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1000年後に、虹の瞳と旅をする。  作者: 電脳ドリル
四章【The third edge.】
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68話『靖治くんはプレイボーイ?』

「いいかしらセイジ、野宿で寝る前の準備は重要よ。濡れタオルで体を拭いて汚れを取る! パンツとか靴下とか着替えれるもんは着替えて、夜のうちに干して乾かしとく! しっかり準備してしっかり寝てしっかり疲れを取るのよ!!」

「ほいほーい」


 夜になれば馬車は足を止め、一行は野営の準備を始める。

 街道を行く途中で足を止めた馬車のそばで、焚き火がパチパチと音を立てながら燃え盛る。

 灯りのそばで、経験豊富なアリサがテキパキと手を動かしながら指示してくれて、靖治もそれに従って手を動かしていた。

 そこに街道脇の森から枝を抱えたイリスが、肩から葉っぱを落としながら現れる。


「アリサさーん、枯れ枝を取ってきましたー!!」

「そこ置いときなさい。次はこの洗濯紐結んで服吊るせるようにするわよ。どうせあんたやったことないんでしょ? 面倒だけど教えてあげるからさっさと覚えなさい」

「かしこまりました!」


 アリサはイリスを呼んで木々のあいだに紐を吊るし、靖治は荷物から寝袋や洗濯に使う桶などを取り出していた。


「ほんっと、このパーティで最初の依頼主が気安い人らでよかったわ。うるさい野次飛ばしてこないから黙らす手間が省けるし、馬車だから楽だしイイこと尽くめね」

「だねー」


 イリスやアリサはともかく、明らかに素人な靖治にもガンクロス夫妻は不満を言ってくることもなく、むしろ好意的に迎えてくれている。こんなに楽な依頼はそうないだろう。

 そんな二人の話を聞いていたイリスが、不思議そうに口を挟んできた。


「そんなにいい人たちなのですか?」

「いい人っつーか、楽ってゆーか……」

「あまり出会ったばかりの人を期待をかけるような信じ方をするもんじゃないけど、穏やかな人たちではあると思うよ」

「お前がそれを言うのか……」


 初っ端からアリサへ信頼の証を立てようとしてきた靖治に、アリサは呆れた顔をして呟く。

 靖治の言葉を聞いたイリスは、幾度か頷くと、得心して声を弾ませた。


「穏やか、ですか……そうですね。でもメメヒトさんはおしゃべりです! 色々お話してくれました!」

「へえ、どんなこと?」

「ガンクロスさんとの思いで話や、好きな景色なことなど。とても興味深かったです!」

「そっか、良かったね。後で聞かせてよ」

「ハイ!」


 三人が話し込んでいると、停止した馬車の中でトランクがバカリと音を立てて開くと、中からメメヒトがお盆を持って現れた。


「みなさーん、お夕食ができましたよー!」

「おっ、きたきた!」

「イリス、配膳を手伝おう」

「了解です!」


 靖治たちはメメヒトからお盆を受け取り、焚き火の周りを囲むように料理を置いていく。

 湯気を立たせるクリームシチューを見て、アリサが両手を叩いてご機嫌に頬を緩ませた。


「いやー、タダ飯まで貰えるなんて、ホントツイてるー♪」

「お二人ともありがとうございます」

「いいってことよ、飯はみんなで食ったほうが美味いしな」

「うふふ、イリスちゃんたちのおかげで、こんなに楽しい道中は久しぶりだもの」


 ガンクロス夫妻を交えて、五人での夕食が始められる。

 しかしながらただ一人、イリスだけは自分の前に並べられたお皿にキョトンとした顔をしていた。


「あの、こちらのお皿はどなたのでしょうか?」

「あら? もちろんイリスちゃんのぶんよ?」

「えっ? でも私に食事の必要はないと、お伝えしてたはずですが……資源の無駄ですよ?」

「無駄じゃないわ。私の作った料理をイリスちゃんが食べてくれる、それって素敵なことよ?」

「そうなのですか靖治さん?」

「きっとそうさ」


 イリスの眼差しが靖治に向けられ、靖治はそれを受け止めて優しく頷いた。

 やり取りを見ていたガンクロスも、サングラスの下にニヤニヤとした笑みを浮かべながら快活に口を挟んでくる。


「そうそう食っちまえ機械の嬢ちゃん! メメヒトは押しが強いから折れたほうが早いぞ!」

「食うのが辛いってんなら別だけどね、そん時ゃあたしが食ってあげる♪」

「いえ、食事機能は正常に行えますので問題ありません。そこまで言うのでしたら……」


 周りの勧めを受けて、とりあえずイリスはスプーンを握ってみる。

 皿の中のシチューを掬い上げ、慎重に口に運んで、舌の上で転がしてみた。


「どうかしら?」

「成分を検出したところ、栄養価が高く、非常に健康的な料理だと思います!」

「本当? やったわ、イリスちゃんのお墨付き貰っちゃった♪」


 メメヒトの喜ぶ顔を見て、他の面々も食事を頬張り始める。

 靖治はまろやかなシチューの味に目を輝かせた。


「うーん、こりゃ美味しい! メメヒトさん、料理上手ですねー」

「だろだろ? いい嫁さんだろ? オレのだからこればっかりはセイジの坊主にもやれねえなぁ!」

「あらやだ、あなたったら」

「ふーん、まあまあね」

「アリサもすっごく美味しいって言ってますよ」

「言ってねえし!?」


 賑やかな食事の中、イリスが靖治に肩を近づけて小さな声で尋ねてきた。


「靖治さん、こういうのが『美味しい味』なんですか?」

「うん、僕にとってはね」

「では美味しくない人もいるのですか?」

「少ないだろうけど、世界中探せばいるとは思うよ」

「むむ……美味しいとは難しいですね」


 そう言いながらも、イリスはイリスなりに、メメヒトから貰った料理と真剣に対峙して食べていた。

 一生懸命に口を動かすイリスを靖治は穏やかな顔で見守っていて、その息遣いと眼差しに、ガンクロスとメメヒトの夫婦も心が安らぐ想いだった。


「あなた、セイジさんとずっと居たみたいですが、どうでしたか?」

「あぁ、けっこう筋がいいぜ。練習すればいいガンマンになれそうだ、まあオレほどじゃねえがな!」


 昼間の射撃のことを思い返しガンクロスが楽しそうに笑った。

 しかし話を聞いたイリスは目を丸くして、靖治へ顔を勢いよく向けてきた。


「靖治さん、ガンクロスさんから銃を教わったのですか!?」

「うん、撃ち方から整備まで一通り教えてもらったよー。どうしたの?」


 返答を聞いて愕然とした顔をしたイリスは、スプーンを皿の上に落として銀髪の頭を両手で抱え込んだ。


「わ、私が靖治さんに教えようと思ってたのにぃ~!!」


 機械の少女の悲痛な悲鳴を聞いて、一同に気まずい雰囲気が流れる。


「あ~……ごめんねイリス」

「ワリぃな嬢ちゃん、横取りしちまって」

「むぅぅぅぅぅ……悪くはないです、悪くはないんですけど。靖治さんってば……靖治さんってばもう~……! 胸がモヤモヤします!!」

「あらあら」


 そっぽを向いてへそを曲げてしまったイリスを眺めながら、メメヒトが微笑ましそうに呟きを漏らした。


「ごめんねイリス、どうか許してよ」

「むぅー、知りません! 許しますけど!」

「許すんかい」


 拗ねながらも甘々なイリスにアリサがついツッコミをこぼす。


「今度、何か埋め合わせするからさ……そうだ。ご飯食べさせてあげるよ、口を開けて」


 靖治はイリスのスプーンに手を伸ばすと、シチューを掬い上げて彼女の口元に近づけた。


「はい、あーん」

「むっ…………あー、ん……」


 イリスは不服そうにしながらも、チラリと差し出された料理を見て、仕方なくと言った様子で口に含む。


「どう、美味しい?」

「……わからないです、だからもっとお願いします」

「うん、どうぞ。あーん」

「あー……」


(懐かしいなぁ。姉さんが機嫌悪い時も、こうすると元気になったっけなぁ)


 靖治は過去を思い出しながら、イリスの機嫌を取る。イリスも段々と態度が軟化してきて、次第に笑顔で靖治が差し出してくれるご飯を食べるようになっていく。

 その様子を前にして、ガンクロスとアリサは微妙な表情をしていた。


「……なんか手慣れてんなぁ」

「おっさんもそう思う?」


 靖治へプレイボーイ疑惑があがりつつも、楽しい夕食は続いていった。

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