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1000年後に、虹の瞳と旅をする。  作者: 電脳ドリル
四章【The third edge.】
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84話『saver』

 眩い虹のような極光に包まれた彼は、気がつくと闇夜を見ていた。夏の夜の蒸し暑さを彼は感じなかった。詩人が語るような四季など、彼は頓着しなかった。


 機械の王と呼ぶべきものに追い立てられ体を砕かれた時、爆風と光線を身に受けながらも痛みを感じなかった。

 痛みの嘆きを語る情緒はなく、内側にあるのはふつふつと煮え続けた怨念だけだった。


 多数の生き物を狩り殺し、死の群れに加えて雨の中を行軍した。骨身に張り付く濡れた着物の着心地の悪さや、身を打つ水滴の冷たさを感じたりはしなかった。


 人と共にある不可思議な機械と相対し光る風に己を粉々に分解された時も、その光の輝かしさに何の感慨も覚えなかった。


 当たり前だ当たり前だ当たり前だ。自分は復讐のためにすべてを捧げたのだから。

 世界は復興した、代わりに人類は死滅した。家族は殺された、妻は凶弾に倒れた、子は飢えて病気で死んだ。

 どこにも守るべきものなどなく、地上に繁栄するのは自然との共存を讃える鉄の化物ばかり。

 地球は大切な命です。自然を大切にしましょう。だから地球を荒らす人間を滅ぼします。世界はシステムが調整して有効に活用します。莫迦な。たかが地球なんてただの石ころのために、自分の家族は諸共に殺されたのだと?


 許せなかった。赦せるはずもなかった。男は機械を憎んだ。地球とそこにある大自然を憎んだ。家族を守れなかった己を憎んだ。

 胸に掲げるは不退転の憎悪のみ。彼は禁じられた死の秘宝に手を出し、己の身を憎悪によって動かす、殺人機械よりもなおも醜い殺戮兵器へと転化させた。


 もはやかつての世界ですべてを鏖殺し返し、機械も自然もない荒廃した死の世界に君臨した彼は、そこから抜け出たことにすら気付かずなおも刀を振ろうとする。




 そして今も、街道の脇に打ち捨てられて地面に突き刺さった刀から、青白い鬼火が燃え上がった。

 地中に存在する微細な生物を吸収し肉体を再生していた。地上で活動するのに最低限の肉体を取り戻した彼は、土の中から骨の腕を突き出して這い出てきた。

 骨だけの体は既に胸部から上は修復が完了している、後は近辺の生命を狩ればすぐに元通りだ。


 何度でも何度でも、すべての生命が尽きても尚更にその先に行くまで、永久に彼の復讐は終わらない。









「怪我をしておられるのですね」


 動く白骨に過ぎない彼に、しわがれた老婆の声が届いた。

 彼がカシャリと音を立てて首を向けると、そこにいたのは肩からショールを垂らしゆったりとしたスカートを履いている、白い髪を編み込んだ独り身の老婆だった。

 杖を突いて背を曲げた彼女は、皺だらけの顔でやんわりと優雅に微笑んで。


「お疲れかしら?」


 彼は即座に行動に出た。刀の柄を掴み取ると、腕だけで身を跳ねさせて老婆に斬りかかる。

 凶刃が煌めいて老婆を殺めようとしたその時、何かが飛んできて人を斬ろうとした彼の腕を緑色の炎で燃え上がらせた。


 彼は大きく混乱しながら刃を手放してしまう。今まさに、生を捨てて以来、忘れてしまった憎悪以外の感情が蘇った。

 驚愕だ、とうの昔に感覚など潰えた体が"湯を流し込まれたかのように熱い"。


 冬の日に触れる湯船のように熱かったそれは、馴染んでくればまるでぬるま湯のようで、彼の内側をとくとくと満たしてくれる。

 封じられた意識を目覚めさせるような熱量に、彼は土の上で悶えて、燃える腕を夢中で地面へ叩きつけたが緑色の火は消えない。


「ワタシが見つけた愛の真価、それは癒し」


 老婆が足音を立てて近寄ってくる。砂を踏む音に大きく体を震わせた彼は、恐れ慄くかのように両手を振り回し、老婆から逃れようと背を向けた。

 だがそんな彼の前に蝶が浮かんでいた。ただの蝶ではない、緑色をした、炎で出来た蝶だ。さっき刀を振るおうとした彼に飛んできたのもこれだった――


 気がつけば周囲には緑炎の蝶が群れをなして羽ばたいており、音もなく舞うと這いつくばった彼に向かって一斉に飛び掛かってきた。

 彼は体中を包む熱の感覚に大口を開けて背を仰け反らせた。今なら失われた声も思い出しそうな気がした。

 骨身の内側に熱が染み渡って行く、それはうたた寝したくなるような心地よい温かさで、冷めきった心にはあまりにも熱すぎた。


 炎が宿る。熱が宿る。魂が人の形を思い出す。

 無からの再生が始まる。緑炎は憎悪を柔らかく包み込んで、静まった魂からの中から彼という存在の本質を摘み上げる。

 下半身以下の骨格が再生され、次に肋骨の中で燃える炎から鼓動する心臓が作り出された。

 頭骨の中を脳髄が満たした。血管が全身を這っていき、神経が張り巡らされ、内蔵が光沢とぬめりを持って形成し、筋繊維が骨を繋ぐ。

 高速で肉体は回帰し、驚愕にあえぐ彼の肺に新鮮な空気が取り込まれる。


「――――――オ、オォォォォォォォォォォォォォ!!!!」


 気がつけば声帯が整って声が溢れ出していた。実に数百年ぶりの慟哭が自らの胆を揺らし、いつのまにか鼓膜でそれを聞いていた。

 その再誕の過程のどれもが大胆に見えて丁寧であり繊細であり、毛穴の数からほくろの一つまで完璧に生前の彼を手繰り寄せ、彼は自らの底を見つめてきて曝け出すかのような深い愛情に恐怖した。これが心地よいことが何よりも恐ろしかった。

 眼孔の奥で緑炎が燃えて眼球が作り出されると、瞳孔に飛び込んでくる光の明滅に涙がとめどなく溢れ出た。ぬるい炎はそれを蒸発させることなく、熱い水滴が頬を伝う。


「ここは……どこだ……一体、今まで何を……何をしていんたんだ……?」


 何かを求めるかのように彼の手が空をかき、そして力なく地面を突いた。

 筋骨隆々の体から体毛が伸び始め、ボサボサの髪の毛と髭が生えた。

 彼を包んでいた炎も段々と果たして弱まってきて、再び生まれ直したかのような彼は、裸のまま呆然と地面に膝立ちになって涙を流す。

 漠然とした胸の空白に道を見失った彼の背に、老婆が囁いた。


「さぞや傷ついたのやもしれません、どうしようもなかったのしれません。あなたの心を癒せればいいけれど、これがワタシの精一杯」


 死者の蘇生にも等しい神を超えた秘術を披露しながら、老婆は至らなさに憂いを言葉に込めていた。


「旅は続きますわ。ちょうど隣が寂しいの、一緒にいかが?」


 そういうと老婆は歩きだし、彼の隣に並んだ。

 彼は、大粒の涙を流しながら喉の奥を悲しそうに震わせると、眉を曲げた彫りの深い顔を老婆へと振り向かせて目を合わせた。

 老婆のわずかに開かれた眼は、優しく澄んだ、深海のような色だった。

・章終わったし長めの後書き


 どうも電脳ドリルです、四章までお付き合いありがとうございました。

 近況ですが、自分は普段、作品の評価やブクマ件数は気にしないようにしてるんです。気にしたって増えるわけじゃないので、ヤキモキするだけだと考えてるんです。

 ただこの前精神的に疲弊してる時にブクマ件数だけちょっと見ちゃったのですが、以前より増えて16人にまでなってましたー、嬉しいー! ありがとうございます! 読んでくれてる人がちょっと増えてる事実に小躍りしました。


 というわけで三人目のヒロイン、ナハト・マーネさんが加わりまして、これで当初の予定のヒロインが全員揃いました! いやー、意外と時間かかった。

 しかし彼女、作中での描写がガバガバでしたね。髪の毛がショートだったりセミショートだったり……最近、割りと執筆状況に余裕がないからっていうのもあるんですが、一番の原因は『作品の見切り発車』にあります。


 というのもこの三人目、ヒロインの中では一番最後に作られたキャラですが、一番設定が固まらなかったキャラでもあるんです。

 別言語の夜と朝の名前、半天使にサムライソード、矛盾性いった要素はすぐ決まったのですが、細かい部分の外見設定が中々定まらず(←というかそもそも服とかに詳しくない)

 そうして作者は思ったのです。「このままじゃいつまでも設定が決まらず、ズルズルと書き出すのが遅れてしまう……そや! いっそ書きながら土壇場で考えたろ!!」

 そりゃあガバるよね! ごめんね! ただまあこの作品は「試しに長編オリSS書いてみようぜ!!!」ってノリで作ってる作品なので、こういうところも含めての実験なのです。ダメでもともと、行ったろーやないかい。

 そんなわけで髪型はショート? セミショート? と悩んで、描写し忘れてそのまま書き進めちゃったり、実は直前まで衣装についても騎士系の他にタンクトップとジーンズにするかで直前まで迷ってたりと、かなり迷走しながら書いてました。まあこれも経験だ経験!

 ついでに言うと、実は最初はナハトについてる十字のアザは胸元に付いてる予定でしたが、描写し忘れて急遽背中に移されたりしてます。でもこっちのほうがイメージにぴったりだと思ったし、セクシーなのでここは結果オーライ。


 そんなわけでここで改めて、ナハトの外見について説明いたします。「作中で語れよ!」って言われたら、ホントその通りですごめんなさいなんですが、まあしょうがないよね!(開き直り)



 身長182cm、Gカップのナイスバディなおねーさん。

 髪の毛は空のような青色に肩の辺りで切り揃えられたセミショート。眼は鋭い切れ目で、色は鮮血を思わせる真紅。

 服は体にピッチリ沿った黒のレオタードの上から、袖のない黒衣を重ね着している。へその辺りから前掛けが垂れ下がってて、腰の両側から後ろにかけてスカートが伸びており、ふとももの部分は露出していて肌色が眩しい。戦闘時には魔力で出来た白銀の鎧を各所に布の上から重ねる。

 足は堅牢なブーツで、脛から膝のあたりまでプレートで保護されている。下腕部に黒い革でできたような腕あて。

 そして背中の部分は大きく開かれていて、背の中央に大きな十字のアザがあり、交差したところのすぐ右上辺りから白い片翼が生えている。



 作者の足りない語彙を総動員してこんな感じです。太もも開いたスカートとか他にもっと言い方ある気がする……腰巻き? とにかくそんな見た目です。


 さて、次の章ですが。ヒロインも揃ったことですし、一旦箸休め的な情報整理と説明回的な、ちょっと短めの章を予定しております。

 また四日の休みを頂いて、17日の日曜日から投稿して行きたいと考えております。よろしくお願いします。


 けっこう四苦八苦しながら書いていますが、とにかくヒロイン全員揃うところまで書けて良かった良かったー。


 無能力者だけどメンタルおばけのヒモ男気味な主人公、万葉靖治。

 純粋無垢で一直線! 主人思いの自称メイドなロボット、イリス。

 ツンデレ気味なヤサグレ系少女(苦労人担当)、アリサ・グローリー。

 ちょっとばかし闇と業が深そうな美人なお姉さん枠、ナハト・マーネ。


 基本はこの四人でやっていきます。多分だけど、物語作るならこれくらいはキャラいたほうが良いよねー。

 ……ん? 応援係の主人公と、拳で戦うメインキャラと、炎系と魔法剣士系の仲間……なんかデジャブ感が……。


 あれ、これSDガ○ダムフォーs(削除)


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