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1000年後に、虹の瞳と旅をする。  作者: 電脳ドリル
四章【The third edge.】
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59話『出立前に挨拶を』

 早朝の会議で方針を立て、靖治とイリスとアリサの三人は出立前にアルフォードに挨拶しようと彼の執務室へと足を運んだ。

 部屋の前に来たところ、ちょうど部屋から豚人の突撃隊長オーガストが半裸のボディをぷるんと揺らしながら出てきたところだった。

 扉を閉じたところで靖治たちに気付いたオーガストは、豚鼻をピクリと動かして顔を向けた。


「おはようございますオーガストさん」

「おはようです!」

「どぉーも」

「おぉおはよう、どうした?」

「街を出る前にアルフォードさんに挨拶をと思いまして」

「なるほどな、おぉいアルフォード! セイジ殿以下三名が来たぞ!」


 再び扉を開けながらオーガストが中にいるアルフォードに伝える。

 オーガストに扉を支えてもらいながら靖治が部屋に入り、後ろからイリスがオーガストに会釈しながら、アリサがツンとして顔で腰に手を当てながら続いてきた。

 オーガストが扉を閉めると、部屋の奥で上等な机に肘を置いて手を組んで待っていたアルフォードが、ピコンとウサギの耳を揺らす。


「おはようございますアルフォードさん」

「やあ、おはよう諸君。昨夜はよく眠れたかな?」

「ハイ! おかげさまで快適でした!」


 アルフォードの言葉に、イリスが元気良く答える。

 本来は睡眠と必要としないイリスだが、先日は仕事中に情報処理が追いつかず休眠状態になってしまったため、ファミリーの客室で安全に過ごせるあいだは靖治たちと同じようにベッドで眠ったのだ。


「ハハハ、そいつは結構、朝から素敵なレディの声を聞けて目が覚めるよ」

「ハン、女好きが」

「男の性分さ、見逃してくれたまえアリサくん」


 アリサの悪態にもアルフォードは澄まし顔で流して見せた、その程度で怒る程度の器でもないし、あとこれは秘密だが女性から冷たい扱いをされるのはむしろ嬉しい。


「そろそろ来る頃だと思っていたよ、行き先は決まったかな?」

「はい、京都に行く目標は変わらず、西側から歩いていくことにしました」

「そうか。ワタシとしては、このままウチで働いてもらえたら嬉しかったがね」

「いえ、靖治さんを危険に晒すわけには参りませんから! やはり安全な街に向かいたいところです」

「イリス、あたしが言うのも何だけど、ちょっとは人付き合い覚えろ」

「はい?」


 統治者にこの街の治安は良くないのに嫌だと述べるイリスに、アリサも流石に苦言を呈した。

 靖治とアルフォードは苦笑しながらも、気を取り直す。


「イリスとアリサを評価してくれるのは嬉しいですが、僕としても他の街を見ていきたいので」

「いや、評価してるのは彼女たちだけでないよ」

「えっ?」


 驚いた顔でいる靖治に、アルフォードはしたり顔で言葉を述べた。


「君もだよ靖治くん。確かに君は無能力者で戦う力はないが、とにかく度量があり、人を助ける力がある。鍛えれば得難い人材になるとワタシは思っているのだよ」

「……どうしてそうお思いに? 面と向かって話したことも数えるほどじゃないのに」

「んん゛っ、まあアリサ君を手懐けたのと、ミールからの報告とを合わせてな」


 仕事を任せながら盗聴して様子をうかがっていたとは言えず、アルフォードは咳払いをして誤魔化す。

 しかしまだ信じられないのか、靖治の反応はどこかおざなりだ。


「……お世辞ですか?」

「まさか、ワタシは世辞が苦手だよ」


 褒められるとは思わず呆然とする靖治の隣で、イリスが主人の賛辞を前に虹色の瞳をパッチリ輝かせて、嬉しそうに口を開きながら靖治の背中を叩いた。


「わかりますかアルフォードさん!? 靖治さんはすごい人です!」

「いたっ、いたた、痛いよイリス」

「ハッ!? も、申し訳ありません!」

「いやいいさ、僕の分まで喜んでくれてありがとう」

「そ、そうですか?」

「ハハ、良い主人を持ったなメイドの君」


 笑い合う靖治とイリスを見ながら、アルフォードは亡き先代の言い遺した予言を思い出していた。

 予知能力者であるリキッドネスが言った重大な運命を担う者たち、果たしてその運命が何なのか、彼らがそれに見合うだけの人物なのかどうかはわからなかった。

 正直、心配がないわけではない、靖治は弱いし、イリスは年齢の割に心は幼いし、アリサも危うい、何の問題もない旅路とは行かないだろう。


「ハイ! 靖治さんは、最高のパートナーです!」


 しかしそれでも、このイリスの笑顔以上に、彼らの今後を示すものがあるだろうか?

 満面の笑み喜んでいるイリスに、アルフォードは自分から言うべきことは何もないと思いながら、つい釣られて笑みを零した。


 靖治たちが笑い合っている少し後ろで、アリサが部屋の隅にいるオーガストに太っ腹を肘で突ついて話しかけていた。


「おいアンタ。あんたもまぁ、迷惑かけて悪かったわね」

「謝っているつもりか?」

「うっさいバカ」

「気にするな、幸い死者は出てないし、賠償金を貰った以上は追求することもない。それにオレは戦士、戦うことは使命だ」

「あぁそうかい」


 街を出る前に一言伝えたかったのだろう、アリサはぶっきらぼうな短い言葉をオーガストに送っていた。

 それをウサミミで耳聡く聞いたアルフォードが、眼鏡を光らせてそちらへと顔を向ける。


「おやアリサ、あの戦闘はワタシも手を焼いたのだがね? ワタシにも何か言うことはないのかい?」

「うるせー、腹黒男はキライよ」

「ふっ、悲しいな」


 内心ちょっぴり喜んでいるアルフォードに向かって、靖治が今一度頭を下げる。


「短い間でしたがお世話になりました」

「いや、こちらこそ仕事を手伝ってもらって助かった。おかげで有望な新人が一組手に入ったしな」

「あの、ミールさんには……」


 件の新人と因縁があるイリスが控えめに話しかけた。


「あぁ、彼にはワタシから話しておこう」

「ハイ、お願いします。私と会うと、あの人はまた怒るような気がします」

「怖いか?」

「いえ! ドンと来いです!」


 声を張って拳を振ってみせるイリスを眺めて、アルフォードはにっと笑って姿勢を崩し肩の力を抜いた。


「頑張ってくるといい。困ったことがあったらいつでも頼ってくれたまえ」

「はい、ありがとうございます」

「その時はお願いします!」

「イリス真に受けんじゃないわよ、そいつ貸し作りたいってだけだから」

「へっ?」

「ハハハ、もちろんそうだとも」


 最後に、靖治はアルフォードと顔を見合わせて軽く一礼した。


「では、アルフォードさんもオーガストさんもお元気で。またいつの日か会える時を楽しみにしてます」

「あぁ、またな少年」


 去り際にオーガストが気を利かせて扉を開けてくれる。

 アリサを先頭に靖治たちは退室した。


 若者たちが去り、部屋に残ったオーガストが扉を閉めると、どこかシンと静まり返ったようだった。


「……話したのは少しだが、いい子たちだったな」

「あぁ」


 ポツリと零したアルフォードが、机に肘を付いてがくんと頭をうなだらせた。


「あぁ~、オレにもあんな息子がいればなぁ~」

「そろそろ結婚しろ、後継ぎの問題もあるし、ハニトラだって怖い」

「お前だってそうだろ」

「……オレは同族が中々見つからん」

「あー、この世界そういうのあるよなぁ……」

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