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1000年後に、虹の瞳と旅をする。  作者: 電脳ドリル
四章【The third edge.】
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77話『銃を向ける意思』

 イリスが侍風の死霊と戦っているあいだ、靖治とガンクロス夫妻、そして生き残った馬車馬は異空間から取り出した木箱で急造した防衛網の中に立てこもっていた。

 そこで銃を握りながら仲間の戦いを見ていた靖治は、雨に打たれながら小さく呟く。


「……苦戦してるな、イリス」


 イリスが敵の首魁と戦ってくれているおかげか、他の死霊たちも大半がイリスの戦っている場所に集まっているが、それでも靖治たちのほうへ来る敵も多い。

 それらにはアリサが陣地の前に立って対応してくれているが、彼女も消耗しつつある。


「っ……まだまだぁ! 掛かってこい雑魚ども!」


 雨と霧が混ざった空気の中で、片腕の魔人を使役するアリサが必死に声を張っているが、息苦しさが垣間見える。

 敵が来るたびにアリサは魔人アグニを作り出し、撃退しては能力を収めるのを繰り返している。そうやってアグニの使用を最小限に抑えないと、雨が霧になって周りが見えなくなってしまうのだ。

 しかし機械の電源をオン・オフ繰り返すと電力の消費が激しいように、この能力の使い方はアリサにも負担が大きい。このままでは押し切られてしまうかもしれない。


「……ガンクロスさん、銃を貸してくれませんか」


 靖治が辺りを警戒しながらガンクロスに肩を寄せ、慎重に口を開いた。

 お互いに別方向を警戒しながら、ガンクロスが言葉を返す。


「あぁいいぜ、こんな事態だ四の五の言ってられねえ。とりあえず使いやすいアサルトライフルでも……」

「いえ、できるだけ貫通力が弱いのをお願いします。イリスを巻き込んで撃っても大丈夫なように」

「……おめえ」


 発言の内容に、ガンクロスが顔をしかめて耳を傾けた。

 声だけで心の奥底を探ろうとする彼に、靖治は隠すこともなく淡々と意思を並べていく。


「敵は骨で出来ていて軽い、威力が弱い銃でも体勢を崩すくらいは出来ます。イリスは頑丈ですから、敵と重なった瞬間に撃てば相手の隙を作れる」

「駄目だ駄目だ、男として賛同できんぜそれは! 大事な仲間を撃つなんて大間違いだ!!」


 しかしガンクロスは、正義感から大声を上げて靖治を批難した。

 傍でメメヒトや馬が心配そうに見つめる前で、ガンクロスは状況も忘れて訴えかける。


「確かにこの場を切り抜けることだけ考えたら得策だろう。でもそれは、あの嬢ちゃんを使い捨ての道具と同列に扱うってことだ!!」

「あなた、でもこの状況じゃ」

「そうだけど」


 ガンクロスが激しい剣幕で怒声を散らすのを、靖治は息遣い一つ変えずに聞いている。

 思わず苛立ちそうなほど平静な靖治に向き合ったガンクロスは、行きずりの同行者に過ぎないはずなのに、まるで自分のことのように心を絞る。


「お前、一緒に旅してられなくなるぞ」


 誠心誠意の言葉が冷たく響いて、雨に濡れた肌に染み込んでくるようだった。

 雨音がうるさくて、戦いの音が遠くに聞こえる。まるでここだけ世界から取り残されたかのように停滞して感じた。

 わずかな空白のあと、靖治は振り向いて優しい目で笑みを浮かべて振り返った。


「あなたがそう言ってくれる人でよかったです」


 盲目のガンクロス相手にどれだけ笑顔を浮かべたところで意味はないが、それでも本気で叫んでくれた彼のために、靖治は全身で気持ちを表すようにして話した。

 声は穏やかで、なのに芯があり、こんな状況下でありながら底が見えないほどの人間味に溢れていて、ガンクロスは思わず生唾を飲んだ。


「でも男ととか女とか、正しいとか間違いとかは関係ありません。いざという時は、イリスごと撃ってでも生き残る道を探すと、彼女と約束しました」


 言葉の終わりに、靖治は再びイリスが戦っている方へ向いて、瞳に少しばかりの力を込める。

 激しくはない、けれども雨風の中でも決して消えぬ静かな炎を心の奥に宿して、靖治は前を見つめる。


「例え後で後悔することになっても、イリスと本気で誓いあったことだから、僕はそれを護ります」


 言葉は柳のようにしなやかで、何者も通用しない独特の理屈で満ちていた。

 わが道を生きる靖治に、今まで様子を見ていたメメヒトが、夫に短く話しかけた。


「……あなた」

「あぁ、わかったよ。ったく」


 その一言に、ガンクロスは苦い顔でワークキャップのツバを摘んで深くかぶる。


「お前と機械の嬢ちゃんとの関係だ、これ以上は口出ししねえ。つかできねえ」


 靖治の頑なさを前にして、ガンクロスは諦めて頭を振る。そして口を大きく開くと、異空間から所望の物を吐き出した。

 箱を継ぎ合わせたようなシンプルなフォルムの銃。


「UZIだ、拳銃弾を使うこれなら、機械の装甲は貫かねえだろ」

「ありがとうございます」


 UZIは短機関銃の一つで、単純な設計をしており作動不良が起こりにくく、操作性も良い傑作だ。


「マガジンは50発の長えやつ出してやる、ちょっと待ってろ」


 そう言ってガンクロスは弾がたんまり詰まった長身のマガジンを二つ吐き出して手渡した。

 靖治は片方を装填し、残りを学生服の裏ポケットにしまい込む。

 だが、イリスの援護に向かう準備をしている時に、街道から外れの茂みでバクンと何かが開くような音が鳴った。


「! トランクが開いた……!」

「えっ!?」


 聴力に優れたガンクロスがいち早くそれに気付き、靖治も驚いて雨の中を見渡す。


「あっちだ! オイオイまさか、ここで出てくるなよあの姉ちゃん!」


 ガンクロスが指を差した方に目を凝らすと、確かに草の影に青髪の頭が現れるのが見えた。

 トランクルームの異空間から休ませていたはずのナハトが外に出てきて、震えながら草の上を這いずっていた。

 イリスが戦っている場所からほど近い位置だ、このままだとすぐに他の死霊にやられてしまう。

 そう判断した靖治は、受け取ったばかりのUZIを握りしめた。


「僕が行きます」

「あっ、オイ無茶すんなよ坊主!」


 ガンクロスたちを置いて、靖治は防衛網を飛び越えて行った。


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