仲間
その後、邸を後にした鈴たちは一旦レナンの店に戻ることになった。飛獣は一体しかいないので、ジェイとルナは飛獣に、鈴は竜形の蒼氷の背中に乗ることとなった。
《鈴、一応ゆっくり飛ぶけど、首の毛をしっかり掴んで離すなよ》
もちろん竜に乗るのは始めての鈴に、蒼氷は少し心配そうに鈴を見た。
「分かった。蒼氷の毛って馬みたいだし、馬に乗ってる気分で行くよ」
幸運にも蒼氷の毛は鱗ではなく、鈴は馬に例えたが、鳥の羽のような感じだったので鈴は苦もせずに蒼氷の首を掴むことが出来た。
「じゃあ、いくぞ」
ジェイの言葉と共に一行は空へと飛び上がっていった。
*
「お帰りなさい皆。お茶の用意が出来ているよ」
店に着くとレナンがおり、その手には四人分のお茶のカップを持っている。
「ふざけんじゃねーぞ! こんの似非笑顔!!」
真っ先に口を出したのは蒼氷だった。どうやらまだ衣装の件で根に持っているらしい。
「おやおや、いいじゃないか。ちょっとしたお茶目だよ。それに見苦しくは無かっただろう?」
「お前のせいで俺は、俺は……」
そこまで言うと蒼氷は体を振るわせた。
「カツラ外して服着替えても、衛兵さんから求婚された♪」
鈴が楽しそうに笑い、最後まで言い切った。
そう、それは邸を出る直前、目を覚ました邸の者と共に領主が見送りしてくれたときだった。数人の衛兵が蒼氷の前に現れ叫んだのだった。
『髪が短くて男装していても美しい貴方に、惚れました。結婚してください!』
彼らは蒼氷が男だと知らなかった。完全に女だと思い込んでいた。完璧に男だろうという格好をしていても、それは男装にしか見えなかったようだ。その言葉に蒼氷はぶち切れ、言った。
「俺は男だ、馬鹿野郎!!」
その言葉にショックを受け、灰と化した衛兵たちを尻目に邸を後にしたのだった。
「あははははっ、それは、っ、わ、笑える、くっ、話だね。ぷっ、おなか痛いよ」
その話がつぼに入ったのか、笑いが止まらないレナンだった。
「笑うな! ともかくこれは返す」
蒼氷は顔を真っ赤にしながら言うと、借りていた衣装をレナンに渡した。
「でもあってよかっただろ?これが無かったら潜入すら難しかったはずだよ」
「……まあな」
むすっとしながらもレナンの言葉は正しかったので、蒼氷は否定しなかった。
「じゃあジェイ、飛獣の代金も今貰っていいかい?」
「あぁ、幾らだ?」
ジェイの言葉にレナンは帰ってきた飛獣をじっくりと眺める。
「怪我もないし、空腹そうにも見えないな。多少汚れてるけど、こんぐらいなら問題ないね……うん、百シェイでいいよ」
レナンの示した金額を聞き、ジェイは皮の小袋の中から銀色の五百と書かれたコインを二枚取り出し、レナンに渡した。
「蒼氷、シェイってこの世界の通貨?」
鈴は蒼氷に小さな声で尋ねた。
「そうだ。大体は日本と同じだな。今、ジェイが出したのが日本での五百円だ。一シェイが一円で札は金貨、一シェイと十シェイが銅貨、百シェイと五百シェイが銀貨だ」
蒼氷が鈴に説明し終わった頃、ジェイたちの方も話し終わっていた。
「鈴、ルナに歌の意味聞きたかったんだろ? ここに座って聞けば?」
ジェイは、いつの間にか用意されていた机と椅子を指差した。
「聞いても平気?」
鈴はルナに尋ねると、ルナは優しく微笑み頷いた。
「あなた、弓使いさんにはお世話になったもの、構わないわ。その前に改めて自己紹介するわ。私はルナ・フィアスよ。好きなように呼んでくれて構わないわ。よろしくね」
「私は鈴・如月。私も好きなように呼んで。よろしくねルナ」
「そちらの竜さんの名前は?」
「俺はソウヒ・T・クローシャン。蒼氷と呼んでくれ」
自己紹介が終わると、鈴とルナは席に座り、残りの二人は外に出た。
「それじゃあ、リンちゃんの質問に答える前に説明しとくわね。私は相手の瞳を見るとその人の過去が歌となって見えるの。もちろん普段はセーブしてるから見ないけどね。でもセーブした状態でも、たまに見えてしまう人もいるわ、その人の心が過去を解き放ちたいと思うとね。今回はそれだったの」
ルナの言葉に鈴は顔をうつむかせた。それを見たルナは聞く。
「歌の意味、それでも知りたい?」
「……」
鈴は言葉を発することは無かったが、それでも首だけは縦に振った。
「リンちゃんの歌の意味はここまで言えば大体分かると思うけど、分からない場所はある?」
「……最初の永遠の未知なる恐怖 何処までも続くは大地って所が分からない」
他は分かっていた。無力な自分のせいで亮は闇の中に消えた。伸ばした手は届かなかった。でも、もう泣かない、涙を流さないと決めた。その苦しみと決意が鈴の歌には込められていた。
「リンちゃんは幼い頃、何か怖い目にあったって事は無い? 自分でも分からない恐怖を、今まで感じたことの無い恐怖を味わったことは無い? その恐怖に追いかけられて、逃げても逃げても追いかけられた事って?」
「……分からない」
「最初の部分にはそういう意味が込められてるの。リンちゃんが分からないなら、その部分は貴方が忘れているだけだと思うわ。きっと思い出したくないようなことなんだと思うから、分からないなら無理に考えない方が良いかもしれないわ」
それだけ言うとルナは紅茶を飲んだ。これ以上何も言うことが無いのだろう。
「話が終わったようなら、本題に入るがいいか?」
今まで外にいた蒼氷は中に入ると鈴たちに聞いた。
「うん、平気。蒼氷これからの目的は何?」
鈴の言葉に蒼氷は、手に持っていた箱を見せた。領主の邸で貰った時の箱を。
「俺たちはこれから十二個の宝石を捜すんだ。精霊の宿りし時の宝石を」
竜は驚く……箱の封印が解かれていることに