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1000年後に、虹の瞳と旅をする。  作者: 電脳ドリル
三章【カルマ・オーバーラン!】
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53話『ミールの川上り』

「うひいぃぃぃ!!? だ、誰か止めてくれえぇぇぇ!!!」

「グッゴォォォー♪」


 ブリッジシティの活気ある街に野暮ったい男の悲鳴が響き渡り、その下でゴキゲンな鳴き声を上げた巨大ワニが街を走り回る。

 暴走するシュナイダーに乗せられたミールは、タテガミを掴んで振り落とされないよう必死になっていた。

 風圧にのけぞるミールの目に、進行方向の通りに行き交う人々の群れが映り込む。


「ちょ、おま……とま……人人ヒトォー!!?」


 呼びかけも聞かず、シュナイダーは人混みの中に猛然と突っ込み、通行人をふっ飛ばしながら爆進し続けた。


「うわーぉ!? これワニ!?」

「なんだぁ? また喧嘩かウボァ!?」

「高いたかーい!」


 わけも分からないままふっ飛ばされる人、のんびりしてたらふっ飛ばされる人、面白がってむしろ自分からふっ飛ばされに来る人。

 迂闊なやつから餌食になり、たくさんの悲鳴が空に打ち上げられて街に木霊する。

 だが実際のところ、ワニに轢かれてしまった人間はごくわずか。訓練された街の人々はいち早く騒ぎを察知して進行方向から退いていたため、モーゼの川のごとくざっと割れた人混みをシュナイダーは悠々と突き進んでいった。

 嵐が過ぎれば人々は「最近騒がしくってやあねえ~」などと愚痴をこぼしながら日常に戻り、通りはすぐに賑わいを取り戻す。後を追ってきたイリスとアリサ、そして息切れしながら遅れている靖治たちは人混みに立ち往生してしまった。


「クソッ、あたしは空から追うわ!」

「わかりました、私はこのまま行きます! 靖治さんは……」

「ハァ……ハァ……」

「役に立たないわよ、ほっとけ!」


 悪辣だがもっともな言葉を吐き捨てたアリサは、魔人アグニを作り出すと、能力に引かれて上空へと浮かび上がって行った。

 残されたイリスは、息も絶え絶えに膝を支える靖治に振り返っている。立ち止まっている彼女に、靖治がなんとか声を絞り出した。


「くっ、ハァハァ……イリス、先行って……どうせ僕じゃやれることないし……ハァハァ……」


 靖治としては首を突っ込みたいがこれはわがままだ、無理を言って足を引っ張ろうとまでは思わない。

 しかしイリスは思うところがあるのか、虹色の瞳で靖治の姿を見つめ続ける。


 そして十数秒後、街の上には建物の上を駆けるイリスと、彼女にお姫様抱っこで抱えられた靖治の姿があった。


「いいのかい? 僕が巻き込まれるのは、イリスにとっては嫌じゃないのかな」

「私が護るから大丈夫です! それに、見ていて欲しいんです」


 イリスはジャンプの瞬間にふともものスラスターを併用し、屋根伝いに飛び跳ねながらシュナイダーを追う。

 靖治は汗で濡れた額に風を爽やかな感じながら、イリスの願いに深く頷いた。


「そうか……わかった。僕に君が必要なように、イリスが僕を必要としてくれるなら、君から目を離さないよ」

「ハイ!!」


 そんな二人の様子を、アグニと共に飛行するアリサは上空から眺めていた。


「何やってんのよイリス、も~……」


 この状況下で足手まといを増やすことに批判的なため息を漏らすが、それより目標を追いかけることが重要だ。

 通りを抜けたシュナイダーは橋上の市街までたどり着くと、近くの係留所から階段を下って橋の下に潜っていってしまった。


「あいつ川に……マズイわね、街が邪魔でどっちに行くかわからない……!?」


 暗い橋の下で川に勢いよく飛び込んだシュナイダーは、水飛沫を上げながら一度潜ったあと、水面に顔を覗かせて上流方向へと泳ぎだした。

 しがみついていたミールも、水をおっかぶりながらシュナイダーに連れて行かれる。


「ぷはぁっ!? はな゛っ、鼻に水ォエッ」


 後に続いてやって来たイリスは、靖治を下ろしながら階段を駆け下りて、去りゆくミールの背中を見つけた。


「川に……通常装備では追い切れません!」

「アリサー! シュナイダーは上流! 北方向に行ったよー!!」


 靖治が大声を張り上げて行き先を伝えると、上空のアリサは「リョーカイ!」と叫んで街の北側へと進路を向けた。

 イリスは川を突き進むシュナイダーとミールの後ろ姿を眺めて、ギュッと拳を握る。


「仕方ありません、不確定要素に頼りたくはありませんでしたが、パラダイムアームズ起動!!」


 そう叫ぶと、イチかバチかでイリスは川に向かって跳び上がり、服の下から両肩のファンが現れて回転した。




 パラダイムアームズ:起動


 心紋投影開始/成功


 定着したシンボルを船と仮定/着色開始


 本機能を定義/マキナライブラリからスポーツ用水上バイクを抽出完了


 フレーム設計完了/内部構造設計完了


 マテリアルのブレンド完了/生成開始




 ファンが音を鳴らして空気を吸引し、機体内部で未知の素子を生成したイリスは、光りに包まれて機体を分解、再構築する。

 背中からニョキリとハンドルが後ろに向かって伸びる。スカートに隠れた下半身が丸ごと作り変えられ、足の代わりに現れたのが流線型の艷やかなボート部分。

 ザパンと音を立てて水面に浮かんだ彼女の姿に、靖治は呆然とぼやきを漏らした。


「……水上バイク?」


 思ぬ形状に固まるイリスだったが、やがて靖治へ振り向いた。


「乗ってください」

「マジで!? やった!」


 そのころ、靖治たちがいるところから遥かに上流では、相変わらずミールが悲鳴を上げながらシュナイダーのオレンジ色のタテガミを握りしめていた。


「あ、暴れんなよぉー!!? いきなり何なんだよお前! 落ち着けって!」

「ガーウガーウガ~ウ~♪」

「風が気持ちいいだろって……お前なぁー!!?」


 彼らが向かう少し先に、一隻のボートが水面を漂っていた。

 ウェットスーツに身を包んで銛を持った二名の中年の男が、ボートのヘリに腰を置いて雑談にふけっている。


「いやー、たまには銛で魚とるってのも乙なもんだな!」

「だろ? 自分で獲った魚は食べると格別……あら、何だありゃ?」

「退いてくれー!!!」


 のんびり話していた罪なきおっさんたちが、横から突っ込んできたシュナイダーにボートを転覆され、「おわー!?」と悲鳴を上げながら川へ収穫ごと頭から落っこちる。

 ミールは増えていく被害に血の気を引かれながらシュナイダーを見下ろした。


「お前いい加減にしろよー!?」


 睨みつけていたミールだが、シュナイダーが口に何かを咥えていたことに気付いた。

 シュナイダーが速度を落とし、咥えていた細長い物を上に放り投げてきたので、ミールは思わずそれをキャッチする。

 それはさっきのおじさん方が持っていた銛だった。


「ガウッ」

「武器だ、って……お前、なに考えて……」


 意味を上手く飲み込めず、持たされた銛を見つめる。

 ミールが持たされた物に戸惑っていると、右隣から突如大きな水飛沫が上がった。

 飛んできた飛沫が顔をビシビシと叩き、ミールは思わず目を細めて驚く。


「うわっぷ、なんだ!?」


 飛沫の向こう側から現れたのは、下半身が水上バイクに変貌したイリスと、それに乗って感じる風に歓声を上げる靖治の姿だった。


「イヤッホォー!!! たんのしぃー!」

「靖治さん! 説明した通り、これは誰かが乗っていないと作動しません。コントロールはこちらでしますので、アクセルだけお願いします!」


 暴走するシュナイダーを追い駆け、トップスピードで一気に隣にまでかっ飛んできたのだ。


「オーケーオーケー、任せといて。ぶっちぎりで優勝狙うさ」

「ブッちぎっちゃダメですよ! 並ぶだけです!」


 冗談を言いながらも靖治はアクセルを緩めて、シュナイダーの隣を並走するようにスピードを調節する。


「ミールさん!! そこは危険です! こちらへ来てください!!」


 イリスはそう叫んで、ミールへ向かって左手を伸ばしてきていた。

 それ見た瞬間、ミールの胸の内にズグリとえぐい痛みが走った。

 シュナイダーに連れ去られたこの状況、イリスにだって心配されるのは決まってる。それに理性は、彼女の言葉に従ったほうが安全だと結論を出していた。


 ミールはイリスの手を掴もうと反射的に右手を突き出した、だがその手に握られていた武器を見て、胸が騒ぐ。

 胸がざわめく、ここは助かるべきだと頭では考えているのに、痛みがそれを許してくれず自身に何かを訴えかけてくる。

 やがて内側から決壊した力が、その選択を否定した。


「くっ、ウワアアアアア!!!」


 わずかに逡巡したミールは握り込んだ銛を振り回し、差し出されたイリスの手を弾き飛ばした。

 それを見たシュナイダーは余計勢いづいて速度を増し、イリスは弾かれた手を握って呆然と遅れてしまう。


「ミールさん!? どうして……」

「ともかく追いかけるんだイリス」

「は、ハイ!」

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諸事情により明日の更新はお休みします、ごめんね!

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