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1000年後に、虹の瞳と旅をする。  作者: 電脳ドリル
四章【The third edge.】
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66話『ガンクロスの秘密の箱』

 夏の暑い日差しの下、林の隣に沿うように続く街道を、幌馬車――幌という防水布で車両を覆った馬車――が北西に向けて進んでいく。

 街道と言っても千年前と違いアスファルトで舗装された立派な道ではない、それらが風化や破壊などで跡形もなく消え去ったあと、再び作られた土を平らに均して作られたものだ。

 多くの者に踏み均された道を、二頭の馬の蹄と、馬車の隣に並んで歩くメイド服のロボット少女、イリスが踏みしめる。


 時速10km足らずで走る馬から手綱を引いているのはメメヒトだ。彼女は馬車の上から並走するイリスへと話しかけた。


「乗らなくていいんですかイリスちゃん?」

「大丈夫です! この程度の負荷ならなんともありません、何十キロでも走れます。ロボですので! 周囲の警戒はしたほうが良いですし、馬の負担は少ないほう良いはずです」

「ふふ、ありがとうね」


 靖治たちが受けた依頼は一緒に旅することではなく、ガンクロス夫妻を護衛することだ。使命を果たすべく、イリスは全身全霊を以てして小走りで馬車に付いていく。

 天井と左右を防水布に包まれた狭い幌馬車の中では、ガンクロスが、その向かいには靖治とアリサが腰を下ろして向かい合っていた。


「……なんかさ、荷物少なくない? この中」


 アリサが眉を潜めて車内を見渡しながらそう尋ねた。

 ガンクロス夫妻は流れの銃職人とのことだが、馬車の中にはほとんど荷物がない。せいぜいが木箱の一つ程度で、他にある荷物と言えば靖治とアリサが持ってきたバッグだけだ。

 疑問に対し、ガンクロスは含みのある笑みを浮かべた。


「そこらへんはシークレットだ。それより旅のあいだダンマリってのもナンセンスだ、なんせオーサカから他の街へはけっこう遠いからな」

「まあそうよね。基本的にデカい空間結界の周囲は干渉して同種の結界は張りづらいから、オーサカクラスの街になると近場に他の街は作れないし」


 相槌を打つように口を動かしながら、アリサはチラリと靖治を見つめてきた。どうやら世間知らずの靖治のために、自然に解説してくれたようだ。


「そうだそうだ、っつーことで何か話そうじゃねえか」

「おっ、じゃあこっちから良いですか?」

「よぉし、セイジ少年カモ~ン!」


 早速手を挙げてきた靖治へ、ガンクロスが調子良さそうに両手の人差し指を差してきた。


「銃職人って言ってましたよね、どんなのを売ってるんですか?」

「ハンドガンから施設防衛用のガトリングまで、火薬で鉛玉ぶっ飛ばす銃なら大抵のモンは揃えてるぜ。そういった扱いやすい武器を、自分で戦う能力がねえ庶民に売って回るのがオレの趣味さ」

「売りモンどこにあるのよ」

「それぁ秘密だ」

「でも、どうして護衛を雇ってまで街から街へ? どこかの街に腰を据えて商売したほうが安全ですよね」

「いいトコつくねぇー坊主。そいつを話すにはオレの経歴をちょこっと説明しなきゃなんねえ」


 そう言うと、さっきまで軽い笑いを浮かべていたガンクロスが、口調を落ち着かせてゆっくりと語り始めた。


「オレは元々、他所の世界から転移してきた組でな。元々銃職人の家系だったんだが二十歳頃にこっちにやってきて、メメヒトん()に助けられた。そっからしばらくメメヒトの親父さんとお袋さんの元で畑耕して呑気に過ごしてたんだが、村がやべえモンスターに襲われてな、オレとメメヒト以外全員死んじまった」


 話の途中、ガンクロスがサングラスを外した。白く濁った眼球がどこに向けられるでなく開かれている様子が、靖治たちに見せられる。


「オレが視力を失ったのもそん時だ、それからよく思っちまうのよ、村に銃がアレばなんとかなったかもしんねえってな」


 視点の合わない目を眺めながら、アリサが膝から頬杖を突きながら退屈そうに口を開いた。この程度の不幸、彼女からすればありふれた話だ。


「でも銃がアレば助かったなんて希望的観測すぎない? 武器があろうと全滅する時はするでしょ」

「嬢ちゃんの言う通りだ、実際のトコどうだったかはわかんねえ。だがどっちにしろ、その時のことが楔になってオレの胸から外れねえ」


 静かに語りながら、ガンクロスがサングラスを掛け直す。


「こんな世界だ、弱いやつほど武器が必要だ。あくせく働く農夫、肝っ玉のお母ちゃん、ちっこい村で暮らすご老体。銃ってのはそんな人らにほど渡るべきもんだ。だからオレは、そういうやつらに向けて、できるだけ強くてタフな安心できる銃を安値で売って回ってんのさ」


 靖治はこの話に対し、感心するでもなく、馬鹿にするでもなく、興味深そうな顔をして聞いていた。

 話が終わり、ガンクロスはまた得意げな顔を浮かべて、靖治へと期待を投げかけてきた。


「どうだ、良いやつって思うかい?」

「いえ、僕は善悪とかはあまり興味ありませんから、どうせみんないつか死ぬわけですし」

「ありゃ!?」


 そっけない返事にガンクロスが調子を崩されてガクンと首を落とした。

 隣のアリサは「あーあー、こいつはクライアント相手にこいつはもう……」と半ば諦めた顔で呆れていた。


「ず、随分乾いたこと言うなぁ。いい子っぽそうなのに」

「良いとか悪いとか、世間的な沙汰はどうでもいいんですよね。是非については当事者のお客さん方が決めることだと思いますし。自分が関わることでなければ、善も悪も僕の中では変わりないです」

「案外ズバッて言うなぁ……」


 何を言うにもマイペースな靖治に、ガンクロスは少し苦い顔をしている。

 そんな彼に、靖治は続けて淀みなく言葉を続けた。


「でも、いつか終わる命だからこそ、好きなことをしてる人の姿は見ていて胸がワクワクする。その人がどんな姿で立っているか、もっと見ていたいって思える」


 意表を突かれた顔をするガンクロスに、靖治はニヤリと口端を吊り上げる。


「自分の過去と向き合って、やりたいことを探して実行できてるガンクロスさんは、カッコよくて好きですよ」

「ナッハッハ! そうかぁ! 言うなぁ坊主! そう言われちゃあ悪い気はしねえ!」


 靖治の態度から、世辞などよりよっぽど心のこもった尊敬の念を感じ取り、ガンクロスは調子を取り戻して笑い声を馬車に響かす。


「いやいや、上辺だけかどうか試してみたが、いらねえ心配だったみたいだな」

「用心深いんですね」

「まあな、オレビビリだし。手の内を見せる相手は二度三度試さねえと安心できねえ」

「手の内?」

「疑った詫びに面白いもん見せてやる。驚くなよぉ~?」


 ガンクロスがそう言って唇に人差し指を立てた。

 靖治とアリサは何だろうと興味を引かれ、口を固く結んでガンクロスの姿を凝視する。

 じっと見つめてくる二人を前にして、ガンクロスは一呼吸置いてから口を開いて、喉奥から黒っぽい謎の物体を吐き出し始めた。


「いっ!?」


 靖治とアリサが目を丸くする。

 ガンクロスの口内から現れた物体は、口から飛び出たところで画像をズームしたみたいに急激にその体積を増加させていて、出てきた部分はガンクロス本人の顔よりも巨大な大きさに変化している。

 口から飛び出てきてきたのは、銀の金具を使った黒いトランクケースだった。10歳前後の子供くらいなら縮こまれば中に入れそうなそれが、車内の床に落ちてダンっと重い音を響かせる。

 唖然とする靖治たちの前で、吐き出したトランクをガンクロスは得意げに開けてみせた。

 蓋の下にあったのは、奥底へと続く薄暗い階段だった。


「来な、招待するぜ」


 ガンクロスは手を振りながら、トランクの中にスルリと足から潜り込み、階段を下りていってしまった。

 男一人飲み込んだトランクを、靖治とアリサは驚いた顔で覗き込んだ。

 階段の暗がりはトランクの底どころか、下何メートルにも渡って続いている。


「何よこれ、あのグラサン空間系能力者か!?」

「すっごいなぁ、面白そうだ!」


 靖治が一度メメヒトのほうに目を向けると、彼女はわかっているようにニコリと笑って頷いてきた。

 このままついて行って問題ないようであるし、靖治は未知の空間に心躍らせると、身を跳ねさせてトランクに足を突っ込んだ。


「ちょっとセイジ!? 気ぃ付けなさいよ、相手がクライアントだからって油断んすんな!」

「わかってるよ、何かあったらアリサ対応お願いー」


 呑気な声を上げながら、靖治はトランクの地下へとズンズン進んでいく。

 その後姿を眺めてちょっと悩んだアリサは「あー、クソ!」と悪態をついてから後に続いた。

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