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時の宝石  作者: 李氷 仁
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第12章 邸に眠りし時の箱

 青年――ルードは語り始めた。自らの過去を。

「父上は民に慕われる立派な領主でした。ですがその人望の厚さから仕事が忙しく、僕たち兄弟と長い間一緒にいることがほとんど無く、母も僕が産まれたすぐ後に亡くなっていたので、僕たちの世話は乳母やがしていました。兄上は病気一つ無く元気な人でしたが、僕は病弱で外にいるより部屋で寝込んでいることが多く、乳母やもそんな僕に付っきりで兄上はいつも一人ぼっちでした。その後、兄上は誰かに構ってもらいたかったのか悪戯をするようになりました。でも誰も兄を止めることをしませんでした。兄の寂しさがそれで紛れるのならと。その悪戯は年月が経つにつれて、徐々に酷くなっていきました。数年たち、僕の体調も良くなった頃に今度は父上が病で倒れました。もう長くは無いと医者に言われた父上は僕たちを部屋に呼びました。次代の領主を決めるために」

 ルードはそこまで言うと、大きく息をはき、続けた。

「もちろん次期領主は年長者の兄上であると思っていました。ですが父上は次代の領主として僕を選んだのです。僕はもちろん兄上も驚き、父上に訊きました。父上の答えは、

『悪戯ばかりし、人に迷惑しかかけないお前に領主は務まらん』

 父上は兄上の寂しさを理解していませんでした。その言葉を聞くと兄上は僕を睨み、

「お前さえ、お前さえいなければ!」

 そう言い捨てて部屋から出て行きました。兄上の瞳は憎悪に満ちており、父上が死ねば僕を殺しそうな勢いでした。それを危惧した父上は僕に一つの魔法をかけたのです」

「魔法?」

 鈴の不思議そうな言葉にルードは緩やかに微笑む。

「はい。領主の証となる指輪と書類を入れた箱の鍵を僕の中に封印したのです。僕か一定の条件を満たす人以外、封印が解けないようにと。箱が見えて、開けられるのは心の澄んだ人だけ。そしてその箱の中に入っている指輪と書類が入ったもう一つの箱は鍵を持つ僕以外開けられません。父上の死後、その事を知った兄上は僕を殺すことが出来ませんでした。僕も兄上に鍵を渡せといわれても、決して渡すことはありませんでした。その為兄上は僕を地下に閉じ込め、一定の条件を満たすものを探すことにしたのです」

 ルードは言い終わると手を胸に当て目を閉じて、唱える。鍵の封印解除の呪文を。

「我が名はルード。前領主である父上の掛けし封印を、今ここに解き放たん」

 言葉と共にルードの体から小さな銀色の鍵が現れた。それと同時に領主の服から小さな箱が飛び出した。箱は両手に収まるぐらいの大きさに変化し、鈴の前に浮かび上がった。

「えっ?」

 驚く鈴の脳裏に一つの言葉が浮かび上がり、無意識に言葉に出していた。

「時の宝石収めし古の箱、名を時の箱」

 鈴の言葉に反応するかのように箱は輝き、輝きが収まると、そのボロボロの箱は美しい装飾の施された純白の箱へと変化していた。

 呆然と見つめていた鈴は恐る恐る箱を開けた。中には小さな小箱が入っており、それを取り出すと、箱の中は真紅の絹の布が張られた、十二個の宝石が収められそうな区切りのある、白い小さなクッションが一つ一つ置かれたものへと変化した。

「これは……時の箱か! 探す手間が省けた」

 蒼氷は鈴の手の中にある箱をまじまじと見つめた。

「蒼氷これって何?」

 鈴は蒼氷を見上げる。

「詳しいことは後で話すが、こいつは俺たちの目的に関わる物だ」

 蒼氷はそれだけ言うと口を閉ざした。

「……話、戻しても平気か?」

 会話に全くついていけなかった様子の三人のうちジェイが二人に尋ねた。

「あっ! ごめん、忘れてた。ルードさん、続けてください」

 鈴は話がそれたことに気づくとルードに謝罪した。

「いいえ、構いませんよ。その箱が必要なようでしたら、あなた方に差し上げます。それは昔からこの城にあったもので、それを真に必要としている者が現れたら渡すように言われている物ですし」

 ルードは穏やかに微笑むと、箱に鍵を差し込んだ。

「これが指輪と書類なのね」

 ルナは中から出てきた物を見た。

「はい。これが、ルナさんには大変ご迷惑をお掛けしたものです」

 申し訳なさそうにルードは言い、指輪をつけ、書類にサインした。

「これで僕が今日から正式に領主となりました。兄上には申し訳ありませんが、これ以上、父上の守ってきたものを壊されるわけにはいきませんので」

 領主……いや元領主のグレゴリーの目からは憎悪が消えうせ、ただの情けない男にしか見えなかった。欲しかったものが全て、今まで閉じ込めていた弟により消えたのだから仕方無いのだろう。

「では改めて、心から皆さんにお詫びいたします。兄であるグレゴリーの暴虐不尽な振る舞いの数々、新領主として、彼の弟として。本当に申し訳ありませんでした」

 ルードは四人の前に立つと深々と頭を下げた。

「貴方のせいではないわ。ルードさん」

 ルナはそんな彼に優しく声を掛けた。

「責任を感じることはないと思う。あんたは長い間閉じ込められていて、どうすることも出来なかったんだしな」

 ジェイも困ったような顔をしながらルードに言う。

「責任を感じるならこれから父親のように民に慕われる良い領主になればいいだけのことだ」

 蒼氷はじっとルードを見つめながら言った。

「ルードさん、貴方が止めなかったら、守護獣は私たちに襲い掛かってその隙にルナを人質に取られていたかもしれない。だから貴方が誤るよりも、私たちがお礼を言った方が良いくらいだよ。有難うルードさん」

 鈴は最後にそう言い、ルードに微笑んだ。

「皆さん……有難うございます」

 ルードは顔を上げ微笑んだ。その顔は領主となる者としての品格を持っていたのだった。



 少女は知らない……箱が少女を認めたことを


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