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1000年後に、虹の瞳と旅をする。  作者: 電脳ドリル
4.5章【境界に観る夢】
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87話『無限の可能性』

リアルの変調により、昨日(22日)は予告なく投稿をお休みしましたが、23日も投稿できません。楽しみにして頂いていた方はごめんなさい。

「あぁーっと! それよりご飯も終わったしちょっと見てもらいたいことが!!!」


 そう必死に誤魔化そうとするイリスに押されて、一行はTN(テイルネットワーク)社の二階にある宿の部屋に移動した。

 四人パーティーまで泊めることを想定され、シングルベッドが両側の壁に沿って二つずつ並べられており、靖治たちが泊まるにも丁度いい部屋だった。

 床の上に荷物を置きながら、部屋の奥に立つイリスに面々は顔を向ける。


「それでどうしたんだい?」

「私のフォースバンカーについてです」


 イリスは長手袋を嵌めた右腕を見せながら言った。

 フォースバンカー。言うに及ばず無理をふっとばすイリスのワイルドカード、必殺技だ。

 右腕の内側にあるシリンダーを外部に展開し、そこにエネルギーを貯めて拳から打ち出す兵装だが、それがどうしたのだろうか。


「フォースバンカーを発動するためにトライシリンダーを展開した場合、昔の私は手袋を引き裂いてパーツを強引に露出させてました。しかしパラダイムアームズを初めて使用した際に変化しました」


 言われて靖治とアリサは初めて会った時のイリスを思い出す。

 パラダイムアームズを使用する以前のイリスがフォースバンカーを使用するシーンを、靖治は二回、アリサは一度だけ見たことがあった。


「あー、そういえば戦艦であんたとやりあった時、破いてたっけ……? 今は違ったような」

「ハイ。現在は手袋がパーツに沿って裁断された上で、装甲に布が吸着して一緒に展開されます」

「……イリスさんの体が合理的になった、ということでしょうか?」


 ナハトは話を聞くことしかできなかったが、だからこそ与えられた情報を整理して尋ねた。

 その問いかけにイリスは「その通りです」と頷き、続きを口にする。


「そして昨日、晩ごはんの時に靖治さんはこれについて言及しましたよね」

「うん、確か……」


『初めて会った時のイリスはフォースバンカーを使う時、手袋をビリビリって破ってたよね。ああいうのもカッコよくて好きだったなぁ』


 と言うことを、なんとなしに靖治はイリスに対して言ったのだ。

 別に大した発言でもないし、雑談の中の一幕として靖治はあまり気に留めていなかったのだが、どうやらイリスは印象に残っていたらしい。


「そしてその結果がこれです! トライシリンダー展開!」


 そう言うとイリスは右腕を伸ばしてグッと拳を握った。

 すると長手袋が内側から破け、バラバラに飛び散りながら右腕の装甲が開き、トライシリンダーがガチャリと音を立てて現れた。

 白い布が破片となって散らばる様に、見ていた三人は驚いて目を丸くする。


「うわ、破けた!」

「どうですか靖治さん!」

「カッコいいー!」

「やったあ!」

「いや、そんだけかい!」


 満面の笑みでガッツポーズを取るイリスに、アリサが反射的にツッコミを叩き込む。


「あんた自分のカラダ弄ったから自慢したかっただけか!」

「いえ、違いますよ? これは勝手に変わりました」

「……は?」

「へぇ?」


 機械の体を持つはずのイリスの奇妙な発言に、靖治とアリサが疑問符を浮かべる。


「元々、この体は東京の秘匿領域に隠されていた謎の義体で、恐らくは人間の意識をインストールして使用するものと思われるものを、私が勝手に使っているに過ぎません。しかし靖治さんと出会って急激に内部の機構が変化してきてるんです。他にも例えば、前の私の機体重量は180kgでしたが、現在は90kgまで減りました」

「あら、意外と重た……あっ、いえ失礼しました」


 機械に疎いナハトは率直な感想を漏らしているが、実際には驚くべきことだった。

 イリスは一見したら以前と代わりがあるように見えない、戦闘能力だって落ちているわけではない、それなのに内部重量が大幅に下がるなど普通なら考えられないことだ。


「昔の私は、せっかくの手袋が破けることが無駄だなと思って考えていて、それに合わせて機能が変化し、そして今回は"靖治さんの望みを叶えたい"という私の意識に反応して、再度変化してようなんです」


 靖治とアリサは驚きでわずかに言葉を失った。

 前々から不思議な機械とは思っていたが、『こうなりたい』という願望だけで大きく機能を変貌させるメカなど、ワンダフルワールドでだってそうそういない。

 凄まじいオーバーテクノロジーであると同時に、開発者がどうしてそのような機能を付けたのかが謎だ。普通なら、こんな機能など必要ないだろう。


「僕とイリスが出会って、まだ一週間も経ってない。それで90kgってものすごい変化だよね。その変化ってコントロールできないのかい?」

「私自身、解明できないブラックボックスが多すぎて、操作方法がわかりません。他人が作ったものをそのまま勝手に使っているだけですから」


 本人にも制御できず、持ち主の性質に合わせて変化、あるいは成長していく機械。


「……ねえ、それって何か怖くない? 要は何にでもなれるってことでしょ? 変にこじれて、化け物みたいになられたりしたら……」


 話を聞いて、アリサが肩を狭めながら不安を吐露した。

 確かに、アリサの懸念はもっともだと靖治は思う。


 大抵の機械はある目的に沿って、それに必要な機能が盛り込まれるものだ。拡張性を考えれば余分な機能を持たすこともあるが、それだって限度はある。イリスの推測どおりに元は人間が使うためのボディだとしても、その基本は変わらないはずだ。

 これほどの機能を持たされたイリスの義体がどういった目的で作られたのか。靖治はイリスの体から何か大きな意識、あるいは執念をも感じるし、使い方によっては大変な危険だろう。

 これがもし中に組み込まれた意識が、悪意や破壊意思を増大させて行けばどうなるか。それはきっと、アリサの言う通り恐ろしい存在に変貌するはずだ。


 イリスがそうなるなどありえない、とは靖治は思わない。心など、状況や環境により如何様にも変異する。

 極端な話、靖治を含めたイリスの仲間が全員惨殺でもされれば、イリスの心は暗雲に覆われ、悪逆に道に走る可能性は十分あり得るだろう。

 アリサも、イリスが手に負えない怪物に成長する可能性をわずかに感じ、警戒しているのだ。

 その警戒心を感じ取り、イリス本人も少し心細そうに眉を曲げる。


「あの」


 そこにナハトが控え目な声で手を挙げた。


「キカイというのは、よく存じませんが、単に肉体が意識に合わせて変化しただけ、ではないのですか? 善きことではありませんか、自分の心を映して成長していける体など、他にない授かり物です」

「そう思いますか!?」

「えぇ、もちろんです」


 にこやかに善説を唱えたナハトに、イリスが助かった顔をして目を輝かせた。

 しかしその光景を見ながら、アリサは「ハンッ」と鼻で笑って肩をすくませる。


「脳天気だと思うけどね、そういう何でも人のためにしましょうって誘導する言いかた気に入らねー」

「むっ、何ですか。せっかくの力なのです、ならば自分以外の人のために」

「誰もがそんなお行儀よくしてられるかってのよ、押し付けがましいってのよ。そんなもん信じたって、危険性がなくなるわけないでしょ」

「それは……そうかもしれませんが、しかしそれで悲観するわけには」


 アリサに睨まれてナハトが言いよどみ、荒れてきた空気にイリスもうろたえ始めた。

 迷ったイリスは、靖治にすがるような目を向けてくる。


「せ、靖治さんはどう思いますか!? 」

「そうだねぇ」


 靖治は一度、アリサとナハトに目を向けた。

 アリサの言う通り他人を害する恐ろしい存在になるかも知れない、ナハトの言う通り他人を助けられるありがたい存在になるかもしれない。

 両方を思案し、靖治は気軽に結論を出した。


「やっぱり僕は善も悪でもどっちでもいいさ。イリスがどんな風に成長していけるのか、それを見れるのが楽しみだな。それ以上はないよ」

「どんな私でも、ですか?」

「うん。それがイリスの選んだ道なら、僕は何だって良いよ」


 靖治はそう言うと笑ってイリスの瞳を見る。揺らめく虹の瞳のその奥深くを見つめる。

 その眼差しに、イリスはなんだか自分が包まれているかのような気がしてきて、胸のもやもやが取れるようだった。


「イリス、君には人を傷つける可能性も、助ける可能性もどっちもある。好きな方を選べばいい。君は自由だよ」


 靖治の言葉は波がなく穏やかで、その可能性のすべてを認めて良しとし、受け入れる柔らかさがあった。

 すべてを引っくるめる靖治の態度を見て、アリサとナハトも毒気を抜かれてキョトンとした顔で思わず惚ける。

 やがてアリサは苦い顔をして、仕方なさそうに首を横に振った。


「ったく、こいつが一番能天気なんだから」


 その隣で、ナハトが片翼を畳んでわずかに目を伏せる。


「自由……ですか……」


 彼女は硬い言葉の後で、ぎゅっと手を握って「……そうだと良いのですけれど」と小さく呟いていた。

 そしてイリスは、靖治の気持ちを聞いて嬉しそうに少しずつ顔をほころばせていく。


「何なら魔王イリスでもなって世界を滅ぼしたりするのも面白いかもね~、アハハ」

「もー、しませんよそんなこと!」


 突拍子のないことを靖治に、イリスが苦笑しながら彼の胸を軽く叩いた。


「でも、そうですか……ハイ、わかりました靖治さん!」

「ははは、元気になったならよかったよ」


 安心を覚えたイリスが弾けるような笑顔を靖治に見せる。

 その笑みを見て、アリサとナハトも本人が納得できたならそれでいいかと苦笑して、野暮な言葉は言ったりはしなかった。


「でもイリスのその体ってすごいよね、誰が作ったんだろーねー」

「わーっ! わーっ!! そうだ靖治さん、いい天気ですし散歩でもしませんかー!!?」

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