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1000年後に、虹の瞳と旅をする。  作者: 電脳ドリル
四章【The third edge.】
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65話『片鱗』

「ナッハッハッハ、助かったぜー。オレが盲目だって聞きゃぁ嫌がる冒険者も多いからな、すんなり護衛役が見つかってラッキーだ」


 テイルネットワーク社を出てから、ガンクロス夫妻が道を歩く後ろを靖治たち三人が荷物を背負いながらついていく。

 ガンクロスの話を聞いて、アリサが「怪しいあたしらに頼んだのはそういう事情か……」と苦虫を噛み潰した表情で肩をすくめていた。

 靖治は相変わらずニコニコ笑いながら言葉を返す。


「何であれ一度契約しちゃった以上は、最後までお付き合いしてもらいますよ」

「ナッハッハ、してもらうって、それこっちの台詞じゃねー?」

「いやぁ、僕は基本的に何もできないですから、ガンクロスさん達にはたっぷり付き合ってもらいますよ~」

「ナッハッハ~……なぁ、不安になること言わんでくれる? 怖い……」


 ニコニコ顔の靖治と青い顔をするガンクロスが微笑ましい雑談に耽る横から、イリスがガンクロス夫妻の隣に並んで顔を出した。


「それで、馬車というのはどこにありますか?」

「慌てなさんな、この先にある馬小屋で預かってもらってるよ」

「あまり大きくないですが、みんなが入れるくらいのサイズはありますよ。旅のあいだは馬車の上で休んでいてくださって構いません」


 メメヒトが夫の左腕に寄り添いながら、やんわりと教えてくれる。

 その時、一行の背後にピアスをした柄の悪そうな青年が現れた。

 青年はフードで顔を隠しながら、スニーカーを履いた足を小走りにさせて靖治のそばに近づく。

 靖治がアリサのため息を聞きながら歩いているとことに、青年は後ろから肩をぶつけながら追い抜かした。


「チィ、気を付けな!」

「っと、ごめん――」


 よろめく体を支えながら反射的に謝ろうとした靖治だったが、腰から伝わってきた空虚な違和感にすぐに言葉を切り替えた。


「盗られた!! イリス、その男だ! 銃を盗んだ! 捕まえてくれ!!」


 声を張り上げてイリスやアリサが眼光を鋭くした時には、すでにスリの青年が靖治のガンホルダーから盗み取った拳銃を手に持ったまま、走り出していたところだった。

 脚には自信があるのだろう、靖治が叫んでからの走り出しも迷いがなく、全力でその場から逃げ出そうとする。

 だが青年の背中をイリスの視線が捉える。一瞬で展開された太もものスラスターが火を吹き、スカートをはためかせたイリスが弾丸のように飛び出そうとする――




 ――それよりコンマ1秒早く、ガンクロスの右手で抜かれた白光りの拳銃が、巨大な.50AE弾を撃ち放った。

 走り出したイリスが目を見張る前で、弾丸は青年の足をかすめて靴紐だけを正確に撃ち抜く。

 紐を引き裂いた弾丸は肉を傷つけずに地面に着弾したが、かすめただけでも伝わってきた衝撃にスリの青年はその場ですっ転び、後から追い付いたイリスが即座に手を捻り上げた。


「観念してください! お縄です!」

「いでででででででで!!」


 青年は背中側に手を捻られて、苦痛に顔を歪めながら盗んだ拳銃を路上に転がした。

 妻を寄り添えたままのガンクロスは、デザートイーグルの銃口から昇る硝煙をすぼめた口で吹き消して、人差し指で銃を回転させながら腰のガンホルダーにパシィッと気持ちのいい音を立てながら収めた。

 そして後ろにいた靖治とアリサへと振り返り、得意げにワークキャップを指で弾いた。


「へっ、どうだい?」


 日差しをサングラスで弾いて笑うガンクロスに、靖治は目をキラキラさせて拍手を鳴らし、アリサもまた信じられないものを見るような目をしていた。


「わぁー、カッコいい~……!!」

「お、おっさん、それでマジ見えてないわけ!?」

「へっへっへ、慣れりゃあこれくらい朝飯前よ」


 賞賛と驚愕を受けてガンクロスは快活に言い放つ。


「なら護衛とかいらなかったんじゃない? 相当な腕前でしょあんた」

「なーに言ってんだい嬢ちゃん、この世界、銃弾で仕留められない相手なんざいくらでもいるさ。それにオレらぁのんびり旅したいからな、チキっとお仕事頼むぜ冒険者たち♪」


 調子よく声を弾ませるガンクロスと同じように、メメヒトも「よろしくおねがいしますね」と言ってニコリと笑う。

 そこにスリを捕まえたイリスが、拳銃を片手に持って犯人を連行してきた。


「それでこの人はどうしますか?」

「ひい、た、助けて!」

「うーむ、リキッドネスファミリーの警備隊に突き出すのが普通だが、とっとと街から出発したいんだよなぁ」

「なら任せてよ」


 渋い表情をするガンクロスの後ろから、アリサがツインテールを揺らしながら歩み出てきた。

 怯えた顔をする青年を睨みつけながら、手首に嵌めた重たい手枷で青年の胸板をドンと叩く。


「おにーさん、随分と張り切ってくれちゃってんじゃないわよ。ちゃーんと代償は払ってもらうわよぉ?」


 アリサは捕まった青年の体を探り始め、ズボンの中に折りたたみの財布を見つけると指で挟んで取り出した。

 中から小銭まで余さず取り出して、ニヤつきながらお札の枚数を数える。


「イリスー、もう離していいわよー」

「そですか?」

「ひー、ふー、みー。へぇー、結構カネ持ってんじゃん」

「ま、待ってくれ! それを取られたら今日のショバ代……」

「あぁん!? 殺されないだけマシと思えなさい、オラとっとと消えた消えた!」


 財布だけ突っ返してすごんだアリサは、背後に燃え盛る魔人アグニを作り出して、真っ赤な熱気を見せつけた。

 わずかに顕現しただけで押し寄せる熱風に、青年は髪をまくられて「ヒィ~!!!」と叫びながら、軽い財布だけ手に持ってよろめきながら走り去っていった。

 流れるように行われた略奪行為に、ガンクロスは口の端を歪める。


「つ、つえークセにみみっちい真似すんなぁ、この嬢ちゃん」

「アハハ、頼りになる仲間ですよ」


 アグニをかき消して金を懐にしまうアリサを見ながら、靖治が自慢げに語る。


「靖治さん、取り戻した銃です!」

「ありがとう、助かったよ」


 靖治はイリスから受け取った銃を丁寧にガンホルダーへ収め直しながら、今度はガンクロスへとお礼を言った。


「ありがとうございます、ガンクロスさん。素晴らしい早撃ちでした。デザートイーグルですよね? そんな強力な銃でクイックドロウはお見事です」


 デザートイーグルなら靖治でも知っていた。男の子に大人気ならば誰でも憧れるような、大型で破壊力のある扱いにくい拳銃だ。

 威力は折り紙付きのロマン溢れる銃だが、下手な姿勢で撃てば肩の骨が外れかねない反動があるはず。

 にも関わらずガンクロスは片手での早撃ちで正確に目標を射抜き、反動によるダメージも見受けられない。


「オレだってそれなりに鍛えてるし、それにこっちの世界に来てからだいぶ肉体的に強化されたからな。しかしお前だって、盗られてからいい反応だったぜ」

「盗まれてから気付いた分、まだまだですよ」

「いやいや、上出来さ。ありゃそこそこの手練だ、スる時の音がかなり静かだった。オレだって聞きながらも一瞬遅れたね」


 そう言いながらもガンクロスはちゃっかり盗む時の音に気が付いていたのだが、普通なら盗まれたこともわからないレベルだった。

 これが本当に何の取り柄もない無能力者なら、声を上げることすらできなかっただろう。


「どうして気付いた?」

「まだ銃の重さに慣れてませんでしたから、フッと軽くなっておかしいなって。それにこんなこともあるだろうと、前もって覚悟してましたから、持ち物を気にしてました」


 この時代に目覚めてから、それなりにいざこざに巻き込まれている。

 命の奪い合いすら頻繁に行われるなら、窃盗くらいあって当然だろうと予測はしていたのだ。

 しかしだからっと言って実際に備えるとなれば難しい、誰もが失敗を思い描きそれに引きずられるmそのため心持ち一つを成すために人は長い時間を掛けて精神と肉体の両方を研鑽するのだ。

 だが靖治は力のない身で、軽々と想像を飛び越えて行動を実現させた。


「なるほどなぁ。ぽやぽやしてるが、それなりに気合いは入ってるらしい」

「ははは、買いかぶりですよ。ボクは基本、後ろで待ってるだけです。気合なんて言葉知りませんよ」

「そう謙遜すんなよ、やっぱオレぁお前気に入ったぜ! ナッハッハ!!」


 ガンクロスの快活な笑い声を響かせながら、靖治の背中のバックパックをバスバスと引っ叩いた。

 そのまま肩に腕を回し顔を近づける。


「後ろで待ってるしかねえやつの気持ちってのはわかる。オレも普段からメメヒトに頼りっぱなしだからな。そん中でも卑屈さに負けず、自分ができることとできねえことを見定めてブレずにやるってのは立派な能力だ。それをやれるお前をオレは信用できる」


 笑いを止めて、トーンを落としたガンクロスが真剣な口調で語りかけた。

 自らを評価してくれる大人はアルフォードに続きこれで二人目。靖治も少しばかり嬉しくなって口元に笑みを浮かべる。


「頼むぜ大将、しっかりオレらを守ってくれよな」

「えぇ、もちろん。彼女たちもボクも、報酬分は頑張りますよ」

「報酬分以上は?」

「ボクもアリサほどじゃないですががめついですからねー」

「ハッハッハ! しっかりしてんなあ、オイ!」


 こうして旅立ち前に最後のいざこざがあったものの、靖治たちの旅立ちが始まったのだった。

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