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1000年後に、虹の瞳と旅をする。  作者: 電脳ドリル
四章【The third edge.】
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60話『銃を買いに行こう』

「さあて、それじゃあ次はいよいよ武器だね!」


 リキッドネスファミリーの屋敷から外に出た後、これからの旅支度を始めるに当たって靖治が意気揚々と声を上げた。

 テンション爆上げで拳を握る靖治を、イリスが興味深そうに覗いてくる。


「キラキラしてますね靖治さん」

「そりゃあもちろん! 僕も男の子だからねー、銃とか武器には憧れるよ。まあホントは痛いのは嫌だし、痛くするのは嫌だけど」

「ふーん、あんなんのどこがいいんだか」


 はしゃぐ靖治を前にして、アリサは丸底のバッグの綴じ紐を指に引っ掛けて振り回す。預かり屋から回収した自前の荷物だ。

 バッグは紐に引っ張られて空中に綺麗な弧を描くと、そのまま重力に負けてアリサの背中側に落ちて肩からぶら下がる。


「まあ、こっちの世界の銃がそこそこすごいのは認めてやるけど」

「アリサの世界って銃はなかったの?」

「最新のでも単発式だったわね、確かパーカッションとかなんとか、キャップ嵌めて撃つやつ。まあ魔法のほうが使い勝手良かったし、マジの武闘派はみんなそっちやってたわ。あたしみたいな生まれ持っての異能者は流石に稀だったけど」

「へえー、みんなが魔法とか使えるなら、銃の発達は遅れそうだよね」

「靖治さんは銃は詳しいのですか?」

「いや、聞きかじり程度さ。それにこの世界の銃だってだいぶ進歩してるんじゃないの?」


 靖治の質問に、イリスが人差し指を顎に立てて「んーと」と呟きながら答えた。


「まずこの世界、ワンダフルワールドの文明と技術のレベルなんですが、頭打ち状態で長らく発達していません。理由はやはり生活領域が狭いということ、インターネットのような情報インフラがないため技術情報のやり取りがしにくいこと、この二つですね。なので技術レベルについても各地でバラバラでして、街の統治者にかなり依存しています。

 例えば琵琶湖のビワファクトリータウンは、異世界から転移してきた宇宙兵器が街の元となったため優れた科学技術を保有しており、琵琶湖の生態もナノマシンで完璧にコントロールしているほどです。対して京都は強大な妖力を持つ九尾が治めており、あまり科学に頼らず生活しています。

 このオーサカブリッジシティは、琵琶湖から淀川に乗って流れてくるナノマシンの恩恵に預かりながらも、実際に保有する技術レベルは中間的な場所ですね、元統治者であるリキッドネスの中庸さが現れてます。

 このワンダフルワールドではどんな文明を営んでいるのか、どれくらいの技術レベルを持っているのかは、その地方で一番大きな街を統治する術者の色次第。そのモザイクアートのようなバラバラの技術レベルを平均した結果、全体的には西暦2000年代の初頭くらいに落ち着いてるんです。一部の技術は何故か突出したレベルを誇っていることもありますけどね、サイボーグ系技術とかそうです」

「ふむふむ」

「なので銃もおおよそ、21世紀ごろのものと変わりありません」

「そっかぁ、イリスはレーザーライフルとか使ってたけど、アレも特別?」

「ですねー、東京の外じゃあんなの滅多に見ないですよ。持ってる人は持ってますが」


 元々イリスが生まれた新東京都市は異世界の神の力を借りて強固な生存領域を作り上げた、いわば旧文明の地続きな特殊な地域だったのだ。

 そこから拝借した戦艦や装備は、東京外の平均的な技術レベルを遥かに凌駕している。何よりもイリスの使っているボディそのものが特殊性の塊だ。


「でもそうかー、21世紀代ごろの銃……うーん、それはそれで楽しみだなー。何が売ってるだろ、うへへへへへ」

「キモいわよセイジ」


 アリサに可哀想な目で見られる靖治だが、こればっかりは仕方ない。

 靖治にとって銃はある種の憧れだ、というのも元々病気だった彼は、激しいガンアクションものの映画などは興奮して心臓に負担がかかると良くないから、という理由で見せてもらえなかったのだ。

 他のみんなは楽しめているものを自分は見ることができない、この禁欲状態が少年の憧れを加速させるのは言うまでもないだろう。

 それがいきなり自分の手で掴めるというのだ、気分が高揚するのも当然の話だった。


「いやぁ楽しみだなぁ……ハンドガン……アサルトライフル……ショットガン……ロケットランチャー……ガトリング……どれがいいだろー」

「後半からは靖治さんじゃまともに扱えませんからね? まず靖治さん、銃を持ったところで私のようなロボットや、アリサさんのような異能者と対等になれるわけじゃありません。あくまで緊急時の自衛用、時間稼ぎの道具として割り切って」

「わかってる、戦闘は基本的にイリスたちにお任せさ」


 イリスにたしなめられる靖治を眺めていたアリサだったが、ここまでの話を聞いていて少しばかり首を傾げた。

 靖治はあまりにもこの世界のことを知らなさすぎる、イリスの方は詳しいようなのに、何故二人の間でここまで知識の差があるのか。

 確かオーガスラッシャーのハヤテから聞いた話では、何百年か前に閉鎖された東京に通じる鍵であるかもしれないとのことだが、一体彼はどういう経歴なのか。

 他の部分でツッコミどころが多すぎるためついつい聞きそびれていた。


 正直、アリサとしては気になる、気になるけど自身もあまり過去のことを探られたくない。


「ん゛ん゛ん゛~……聞くべきか……聞かざるべきか……気になるけどあたしも聞かれたくないしぃ~……」

「どうしたんですかアリサさん?」

「イヤ!? な、なんでもないのよ!!」


 結局誤魔化してしまったアリサは、バッグを背負い直すと罰が悪そうに言った。


「と、とにかく、さっさと買いに行きましょうよ。ぼんやりしてたら日が暮れちゃうわよ。いい店知ってるから付いてきなさい」

「はーい!」

「ラジャです!」


 アリサに先導され、三人は街の大通りへと入っていった。食品店や服屋、散髪屋など地域に密着した活気のある通りで、人混みの中を歩いていく。

 しかし銃なんて危険なものが、こんなに賑やかな場所で売っているとは、靖治にはちょっと想像がし辛い。


「賑やかだねぇ、こんなところに銃屋なんて……」

「あったあった、ここよ」


 アリサが足を止めたので、靖治とイリスも立ち止まる。

 そこにあったのは通りのど真ん中に建てられた、数階建ての驚くほど立派なガンショップだった。


「おぉ、ここが!」


 開けた店の中を外から見ただけでもわかるほどの銃、銃、銃、銃の山。

 壁のラックに掛けられたアサルトライフル。樽の中に突っ込まれて値札をぶら下げたショットガン。

 護身用として一角のケースに収められてこちらにグリップを向けるハンドガンの数々。対大型目標用と弾頭とセットで置かれている重厚なロケットランチャー。

 そして正面に飾られた、ピカピカに磨き上げられた男のロマン、携行型ガトリングガン。


「すごい! どれもすごいカッコいい!」


 街のド真ん中で大手を振って銃を売っているなど、1000年前の日本からは考えられない光景だ。

 様々な種類の武器の数々を見て、靖治は興奮の絶頂だった。


「これは見てるだけじゃもったいないね、いざ!!!」

「ちょい待ち」


 鼻息を荒くした靖治が店の中に飛び込もうとする直前に、アリサが首根っこを引っ掴んできて、靖治は「ぐえっ」と悲鳴を上げて停止した。


「何だよアリサー、邪魔しないでよー」

「なんだよじゃねー、あんな高い店の高い武器が買えるか。あんたが買うのはあっち!」


 アリサが空いた手で指差す方にあったのは、素晴らしい佇まいのガンショップ、の隣で建物のあいだにひっそりと建てられた見窄らしい屋台だった。

 屋台の前に置かれたドラム缶に詰め込まれた銃と、『ハンドガンALL200\』と書かれた表示を見て、靖治はあからさまに眉を落とした。


「えぇー、しょぼくない?」

「そんなに金が無いって言っとろーが。大体あんな重たい銃持ったところで、モヤシのあんたじゃ歩くだけでヘトヘトでしょうに! 荷物を軽くするのは歩き旅の定石よ、最初は軽いのから選んで慣れろ! 嫌なら丸腰でいなさい!」

「ちぇー」


 まくし立てるアリサに額を突っつかれて、靖治は渋々新品の銃を諦めて屋台のほうに足を向けた。

・後書きとご報告

 3章の終わりに告知しました通り、月曜日と木曜日は休載日です、明日は休みますのでご了承くださいませ。

 休みも大切だー、頭空っぽ。


 それともう一つご報告しないといけないことがありまして、読者からの誤字報告ページがあることに気付きました!

 知らずにスルーしてました! 報告してくださった方ごめんなさい! お許しをアバーッ!

 これからはチェックして順次修正して生きます、誤字報告してくださった方々ありがとうございました!

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