5.
大変、お待たせしました。
第5話です。
午後七時二分頃。アイリーンは新しくできた友人エミリーと一緒に、優三郎が来るのを待っていた。
「あ、アイリーン! お待たせ」
階段上から優三郎が声をかけてきた。
「こんにちは。僕はアイリーンの同伴者の山田優三郎です」
優三郎が腰のあたりまで伸ばした横髪を片手でサラッと肩の後ろへ翻し、アイリーンの新友に向かい合うように立ち、握手を求めた。
アイリーンの新友・エミリーは突き通るような紅色の瞳を優三郎に向けると、笑顔で握手する。
「エミリー・バレットよ。アイリーンと同じ3月の魔女なの。宜しく」
「宜しく、エミリー。じゃ、行こっか」
エミリーと優三郎の手が離れると、二人はアイリーンを真ん中に挟んで並んで歩き出す。王都では魔力が永久機関であるため、車の代わりにマントを使って瞬間移動する。そのため、歩道の概念も、車道の概念も、この魔法の世界では通用しなければ存在すらしない。
三人組は松明に照らされた大通りを歩き、男子寮と女子寮それぞれに繋がる門へと向かった。
門の前まで来たところで、エミリーが言う。
「ここまで歩いてきたけど、特に魔物らしい魔物は見当たらなかったわね」
「ちょっと待って――」
優三郎が両手で後ろのアイリーンとエミリーを庇うような動作をした。
「魔物が、魔物があと2分で来る」
優三郎が前に一歩踏み出し、背中に背負っていた鞘から妖刀を取り出し、前方の敵に向けて構える。
「君たち、確か三月の魔女だよな? 向かってくる敵の弱点は3月の魔法だ」
やれるか? との問いに、エミリーもアイリーンも頷き、背中から魔法のステッキを取り出し、構えた。
敵は、左半身が赤く燃え盛る、黒い魔物――ガルニャだった。
エミリーはよれた袖の先の――その一見、華奢ながらも力を秘めた手で掴むステッキをフル回転させて、敵へと駆けてゆく。スノーホワイトの長い前髪が風に翻る。
「……ット!!」
魔法詠唱と同時に、エミリーは敵に向けて斜め一直線にステッキを振る。すると氷の砂を纏った風が敵の周囲を囲い、身動きを不可能にさせた。
「弱らせてるうちに、アイリーン、やっちゃいなさい!」
エミリーに言われるより既に、アイリーンは背後に魔力を隠し貯めていた。その魔力をステッキの操るままに持ち上げると、敵に――ガルニャめがけて勢いよく放った。
「――メ・ルヴァーガ!」
氷の砂の風を琥珀色の魔力の塊が貫き、ガルニャを直撃した。
『グガァ……!!!』
最後の咆哮をあげたガルニャは、魔力の塊ごと消滅した。
剣を鞘に戻しながら、優三郎が呟く。
「結局出番はナシか。まぁ、お二人さんで片付けられる魔物で良かった。といったところでしょうかね」
門をくぐると、「あ、じゃあ、自分、こっちなんで。おやすみなさい」と、我先にと優三郎が男子寮へ入っていった。
「はーい! お疲れっしたー! おやすみー!」
と、気だるげに返し、手を振るエミリー。一方でアイリーンは怪訝な表情でステッキを背中に収めた。
「何か、イヤな感じね。第一印象はとにかく爽やかで優しげな感じだったのに、今じゃもう、クソヤローじゃないの」
「こら、アイリーン。レディーがそんなこと言ってはダメよ」
「そうね。……それもそうね。さ、私たちも入りましょうか」
エミリーとアイリーンも女子寮へと入っていった。