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1000年後に、虹の瞳と旅をする。  作者: 電脳ドリル
四章【The third edge.】
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80話『殺戮者の輪舞曲』

・ちょっとした前書き。

 新キャラのナハトですが、作者のイメージが曖昧なせいで多少外見の描写がブレブレになってます。

 髪型がその時によって可変してたりしましたが、セミショートで固定します。ややこしくってごめんね!

 イリスが靖治と何やら話し込んでいるあいだ、ナハトは果敢に翼を広げ、戦場で刃を振るっていた。


「はぁぁぁぁあああ!!!」


 声を張り上げて、取るに足らない動物の死霊を斬り飛ばしていく。この声には己を奮い立たせる他、敵集団への威嚇の意味もあるが、敵がこれでは効果があるかは怪しいものだ。

 雑魚ばかりを倒しても勝負は決まらない、討つべきは敵の首魁だ。

 戦場を風とともに走り、敵群の中をジグザグに駆け抜けたナハトは、中央に位置する侍風の死霊に対して背後から斬りかかった。この時に声はいらない。呼吸を殺して音もなく近寄り、気配なく刃を振るう。


 しかしその音無しの剣は、侍の見もせずに後ろに向けられた刀に阻まれた。

 火花を散らす互いの刀を表情を変えずに見ていたナハトの前で、侍が首をぐりんと回して顔を向けてくる。


 対峙した二人は同時に一度引き、同時に踏み込み、同時に刃を振り下ろす。

 ナハトは右手だけ使う西洋の剣技で、侍風の死霊は両手を使い剣術で、二人の剣士は高速で斬り結び、火花が散る度に迂闊に近寄った死霊は切り裂かれた。

 その中の一振りがナハトの間近まで迫る。咄嗟に首をひねってかろうじて避けたものの、左頬に切り傷を残した。


「なるほど、単純な殺し合いの技術ならわたくしより上ですか」


 一対一での戦いでは上回るのは難しい。この死霊、死してなお恐るべき技量、あるいは執念か。


「しかし配下が有象無象では!」


 ナハトは自分に向かって振り下ろされる刀を睨みつけた。


「カースドジェイル!」


 呼んだ名は、左腕に巻き付いた長大な包帯――否、呪符の名だ。

 呪符は魔力により操作され左方向に伸びていくと、適当な動物の死霊の一体に素早く絡みつき、ナハトの前まで引き寄せた。

 身代わりにされた死霊が侍の刀を前にしてたやすく両断され、その後の隙にナハトが斬り込んだ。

 侍は上半身をのけぞらせて刃を回避するが、体勢を崩れたところにナハトが追撃を仕掛けて攻め続けた。


 ナハトが攻勢に回ると、周囲の死霊たちが活発に動き出し、首魁を援護するべく爪を立てて飛び掛かってきた。

 しかし再び伸びた白い帯がその死霊を捉えると、そのままハンマーのように振り回して侍に向けて叩きつける。

 仲間を武器にされ引き下がった侍風の死霊が再び刀を構えるが、そのあいだにナハトは敵の群れを掻き分けて高速で移動し、逆に隠れ蓑として利用し、死角から斬りかかる。

 今度は先程の奇襲と違い、威力と速度だけを重視して渾身の一刀を放つ。またしても防がれたものの、今度は刃先が敵の頭骨に触れて傷を残した。


 剣技では侍風の死霊が上、しかしながら戦の場であればナハトのほうがより手練だった。

 周囲の敵を逆に利用し、戦いを有利に押し進める。

 どうやら周囲の死霊たちは侍に従わされているものの、命令は曖昧なもので実際の動きは個々の判断力に任されているようだ。故に撹乱すれば簡単に狼狽え、足が止まっている。

 敵の一体を斬り捨て、ナハトは目を細めた。


「これならば容易い……」


 完全に死霊たちを手玉に取っていたナハトであったが、状況に変化が現れた。

 侍が腕を振り上げて支持を出すと、周囲の死霊たちが足並みを揃えて後退し、ナハトと侍の周囲を囲むように陣形を取る。


「……そう来ましたか、なるほど厄介ですね」


 他の死霊たちが壁となり、ナハトと侍との一対一の試合の場を作り上げたのだ。

 円形のリングの中で侍風の死霊は軽く腰を落すと前触れなく突撃し、地面をすり足で滑りながら急接近してきた。

 加速をつけた重い初太刀を刀で受け止めるナハトだが、衝撃に守りを弾かれる。次いで返す刀で斬りつけてきたのを、今度は左腕の呪符を盾状に変化させ、魔力でコーティングしたもので受け止めた。呪符の盾は表層を大きく斬り裂かれた、魔力によりすぐに自己再生するが、そう長くは保たない。


 ナハトはこのまま攻防を続けては良くないと判断し侍から距離を取るが、リングから脱出しようとすると死霊たちが積み重なって大きな壁となり退路を妨害してくる。

 白い骨が雑多に積もり、いくつもの頭骨がこちらを見つめて凶暴な歯を見せてくるのに、ナハトは睨み返した。


「その程度など! 風よ力を! 我が身は槍と化す!!」


 そう唱えると彼方から飛来した白い風が身を包み、ナハトはスタートダッシュを決めるランナーのように腰をかがめて前を向いた。

 彼女が行動に出る前に、侍が勝負を決めようと打って出てきたが、ナハトは構わずに自らの体を風の槍として、前方へと飛び出した。

 振り抜かれる刃を紙一重で避け、侍の真横を凄まじい速度で抜け出たナハトは、そのまま死霊の壁を力づくで貫いて雨空へと飛び上がる。

 木々の上を飛び越し、日の遮られた暗い空の下を片翼で駆ける。そのまま空に大きな曲線を描いてUターンしたナハトは、速度を落とさず敵首魁を目標として地上に突撃した。

 侍もまた、ナハトの攻撃を悟り、刀を真っ直ぐ縦に構えて、雨水の溜まった地面を踏みしめた。


「でやああ!!!」


 ナハトが低空を飛行しながら、眼下の侍へと刀を振るう。侍風の死霊もまたぬかるんだ地面を物ともせず、完璧な踏み込みで斬りかかった。

 音すら置き去りにする刹那の世界で、二つの刃が交差し軌跡だけが光を残す。

 結果はお互いに鎧と服をわずかに斬り裂かれただけに終わり、ナハトは敵のいない場所で翼を羽ばたかせると、膝をついて着地した。


「これでも決め手になりませんか、となれば……」


 いよいよ奥の手か、そう考えながら立ち上がろうとするナハトだったが、急に膝から力が抜けて体が崩れかけた。

 目を丸くしたナハトは、刀を杖代わりにして体を支える。衰弱した身でいきなり極限下の戦闘に出たのだ、もう限界がそこまで近づいている。


「くっ……!? 敵を前にしてなんと情けない!?」


 苦々しい表情で自分を叱咤するが、それで状況が良くなるわけもない。

 このナハトに対し、勝機とみた侍は多数の死霊を背後に従えて一心に突撃してきた。

 刀を構えた侍を筆頭として押し寄せる骸骨の雪崩に、ナハトは苦しそうに顔を歪めながらも、重い体に鞭打って立ち上がる。


「ならば……刺し違えてでも……!」


 どんな教えを受けたのか、ナハトは一度戦場に出たからには命を懸ける気でいた。十字架を背中に刀を強く握る。

 二つの力が激突しようとするさなか、その横から駆けつけた者がいた。


 イリスが虹の瞳に力を込めて、この戦いに再び参戦してきたのだ。


「さあ、名はあの人が与えてくれました! 準備は良いですね私の剣!」

『機体名の登録が完了しました システムアンロック』


 迷いのない声で、雨粒を蹴散らして一直線。右手に持った白い小ぶりの剣を、左脇から後ろへ流すように振りかぶる。

 颯爽と駆けていくイリスの姿を、後ろから靖治が見ていた。


「名前は力だ、しっかりと呼んであげてイリス」


 彼の目の前で、イリスは声高らかに名を唱えた。


「機械剣ライジングブライト! グロウアップ(起動せよ)!! 力を見せて下さい!!」

『ラジャー』


 ライジングブライト、そう呼ばれた剣の根本でセンサーが緑色の光を灯して、全体が白い光を薄っすらと放ち始める。

 光は強さを増し、やがて無数の針のように研ぎ澄まされ、プリズムから抜き出た虹のような彩色を描いてから、イリスは剣を振り抜いた。


「ブライトインパルス!」


 剣の内部に組み込まれた斥力発生装置に撃鉄がガチリと落とされた。

 刀身から発振された透明の波動が、大気を歪めながら打ち放たれ、侍を含む死霊の群れを横合いから吹き飛ばした。

 斥力波に飲まれた多くの死霊たちが手足をバラバラにもぎ取られて行き、侍風の死霊も踏ん張りきれず宙を舞った。


「まっだまだー!!!!」


 イリスは止まることなく剣を振るい、次々と斥力派を打ち放っていく。

 剣が煌めく度に斥力波がゴウゴウと暴風のように吹きすさび、群がっていた死霊たちを片っ端から打ちのめす。

 幾度となく波動を放ち、やがてイリスが剣を下ろした時には、周囲に残っている敵は首魁である侍風の死霊ただ一体のみとなっていた。


「これでスッキリしました!」

「……どうやら、形勢逆転ですね」


 グッと拳を握りしめるイリスの隣に、立ち直ったナハトが肩を並べる。

 孤立した侍風の死霊は、おびただしい骨の瓦礫の中で、しかし戦意を失うことなく二人へと虚ろな眼光を向けていた。

本当は明日は休みの日ですが、連載内容的に区切りが悪いので、今週は明日も投稿し、替わりに休みを明後日に回します。

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