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1000年後に、虹の瞳と旅をする。  作者: 電脳ドリル
三章【カルマ・オーバーラン!】
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56話『未来は暗雲なれど、少女は希望を胸に抱く』

 力試し大会の会場に、ミールとシュナイダーが戻ったのは日が暮れ始める頃だった。

 とっくに祭りが終わって後片付けがされてく中で、二人はアルフォードの前に並んで頭を下げている。


「スンマセンしたっ!」

「ガウッ」


 飛び出した挙げ句、身勝手で大会をすっぽかしたことを詫びる二人を前にして、アルフォードは頭のウサミミを揺らして口を開いた。


「それで、パートナー探しは見つかったということでよろしいかな?」

「は……ハイそうっす! お前も、それでいいんだよな?」

「ガウウ」


 ――まだ未熟者だが、資格あり。まあギリギリ及第点と言ったところか。まあ精進するが良い。


「オメェッ、人のこと焚き付けといて!」

「何を言ってるかわからんが、まあ仲が良くて結構だ」


 ミールが自分の葛藤に決着を付けたことで、シュナイダーも彼を相棒として認めることとしたようだ。


「今回のことはよかろう。オーガストの尊い犠牲のもと、祭りも無事に完了したしな」

「え、えっと……オーガストさんは大丈夫なんすか……? そこで苦しそうにぶっ倒れてますけど」

「ハッハッハ、ファミリーに恨みがある挑戦者たちを片っ端からちぎっては投げ、ちぎっては投げの、もはやルール無用の大乱闘だったからな。詫びに飯でも奢ってやると良い。酒癖悪いから注意しろよ、最悪おぶって帰ることになる」

「はあ……」


 会場の隅では、並べられたパイプ椅子の上に横たわったオーガストが、顔にタオルを立ててブヒブヒ唸りながら休んでいる。どうやら結構な修羅場だったらしい。


「今後は勝手は許さん、今日のぶん含めてウチでしっかりと働いてもらうからな、覚悟しとけ」

「は、ハイ! もちろんです!」


 一悶着あったものの、これでミールはファミリーの一員だ。

 誰かに従ったのでなく、自分で選択したこの新たな門出に、緊張しながらも喜んで声をあげている。


 そこから少し離れた場所にイリスがいて、ミールのピンと張った背中を見ていた。

 彼女の隣には当然靖治が立っていて、同じようにミールへ顔を向けている。そのもう一つ隣には、アリサが私闘に付き合わされてグッタリとした様子で肩を落として並んでいた。

 イリスはミールを遠巻きに眺めながら、ついさっき彼と拳を交えたことを思い返していた。


「生きることは恐ろしいことですね」


 イリスはぼんやりと呟いた。

 靖治が隣から、イリスへチラリと視線を向け、すぐにまたミールのほうを見る。


「私がしたことは間違ってはいないと思います、それでも恨まれることとなった。これは、とても恐ろしいことに感じます」

「うん、僕もそう思うよ」


 イリスから見ればミズホスが襲ってきたので、単に降りかかる火の粉を払っただけ、それでもそこから波及して様々な問題が発生した。

 正しい間違いに関係なく、自分の選択が自分に返ってくる。それが良いことなのか悪いことなのか、イリスにはまだわからない。


「今考えると、ミールさんとの時間のすべてが私を試していたような気がします。きっとこの先もずっとそうなんでしょう」


 これからもイリスが自分を貫く限り恨まれたりするだろう、命を狙われたりするだろう。それは生きる上では避けられないものだ。

 どんな道でも困難から逃れられず、絶えず自分を試し続けねばならない、それはなんと恐ろしいのだろう――


 ――だが同時に、イリスは奇妙な期待も覚えていた。

 これからの人生、自分がどれだけの力を発揮できるのか、そんな当てのない希望の心も、確かにあるのだ。


「でも靖治さん、イリスは、進み続けます」

「うん」


 宣言すると、靖治は短く返事をしながらも笑ってくれて、その顔にイリスは改めて自分の選択は間違ってこなかったと確信する。

 良かった。

 この世界は善も悪も見境なしに試練を振り掛けれ来るけれど。

 それでも傍にいてくれる人のことを信じられるなら、どこまでだって信じた道を歩いていけると、イリスは胸に刻んでいた。


「なにせ私が前にいないと、貧弱な靖治さんはこの世界では間違いなく死んでしまいますから! これはもう逃げられません!」

「あはは、その通りだね~。ヨロシク頼むよ」

「アハハじゃないわよ、苦労してんのあたしらじゃないのよ、もぉ~」

「アリサもお疲れ様、マッサージくらいならできるけどどう?」

「ゼッテー下心ありそうだからパス」


 ダルそうに唸るアリサを労いながら、靖治も自分にできることは何かないだろうかと、密かに考えを浮かばせていた。

 せっかく病気も治って自由の身なのだ、なんとかして自分にできることを増やせられないだろうか。


 そうして話し合っている三人のところに、シュナイダーを引き連れたミールと、アルフォードが歩いてきた。

 目の前に来るなり、ミールはイリスを睨みつけて憎らしそうに口を開く。


「おいイリス。俺はテメェのこと許したわけじゃねえからな。もしだらしねえ姿さらしてたら、すぐにぶちのめしてやる」

「構いません、次も負けませんから!」

「言ってろよボンクラ」


 ミールは未だ敵意が抜けたわけではないものの、黙って溜め込んでいる時よりか随分と生き生きとしていた。

 捲し立てる二人を見ながら、アルフォードが靖治に小さく呟きを漏らす。


「純粋だが危ういな、彼女は」

「えっ?」


 今回の一件を、アルフォードは耳を澄まし、つぶさに声を拾い監視していた。

 最終的には良い方へと転んだが、イリスの対応は些か真っ直ぐすぎる、毎回あんなことをしていたら身がもたないのではないかと心配してしまう。

 果たしてこの先も上手くいくものなのかと、ついアルフォードは野暮ったい忠告を並べたかった。


「どうかしましたか?」

「……いや、なんでもない。見守っておきたまえ、大切な人なのだろう?」

「もちろんです、こんなに可愛い子をほっとけませんよ」


 だが、あえて言葉を抑えた。

 アルフォードが心配するまでもなく、イリスに真摯に付き合う良き人が隣りにいるのだから。

 靖治は力こそないが、他人の心を受け止めるだけの器がある。

 二人でいれば困難もあろう、時にはつまずこう、だが最悪なことにはならないと思ったのだ。


「さてアリサ、こちらへ来たまえ」

「おっ?」


 アルフォードの手招きに、アリサが期待した顔で近寄った。

 爆弾付きの首輪を垂らした彼女の前で、アルフォードがスーツの胸ポケットから一つの鍵を取り出した。

 細長い手で鍵を摘み、アリサの首輪に差し込んで回すとカチャリと音が鳴る。

 アルフォードは鍵の外れた首輪を両手で支えて取り外した。


「依頼の遂行を確認、約束通りこれで君は自由の身だ」

「かーっ、スッキリしたわ。開放的ぃー♪」


 風通しの良くなった首周りにニンマリと笑ったアリサは、気持ちよさそうに首筋を伸ばした。


「これで正式に仲間だね、アリサ!」

「まあ、あたしは別に誰が仲間でもいいけど? 金もらっちゃったししょーがないわよね」

「よろしくおねがいしますアリサさん!」

「ハイハイ、シクヨロシクヨロ」


 嬉しそうな靖治とイリスの前で、アリサはツンとした態度だが満更でもなさそうに薄く笑い返す。


「よし! これでやるべきことも終わったし、安心して京都に向かえるね」

「ハイ! やりました!」

「むっ……君たち、行き先は京都……ということは琵琶湖経由なのか?」


 喜び合う靖治たちに、アルフォードが驚いた顔で口を挟んだ。


「ハイ、その通りです!」

「あーいや、なんというか、水を差すようで悪いんだがな……」

「ハイ?」


 気まずそうにウサミミを揺らしたアルフォードは、誤魔化すように咳払いをして硬い言葉を並べ立てる。


「さきほど情報が入った。ビワファクトリータウンと京都を結ぶ交通路の上空に、大規模な次元光が発生」

「へっ?」


 唐突な内容に、イリスが鳩が豆鉄砲を食ったような顔でキョトンとする。


「地形ごと入れ替わって交通路は途絶。復旧の見通しは立たず、当分は通行止めだ」

「はがッ!?」


 アルフォードに加え、ミールも少しばかり同情的な視線をイリスへと送っている。

 たっぷり絶望的な表情を浮かべたイリスは、街の真ん中で頭を抱えて、悲惨な悲鳴を上げたのだった。


「ど、どうしてこんな、間が悪いことばっかりぃ~!?」

「あはは、ドンマイドンマイ。いいことだってあるさ」

「苦労するわねイリス……」

・章が終わりのあとがき


 というわけで、なんとか第三章まで書けました、電脳ドリルです。

 前回の章からそのまま京都を目指しても良かったのですが、せっかく大阪の街を作ったのだからもう一つこの街で話を挟んでみようと思い、ミールの話を書こうと思いました。

 しかしながら序盤に入れる話なら、これからの方向性がなんとなくわかるようなものにしたいと思い、できるだけ爽やかな結末に持っていった次第です。

 と、言いつつ、正直作者でも先のこと見えないですけども、でもこんな感じで「色々大変だけど大丈夫大丈夫、まあなんとかなるさ」的な話で続いていくんじゃないかなあと思う次第です。


 自身の生み出した業にどう立ち向かうかというのは、作者が創作において関心を寄せるところでして(漫画『銃夢』の影響多々あり、良いですよねザパンの復讐とガリィの叫び……)

 今回、解決はかなり力技でしたがね! でもなんとか自分の理想の一部を込められた気がします。


 さてここからの続きですが、四章の前にまたお休みをいただきたいと思います、すみません。

 中々上手く書けない日が多くて、書き溜めがもうない! 次の章を書くにはまずプロットから練らないといけませんし、最近疲れ気味なこともあって遅れます。

 またこれまではできるだけ毎日更新を目標にしてきましたが、それではやはり諸々に無理が出てきているように感じていますので、これから定期的に筆を休む日を作りたいと考えています。


 なので、まず明日から6日の休みを取り、31日の木曜日に連載を再開。その後は月と木の週2日をお休みの日にしたいと思います。火水 金土日の週五連載ですね。

 ちょっと休み長いかなぁと自分でも思いますが、溜まってる疲れを顧みるにこれくらいの時間が必要だと思いますのでご了承ください。楽しみにしてくれていた方は申し訳ありません。

 割と難航してますが、書くことだけは止めないようにと思ってますので、どうかのんびりとお付き合いください。


 次回からいよいよ大阪を出て旅を始めます。

 また新しい出会いもあり、靖治たちがどんな道筋を行くのかお楽しみください。


 三章をお読みくださってありがとうございました。

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