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1000年後に、虹の瞳と旅をする。  作者: 電脳ドリル
四章【The third edge.】
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83話『翼の休まる場所』

 依頼人が去り、店主の強面のおっさんが腕組みで佇む前で、アリサは「うぅ~、金ぇ~っ……!」と呻きながらカウンターに突っ伏している。


「……それでは、わたくしもそろそろ」

「えっ!? ナハトさんもう行っちゃうんですか!? てっきり私たちと一緒に来てくれるかと思ってたのに!?」


 言葉を少なくしてさっと別れてしまおうとするナハトに、イリスが驚いた顔をした。

 するとナハトはむしろ自分で戸惑ってしまったように、青い髪の先を指でいじりながら言葉を返す。


「えぇその、わたくしなどがついて行っても迷惑だろうと申しますか……」


 するとアリサも顔を上げてきた。


「べっつにあんたがどこ行こうが興味ないけどさぁ、アテはあるわけ? またフラフラしてどこぞでとっ捕まるんじゃないの?」

「それはまあ、その……」


 アリサの言葉が図星だったのか、ナハトは声をか細くして視線を漂わせた。

 迷いを見せるナハトへ、靖治がゆっくりと話しかける。


「ナハトさん、僕たちはこれから京都という所で定住できないか、行って確かめてみるつもりなんだ。ナハトさんはこれからどこへ向かうつもりなんだい?」

「わたくしは……」

「あなたがどこ行こうと自由だ。だけどせっかく縁があったんだし、これからどうしたいのか本心を教えてくれないかな? それだけでいい」


 ナハトは口ごもったが、しばらくするとおずおずと口を開いた。


「わたくしは寄る辺がなく、生きる目的もありません。もしこのままお別れしても、どこへ行けばいいのか……」


 心細そうに身を片手で抱いて、ナハトは自分のことを語っていく。

 そのあいだにも靖治はやんわりとした笑みで身の上話を聞いていて、ナハトは彼の顔色を伺うように少し小さな声で嘆願を投げかけた。


「もしお許しいただければ、皆様方のお供に加えてくれれば嬉しいかなと……」

「採用!!」

「即決!?」


 願いを聞いて即、靖治は両手の親指を立てて満面の笑みでナハトを受け入れた。

 靖治の言葉を聞くと、イリスもナハトの前に歩み出いて、まだ困惑している彼女の手を両手で握ってブンブンと振り回す。


「よろしくお願いしますナハトさん!」

「は、はあ……」


 あっさりと受け入れる二人を見て、アリサが苦い表情を浮かべて水を差した。


「セイジ、あんた相変わらず軽すぎでしょ」

「だって強くて美人さんで天使で聖騎士だよ!? 断る理由なんてないさ!」

「……ナハトつったわね、やっぱあんた出てったほうが良いんじゃない? コイツ、女に戦わせといて後ろでヘラヘラ笑ってる最低の腹黒ヒモ男よ? ゼッテーコイツ、傷心の女騎士ラッキーとか思ってるわよ?」

「うん!!!」

「肯定すんな!?」

「意外としたたかな方でいらっしゃるようで……」


 アリサから指をさされても靖治は臆面なく全力で頷いて、能天気なんだか利己的なのか微妙な態度にナハトはちょっとついて行けてない様子だったが、軽く咳払いをして気を取り直す。


「ま、まあ、その程度構いません。むしろ損得勘定くらいのほうが、こちらとしても気兼ねする必要がないというもの」

「あはは、なら良かったよ。よろしくねナハトさん」

「でもコイツ、マジで弱いわよ。これからしばらく歩き旅になるけど、ずっとコイツのお守りしないといけないわけよ」

「その点については問題としません、強い者が寄り添えば強いというわけではありませんから。必要なのは人を惹きつける才能のただ一点、他は我らで補えばよろしい」

「ほほう、興味深いです! それが騎士団の教えというものですか?」

「まあそれに近いですね、流石に騎士としてやっていくのにそれだけでは困りますが、ここは軍隊ではありませんし」


 調子を取り戻したナハトは、凛然とした態度で自らの定めた価値を説く。


「力はなくとも、あなたは他人を支えられる人。だからこそわたくしは、セイジさんについて行きたいのです。セイジさんのそばだからこそ、わたくしは安らげる。あなたがあなたであってくれれば、それで我が剣を振るう理由には十分です」

「うん、ありがとうナハトさん」


 セイジがセイジだからこそ認めてくれるナハトに、靖治本人が嬉しそうに頷く。

 しかしナハトは急に不満そうなふくれっ面になり、眉を寄せて睨みつけてきた。


「ただ、その呼び方は不服ですっ」

「ん?」

「気安く呼んでと言ったではありませんか。確かに口調は砕けていますが、それだけでは寂しいと申しますか……」


 靖治はそれを聞いて「あぁ」と納得し、おかしそうに笑いをこぼすと改めて言い直す。


「ナハト、これからよろしくね」

「はい。こちらこそ、至らぬ身でありますが、ご同行を許していただき感謝します」


 そうしてナハトはようやくふわりと微笑んで、その美しさに靖治は見惚れてぽやーとしていた。

 頬を緩ませる靖治を眺めながら、カウンターに肘をかけてふんぞり返ったアリサが、そばのイリスへと呟く。


「なーんかこいつ、男相手に狙ってる感じがして気に入らんなー」

「狙ってるとは何ですか?」

「イリスはああなんないでよ」

「はい?」


 アリサの言葉に、イリスは首を傾げながらも靖治とナハトに視線を向ける。


「でも、ナハトさんが一緒に来てくれてよかったです」

「そう言えばあんたは肩並べて戦ったわけだしね、戦力が増えるなら心強いか」

「いえ、そうでなく」


 イリスはやんわりと否定して、優しい目をして言った。


「ナハトさんにとって、靖治さんといるのが良さそうと思いましたから」


 イリスの穏やかな面持ちに、アリサはちょっと目を大きくして「ふぅん……そう……」とだけ返していたが、内心こいつはこんな顔もできるんだと驚いていた。あるいは主人に似たということなのだろうか。

 ともかく、これでナハトとも一緒にやっていくことが決まったところで、靖治が話を仕切り直した。


「さて! 今日はこれからどうしようか、お金ないよね?」

「そうよ! 飯食ったらそれで終わり、今晩泊まる金もないのよ!」

「じゃあ今日も野宿だね!」

「ハイ! 就寝中はイリスがお守りします!」

「ならばわたくしは騎士団仕込みのサバイバル術お見せしましょう……!」

「セイジのバカはともかくイリスとナハト、あんたらナリは女なんだからもうちょい気にしなさいよ……ッ! あたしはイヤよ、人のいるところまで来て野宿とかーッ!!」


 張り切り用のすごい三人を前にして、アリサが苦々しい顔をして歯ぎしりを立てる。

 そうしてやんややんやと騒いでいた靖治たちご一行だったが、それまでカウンターの後ろでそびえ立っていた強面店主が口を挟んできた。


「金のことだが、依頼とは別に報酬金がある」

「えっ?」

「お前たち骨のモンスターを退治したろ」


 パソコンの画面を確認した店主は、「ちょっと待ってろ」と言い一度店の奥に下がると、何かを持って戻ってきた。


「アレに賞金がかかってたそうで、さっきの報告と同時に通知が来た。ビワファクトリータウンのマイト氏の掛けた賞金に、脅威度を査定してウチの本部が上乗せした。よって……」


 靖治が店主から受け取ったものを手の中で広げて、他の三人も覗き込む。


「「「「おおおおおおおおおお!?」」」」


 並べられた大きな額の紙幣たちに、一同は目を輝かせて歓声を上げた。

 イリスはグッと拳を握って達成感を覚え、アリサなどは拳を振り上げて店の中で飛び跳ねる。


「はっはっは、やったねみんな!」

「ハイ! これで靖治さんの生活クオリティがアップです!」

「しかもこれ、おっさんの依頼より高額じゃない! これで当分不自由しないで済むわー!」

「ふふ、良かったですね。苦労した甲斐がありました」


 喜びに浸っていた四人だったが、不意にセイジのお腹がぐぅ~と気が抜ける歌を響かせた。


「あはは、そろそろお昼ご飯だね」

「ウチの人気は日替わり定食だが、どうする」

「じゃあそれ一つ!」

「あたしも!」

「わたくしもお願いします」


 無骨な表情のまま教えてくれる店主に、靖治が手を挙げて注文し、アリサとナハトもその後に続く。


「あいよ、そっちのメイドの人は」

「私は無用です、ロボですので!」


 自慢気に言ったイリスに頷き、店主は厨房へと入っていった。

 そのまま一行は丸テーブルに移動して、時計回りに靖治、イリス、アリサ、ナハトの順番で席に着く。


「いやー。僕、自分も一緒に稼いだお金で食べるご飯は始めてだよ!」

「あんたほとんど見てただけじゃない」

「えー? 僕も頑張ったよー」

「靖治さんの援護は大変ありがたかったです!」

「わたくしも、セイジさんには助けられましたわ」

「へへん、三対一だね」

「はいはい、わかったから威張るんじゃねーっての」

「もちろんアリサも頑張ってくれてありがとう」

「っ、急に褒めんじゃないわよ! ったく!」

「ハイハイ! 靖治さん、イリスも頑張りました!」

「よく頑張ったねーイリス」

「えへへー」


 靖治に頭をなでてもらってイリスはご満悦で頬を蕩かさす。

 緩みきった顔を少し羨ましそうに見てたナハトが、あることに疑問を浮かべた。


「そういえば、セイジさんとイリスさんは特別仲が良いみたいですが、お二人ともあまり見かけない格好ですね。やはりどちらかの異世界から一緒にこちらへ?」

「いや、僕は1000年前から」

「私は300年前から絶賛稼働中です!」


 謎の答えを聞いて、アリサとナハトが目をパチクリさせて見つめ合う。

 首を傾げた二人は、首を傾げて靖治の顔を覗き込んだ。


「「1000年前……?」」

「はーい」

「です!」


 アリサとナハトの困惑とは裏腹に、靖治とイリスはのほほんと何でも無い顔で返すのだった。

4章はあと一話だけ続きます。

いつもどおり月曜日の明日は休んで明後日火曜日に投稿、そこから次の話の構想のためにまた休みを取ります。

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