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1000年後に、虹の瞳と旅をする。  作者: 電脳ドリル
四章【The third edge.】
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62話『みんなで楽しいショッピング』

 街中の通りの隅で、靖治とイリスとアリサの三人は輪になって立ち、顔を突っつき合わせている。


「ふぅーむ……やはりこの銃で問題ないようですね」


 通りすがりの銃職人が見立てた拳銃『コルト・ガバメント』を、イリスは改めて検分して唸り声を漏らした。

 ガシャリと音を立ててスライドを引くとそれなりの滑らかさで動作する、少し固いが整備すれば問題なく実戦に使えるだろう。


「あの男性の見立通りのようです、私のほうが外れでした、うぐぐ……」

「仕方ないよ、あの人も結構有名人みたいだったし」

「悔しそうな顔してないで、そんな落ち込んでんじゃないわよ」


 アリサがそう言うと、イリスは目を丸くしてアリサを見つめ返した。


「な、なによ?」

「いま私、悔しそうにしてました?」

「そうだけど……」

「ほうほう、なるほど……これが悔しいですか……!」


 自らの精神状態を指摘され、一転してニマニマ笑いだす。


「なんなのよこいつ……」

「勉強になってよかったねーイリス」

「ハイ!」

「それじゃ、気を取り直して次に行こうか。他にもまだ色々買うのあるよね」

「そうですね。この銃を使うのにも整備の道具に銃弾、ホルスターも必要ですし。あと私はナイフが欲しいです! この前、アリサさんのゴタゴタの時に紛失しちゃいましたから」

「わかったわかった」


 手を挙げて張り切るイリスをなだめて、アリサはバッグを背負い直すと、別の道へ向いて顎をクイと動かした。


「とりあえず、この先にある露天はそういう道具をよく売ってるエリアだからそこ行きましょ」

「うん。イリス、ホルスター買うまで銃は預かっといてくれるかな? たしかスカートの下に入れれたよね」

「わかりました!」


 アリサに引きつられて、一行は街の中を歩き始める。

 たくさんの人とすれ違い街を進みながら、アリサがイリスへと問いかけた。


「イリスー、あんたはバッグ持ってたっけ?」

「ハイ! これがあります!」


 問われるなりイリスはスカートの下に手を突っ込むと、裏から折り畳まれたバックパックを取り出した。

 手のひらより少し大きいくらいのサイズにまとめられているのを見て、アリサは思わず声を出す。


「ちっさ!」

「折りたたみ式です、中身はリキッドネスファミリーで賠償金として売り渡しました。これ広げると大きいんですよ~」


 最初にイリスがお金にできそうなものをしまっていたバックパックだ。

 チャックを開けて中身を広げると、みるみる大きくなり大容量のバックパックに変貌する。

 その機能性にアリサは驚きながらも感心して頷いていた。


「んじゃバッグはこれとして、イリスは機械だからほとんど野宿道具とかいらないわよね。靖治のぶんだけと考えれば、まあこれ一つで済むかも」

「そんなに少なくて大丈夫なの?」

「バッカ、あんたね歩き旅で大事なのは荷物をちょっとでも減らすことよ」


 一日に何時間も、下手をすれば10時間以上歩くのだ、ちょっとの重量でも大きな負担になる。

 そのことを重々言いつけたアリサは、目当ての露天が並んでいるのを見つけて顔を振り向かせた。


「さてここよ。ここで必要なもの買い揃えましょ」

「よーし、頑張って良いの選ぼうね!」

「ハイ!!」


 と、元気満点な声を上げたのだったが、常識知らずの二人がいてそう簡単に済むわけがなかった。


「見てください靖治さん! こちらダマスカスナイフです! 職人の一品だそうですよー!」

「いくらよそれ……たっか!! 値段が他の十倍違うじゃないの! 普通のやつ買え、普通の!」

「えー」

「えーじゃない! 我慢なさい!」


 イリスは武器屋の前に立つと、すぐに高い品物に手を出そうとし。


「見てみてー、両腰にホルスター、両脇にホルスター、ふとももにもホルスター、二の腕にホルスター、八丁流!!」

「んなに使いこなせるのかよー、貧弱クンよお? 遊んでないで使うやつだけ買え」

「はーい」

「返事だけはいいなこいつ……」


 靖治はカッコ良さそうなものを見つけるとすぐにテンションを上げ。


「靖治さんが虫に刺されるといけません! こちらの蚊取り線香と野宿用の蚊帳などどうでしょうか!?」

「重いわよそんなの。スプレーか塗るやつで十分よ、あたしのがまだあるからそれ使え」

「なるほど! ではこっちのマッサージ道具とー、エチケット袋とー、アイマスクと耳栓だけですね♪」

「だけじゃねえ、売り場に戻しなさい」

「あっ、冬になった時のために防寒具も!」

「いま夏でしょうが!? 寒くなってから買えばいいのよンなもん!!」


 雑貨屋を通り過ぎようとした瞬間に、イリスは目ざとく役立ちそうなものを探していたが、大半は念が入りすぎで不要なものであったし。


「暇な時に色々遊びたいよね! というわけでトランプ」

「あー……まあ一つくらいはいいけど、あんまアレコレ買いすぎちゃダメよ。塵も積もれば重くなるんだから」

「あと将棋盤とー、囲碁とー、チェストー、バックギャモンとー」

「一つつったわよねぇ???」


 遊ぶことばかり考えてて、無駄に色々買い揃えようとして。


「見てくださいお二人とも! お鍋とフライパンと包丁とおたまのセット! 何だかいっぱいあってすごいです!」

「いやそんなにいっぱいいらないわよ、軽くしろ軽く。つーかあんた自炊できんの? 任せていい?」

「いえ! 憧れてるだけでやったことはありません!」

「メイド舐めんなぁー!?」


 挙げ句扱えないものまで手に取り出し。


「見てみてアリサ! すごいよこれ、火炎放射器だって!! デカい! すごい! 強そう!! キャンプファイヤーとかに便利じゃない?」

「それ対人火器でしょ!? 火くらいアグニで十分だっつの!」

「おぉぉぉぉぉ!! こ、これはタキオン粒子による小型レーザーライフル!! まさかこんなところで、この技術レベルの装備にお目にかかれるとは……アリサさん!!」

「却下ァ!!! 真面目にやれあんたらぁ!?」


 そこら中の商品に目を輝かせる二人は、ほとほとアリサを困らせたのだった。


「やー、これで準備万端だね!」

「ハイ! バッチリです!」

「ハァー、ハァー……何で買い物だけでこんなに疲れんのよ……」


 イリスが持っていたバックパックが一杯になる頃には、アリサは満身創痍で膝を手で支える有様だった。


「つーかあたし、一応は雇われって体なのに、どうして金の管理までしちゃってるのよもう……」

「頼りになります!」

「しすぎなのよお前らは!」

「まあまあ、アリサのことは本当にありがたいって思ってるよ」


 目を鋭くして唾を散らすアリサに、靖治が優しく語りかける。


「僕もイリスもこういうのには不慣れだからね、旅慣れしたアリサがいてくれて良かったと思ってる」

「そうですね、私は街から街への移動は単独での全力疾走が基本でしたから、人間と合わせた集団行動は初めてです」

「アリサが思ったことは何でも言ってくれるおかげで、こっちも思いっきり楽しめたよ、ありがとう」

「セイジ、あんた……」


 感謝の念を受けてアリサが曲げていた膝を伸ばして背を伸ばし。


「ふざけてたってことは否定しないのね?」

「まあ、ちょっとツッコミ期待してた部分はあるかなーって」

「ふざけんな、このクソヒモ男ー!!」

「あばばばばばばばば! ごめん! ごめんってアリサー!」

「あわ!? 靖治さんに乱暴しないでくださーい!」

「うるさーい!! 邪魔すんなぁー!!」


 怒り狂ったアリサにたっぷり頬をつねられて、靖治は手痛い折檻を受けることとなった。


「いたた……まあ、とにかく行こっか」

「そうですね、早くお金を稼げる依頼を探しに行きましょう」


 騒ぎが済んで出発しようとイリスがバックパックを背負おうとした時、アリサが止めに入った。


「ストップ、荷物は靖治に持たせなさい」

「へっ? どうしてですか!?」

「こいつが貧弱だからって甘やかしてはられないでしょうが、重たいもん背負って歩けば弱っちいこいつもちょっとは鍛えられる。それにいざ緊急時には、戦闘要員のあんたは身軽でいたほうが動きやすいじゃない。できる限りこいつが荷物持ちをやるべきよ」

「合理的だね。イリス、荷物を貸して」


 アリサの意見に靖治は素直に頷き、イリスへと手を差し出す。


「でも大変ですよ?」

「大変なのはみんな一緒さ。それに僕の身体はナノマシンが入ってて回復力が高いんだろう?」

「確かに、理論上は筋肉や体力も付きやすいはずですが、疲れ知らずとまではいけませんよ?」

「それでもさ、これから生き抜くために努力はしていきたいんだ」

「わかりました、重かったら分けてくださいね?」

「どうしてもって時は頼むよ」


 イリスは靖治に負担をかけることを少し渋ったが、説得すればすぐに反対意見を引っ込めた。

 アリサからしてみれば子離れできない親のようであったが、朝方の銃をもたせるかどうかの問答に比べればかなり簡単に折れてくれたほうだ、それだけイリスが短期間に成長しているのかも知れない。

 お互いを支え合う靖治とイリスの奇妙な主従関係に、横から見ていたアリサは少し感心していた。

 靖治がバックパックを背負うのを確認すると、一行は次なる目的地へと足を向けた。


「それでは行きましょう、仲介企業テイルネットワーク社に!」


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 明日は木曜日なので休みです。

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