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「では、最後に、私、学城長からひとつ、皆さんに話しておきます」
入学式の最後に、学城長から挨拶があった。しーんと静まり返る中央塔内で、学城長は何を語るのか。
「皆さんに既にお願いしているとおり、通学時は必ず男性の付き添い人が必要なのですが、それは何故だと思いますか?」
生徒たちは皆、周囲を見回して、「分かる?」「わかんない」と首を横に振ったり、小首を傾げたりしている。どうやら誰もわからない――というか、知らないらしい。アイリーンも顎に手を当て、中空を睨んでいるが、恐らく知らないのであろう。
「皆さん、知らないようですね。では、理由を教えましょう」
学城長が身を乗り出し、魔法石の指輪だらけのギラギラ煌く両手で教卓をガシッと掴んだ。
「近年、王都に増加し始めた魔物の中には、女性を狙う魔物がいる為です。その名はレッドガルニャ。普通の青いガルニャより力が強いとされ、更にネックなのが、女性をターゲットにしていることなのです。それで我々教師陣で議論し、導き出した答えが、新たに出来た校則――女子生徒は必ず男性の付き添い人と一緒に通学する、というものなのです」
お分かりいただけたかしら? と学城長は首を傾げた。頭に被っているリボン付きのショッキングピンクカラーの先端の尖ったつばの広い帽子がズレた。
全校生徒たちはというと、皆納得したらしくコクコクと頷く生徒もいれば、魔物が怖いのか、不安げに青褪める生徒もいた。
「大丈夫。怖くないわ。その為に、男性の付き添い人と一緒に通学するという校則を設けたのですから。――では、そろそろ一時間目の授業が始まりますね。じゃ、解散!」
一時間目の授業は必須科目の薬草学だ。アイリーンは授業が同じ薬草学ということで、優三郎と一緒に中央塔から移動する。
「ガルニャなんて魔物、本当に居るのかしら?」
「アイリーンは魔物とは縁がないところで暮らしてきたからね」
「バカにしてない?」
「してないさ。でも、気をつけたほうがいい。特に、夕方はね」
「ガルニャの出現時間は夕方から夜にかけてなんですってね。さっき、学城長が去り際に言ってたけど」
「そうそう、あと、ガルニャは闇属性で、苦手な月は三月だったかな。アイリーンは確か、三月の魔女だから、これから魔法を学べば、勝てるかもしれないな」
「でも、強いんでしょ? 私一人では無理だわ」
「やってみないことにはわからないぞ?」
「優三郎さんがいてくれたら、勝てるかも」
優三郎の耳が少し赤くなっているのを、アイリーンは見逃さなかった。