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1000年後に、虹の瞳と旅をする。  作者: 電脳ドリル
四章【The third edge.】
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64話『愚者がする最初の契約』

 テイルネットワーク社で仕事を探していた靖治たちの前に現れたのは、先程銃を買う時に出会った丸いサングラスを掛けた男と、連れ添いの細目の女性だった。

 男は女性を腕に寄り添わせたまま、腰の二丁拳銃を揺らしながらカウンターへ近づいてくる。

 その顔に靖治が声をかけた。


「さっきの……ガンクロスさん、でしたっけ?」

「そうだそうだ、なんだぁ名前知ってたのか?」

「いえ、屋台の人が教えてくれました」

「オイオイ、気軽に人の名前教えられちゃって、困っちゃうなぁ、ガハハ。あっ、こっちはオレの妻のメメヒトな! 美人だろぉ~?」


 口では困ったと言いながらも、ガンクロスはワークキャップをかぶった頭を押さえて調子のいい笑い声を上げる。

 その隣から細目美人なメメヒトが、中東風なドレスの袖をゆったりと垂らしながらポンポンと肩を叩いた。


「あなた、それもいいですが依頼の方を頼みませんと」

「おっとそうだ。悪いな坊主、先にいいか?」

「どうぞ」


 ガンクロスがメメヒトを侍らせたままカウンターの前に立って、店主と向かい合った。


「店主さん、冒険者への依頼だ。内容は北西にある隣町までの護衛、三日くらいだな」

「ほぉ、そりゃ丁度いい」


 伝えられた依頼の内容に、靖治はイリスとアリサと顔を見合わせて嬉しそうに口の端を吊り上げた。


「すみません。その依頼、僕たちが受けたいのですが」

「なんだ、坊主どもが?」


 声をかけられたガンクロスだが、靖治とその後ろにいるイリスとアリサに顔を向けながら訝しげな表情をした。

 まだ16歳程度にすぎない子供の集団を前にして怪しんでいるようだ。

 しかしそこに豹人の店主が助け舟を出してくれた。


「坊主は知りやせんが、そっちのメイドの嬢ちゃんはゴールド級、もう一人は赤熱のアリサって名の通った異能力者ですよ」

「アリサって、最近ヒステリー起こして街で暴れたっていう?」

「うぐっ。ま、まあ似たようなことはしたわね」


 噂になってるらしく痛い顔をしたアリサだったが、彼女も大概面の皮が厚いのですぐにニヤニヤとした笑みを作り直すと、カウンターに肘かけてガンクロスへとにじり寄った。


「それよりビジネスの話しようじゃない? ウチらに直接依頼しません? 仲介通さないぶんお安くできますよー。ゴールドに匹敵する二人に護衛してもらえるなんて早々ありませんよ?」

「うむっ!? むむむ……安上がりか……」

「おいおい、店主の真ん前で、ウチの売上げ取ろうとするなよ」


 ふてぶてしいアリサの態度に店主が呆れた声を出す。

 ガンクロスはしばし唇を結んで悩んだ顔をしていたが、決心すると大きく口を開いた。


「うむむ……いや! 仲介を通す! オレぁビビリだから、安心できる方を選ぶぜ! なあメメヒト、発注の手続きを頼む」

「はい、あなた」

「チッ」


 にべもなく断られ、アリサが小さく舌打ちをこぼす。

 頼まれたメメヒトがガンクロスの腕から離れると、カウンターから店主に話しかけてテイルネットワーク社にクエストの発注を始めた。

 彼女が店側の契約書にサインをしているあいだに、ガンクロスは顎に手を当ててアリサとイリスを興味深そうに覗き込んでくる。


「しっかし、そっちの嬢ちゃんは異能力者として、もう一人はロボットか? 珍しいパーティだな」

「――! わかるのですか?」


 中身を言い当てられてイリスは驚いた顔をする。

 彼女の人工皮膚は首から上のみだが、メイド服や長手袋で身体の殆どを覆っているので、一見すると人間とそう変わりない。初見ではロボットだと気づかない人も多いのだ。

 にもかかわらず、ガンクロスは会って間もないイリスの特徴をピタリと言い当ててみせた。銃販売の屋台で、触りもせずに銃の不良を言い当てたことといい鋭い慧眼だ。


「まあな、関節や人工筋肉の鼓動音。その体格の人間にしちゃ重い足音、人とは違う鼓動の音、色々違うからな」


 ガンクロスが自分の耳をトントンと立てて解説してくれるのを聞いて、靖治が関心した。


「へえ、耳が良いんですね。さっきエキストラクターがすり減ってたのを言い当てたのも?」

「あぁ、銃の奥から悲しい音が鳴いてたからな。あんくらいならすぐわかるぜ」


 ガンクロスはサングラスを光らせて靖治へと顔を向けた。

 色の濃いサングラスで目元は隠されているはずだが、その奥から射抜くような気配が向けられるのが鈍感な靖治にも感じられる。

 普通の年端もいかない少年ならたじろぐことだろう、しかし靖治は穏やかに微笑んでいて、ガンクロスの威圧感を前にして柳のように佇んでいた。


「だが坊主はなんだ? 見たところ鍛えた感じはない、能力者ってふうじゃない。お前さんは何ができるんだ?」


 当然な疑問に、隣にいたアリサは「お願いだから余計なこと言ーな」と祈るような脅すような、そんなジリジリした視線を靖治へと向ける。

 しかし当の本人は特に気圧されることなく、いつもどおり平静のままのうのうと口を開いた。


「はい、後ろでのんびりして、彼女たちが勝利するのを見守ることができます」


 あまりにもそのままの靖治すぎる言葉に、イリスは神妙そうに頷き、アリサは目元を手で覆った。

 それを聞いたガンクロスは、ちょっとばかし驚き口をすぼめて固まると、やがて意味を飲み込んでから堰を切ったように笑い始めて天井を仰いた。


「カッハハハハハハ!! そりゃあいい! 最高だな坊主!」

「最高なのはこの二人ですよ」

「ハハハ! そうだな、そりゃあそうだ!! いやぁ、嬢ちゃんどもも厄介な男に引っ掛かったなぁ!!」

「ハイ、靖治さんはとっても厄介で素晴らしいです!」

「いやぁ、それほどでも」

「あんたら、そのおっさん褒めてないからね!?」


 誇らしそうなイリスと照れる靖治にアリサが激しいツッコミを入れる。一幕を前にして笑いながらも、ガンクロスは冷静に靖治のことを観察していた。

 こうやって面向かって威圧してみても、靖治は一度も緊張しなかった。常に安定した呼吸をしていて、自己アピールの時だって自然体だ。

 ここまで面の皮が厚いなら、直接の戦闘能力がなくとも他の二人を引っ張って行く資格があるのかもしれない。

 そしてついでに、もうちょっとこの少年と付き合うのも一興だなと思い始めていた。


「よしいいだろう、気に入った。坊主たちに依頼してやってもいい。馬車に乗って三日の旅だ」


 それを聞いてアリサが「馬車か、ラッキーよ」と言いながら靖治を肘で突いた。隣町まで歩かされるよりも、馬車に乗りながらの仕事だからかなり楽だ。

 アリサの呟きを聞いて靖治は頷いてガンクロスを真っ直ぐ見つめる。


「もちろんです、ありがとうございます」

「あぁ、いいさ。ちゃんと護衛してくれればこっちだって文句はねえ」

「こちらの発注は終わりましたよ」


 メメヒトがダアトクリスタルに詠唱を終え、登録カードを受け取りながら声をかけてきた。

 アリサが店主へ「詳細見せて」と頼んで書類を渡してもらい、詳しい内容を確認する。


「どうだい?」

「うん、問題なし。期間は普通で、旅の方角もピッタシ合ってる。報酬金はちょっと寂しいけど、条件考えればまあこんなとこね。総合的に見てワリは良い」

「よし、決まりだね」


 アリサのチェックが入ったのなら安心していいだろう。靖治がカウンターへと歩み出て、豹人の店主へと話しかけた。


「じゃあ店主さん、僕の登録をお願いします」

「あいあい、さっきの詠唱文覚えてる? 同じようにすりゃええからね」


 そしていよいよ、冒険者として登録するのだ。靖治は楽しみなのが堪えきれないという表情で、クリスタルに手をかざした。


「『我ら善悪に惑う幼子、生命の果実は蒙昧な唇の上に』」


 お決まりの詠唱分を唱えると、カシャリと音を立てながら登録カードが現れた。

 靖治はどんな内容が書かれているんだろうと気になりながらも、彼らしく落ち着き払ってカードを手に取る。

 カードに表示された情報を、靖治とイリスとアリサ、それにメメヒトが夫に代わって覗き込んだ。



――――――――――――――――――――

 種別:ネイティヴノーマル ランク:泥んこ(The Fool)

 カルマ:無色


 クエスト発注数 0/0 0%

 クエスト受領数 0/0 0%

 裏切り回数 0

――――――――――――――――――――



 表示された見知らぬ分類の羅列に、イリスとアリサは絶句し、メメヒトは口に手を当てて淑やかに驚愕した。


「まあ、あなた泥んこ級ですって! 個性的ねぇ」

「ど、泥んこぉ!? 何じゃそりゃ初めて聞いたぜ、大丈夫なのかオイ!?」

「アッハッハッハッハ!! これ設定した人は最高だね!!」

「靖治さんっ!? 笑い事じゃないですよ!?」


 内容を聞かされたガンクロスは、急激な不安を覚えて鼻水を垂らしてしまっているが、靖治本人はしばし目を丸くした後、突如として目元を手で覆って愉快そうな笑い声を響かせている。

 心配そうな声を出すイリスに、靖治は笑いすぎで涙を湛えた目を覗かせて、ニッと口で笑って見せた。


「いやー、良いよ泥んこ(The Fool)級! 僕は気に入った、面白いじゃないか!」

「いやー、でも坊主……依頼する方は嫌な気しかせんぜ……」


 店主もレジの画面から情報を確認しながら、顔のヒゲをしんなりと垂れさせて目を見開いていた。


「なんじゃこりゃあ……この種別とカルマ、ネイティヴノーマルとか無色とかどっちも初めてみたぞ」

「あなた、私は気に入りましたよ」

「オイオイマジかよ」


 メメヒトは楽しげに主人へ笑いかけていた、ガンクロスは悩んだ様子で少し顎に手を当てていた。

 しかし改めてじっくり考えてからも、やがて頷く。


「うーむ…………まあいいや、坊主は後方支援とかそんなのだろ?」

「だいたいそんなところです」

「ならさして問題ねえか……依頼自体もそこまで難度が高いわけでもねえし、そっちの嬢ちゃんたちのポジションは?」

「私は前衛ですね!」

「あたしはどっちかって言うと後衛、まあ前出てもヨユーだけど」

「よし……なら決まり……いやどうしよう……いややっぱ決まりでいいな! うん!!」


 若干優柔不断な面を見せたが、最終的には首を立てに振ってくれた。

 話もまとまってきたところで、靖治がイリスに問いかける。


「そいえばさ、依頼を受けるのってどうするの?」

「それはですねー……ゴニョゴニョ」


 イリスの柔らかい声でやり方を囁いてもらい、靖治がカードを持って前に出た。その斜め後ろにイリスとアリサも立って自分のカードを揃える。

 同じようにメメヒトがカードを持つ。両者は向かい合い、店主がカウンターに手をついてお互いの契約に立ち会った。


「こちらは送り手、名はメメヒト。依頼内容は護衛依頼、私たち夫婦を隣町まで守ってくれること」

「こちらは手繰り手、名は万葉靖治。及びイリス、及びアリサ・グローリーの三名。依頼を受領します」

「テイルネットワーク社オーサカ・ブリッジシティ第一支店店主、名はコルク・エントヒヒ・チータス・エルロンドがこれに立ち会う」


 すると靖治とメメヒトの持っているカードから金色の光の糸が立ち上り、お互いに引かれ合って中央で繋がる。

 同様にイリスとアリサのカードからも光る糸が伸びて、靖治のカードと繋がった。

 不思議な淡い輝きに照らされながら、教えてもらった言の葉を唱えた。


「「ここに我ら出会いを結び、願いの先に至らんと立ち向かうものなり」」


 不思議なことに声は一字一句同調した。靖治とメメヒトの声が重なり、同時に靖治は目の前の女性と何かが繋がった感覚が胸を叩いた。

 熱い、不思議な感覚だった。


「――承認し、見届けたり。ここに契約は交わされた」


 店主がそう唱えると光る糸が弾けて、光の粒がキラキラと輝きながら足元に落ちていく。

 それぞれが持っていたカードも光の粒になってスッと消え、契約が完了したことに靖治は喜び、笑ってガンクロス夫妻を見つめていた。


「この契りが遂げられることを期待する、以上ッ!」


 最後に店主からおまけの言葉を付け加えられ、靖治とメメヒトのあいだで依頼の契約が交わされた。

 こうして冒険者として最初にクエストが決まったことで、楽しみに笑っている靖治に、ガンクロスがメメヒトの背をポンと叩きながらはにかんできた。


「んじゃ改めまして。オレぁガンクロス、流れの銃職人だ。こっちは妻の」

「妻のメメヒトと申します。わずかなあいだですが、どうぞよろしくお願いします」

「僕は万葉靖治です、よろしくお願いします」

「私はイリスです! お願いします!」

「アリサ、よろしく」


 それぞれが名前を言い合い、自らを紹介する。


「んでだ、とりあえず最初に言っておくことがある」


 ガンクロスがそう言いながら、細いが嚴めしい指でサングラスを手に取る。

 色の濃いグラスの下から現れた彼の眼は、瞳孔まで白く濁って虚空を見つめていた。


「オレぁ目が見えねえ! そこんとこよろしく頼むぜー、冒険者さんらよ♪」


 後出しされた情報に、靖治がのほほんと笑い、イリスは「へえー」と感心して頷き、アリサは「んなーっ!?」と青い顔をしていたのだった。



・後書きというか報告

 作者現在逆まつげにより目が炎症中、辛ェーイ!

 病院はもう行って目薬出してもらったんで後は直すだけなんですが、明日は更新お休みします。

 明後日の月曜は元々休みの日ですけど、振り替えで更新したいなーって気持ちはあるんですが、やっぱ目が大事なんであんまり期待しないでください(´・ω・`)

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