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1000年後に、虹の瞳と旅をする。  作者: 電脳ドリル
三章【カルマ・オーバーラン!】
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52話『意地っ張りの気合と根性』

 ワニのような霊獣シュナイダーと、リザードマンに分類される人種のミール。お互いに爬虫類らしい鱗を備えた両者は、土俵の上で向き合って好戦的に笑うと気を引き締める。

 四つん這いで自然体の姿勢でいるシュナイダーの前で、ミールが大股で腰を落として土俵の上に拳を乗せて突撃の構えを取る。

 ピリピリとした緊張感が流れる中、アルフォードの声がスピーカーを通して発せられた。


『試合開始ィ!!』

「フンッ!」

「ガウッ!!」


 真正面から突撃し合ったミールとシュナイダーが、激突の直後衝撃に押されて後ろに飛ばされる。

 巨体のシュナイダーはわずかに怯む程度で済んでいたが、重量で負けるミールはたたらを踏んで後退させられた、だがそれでも土俵を踏みしめ痛みを堪え、すぐに戦いに向き直る。


「ぐっ……もいっちょ行くぞォァ!!」

「ガッ!」


 叫んだミールが走り出してシュナイダーに接近すると、左右にフェイントを掛けて揺さぶってから、シュナイダーの左側に回り込もうとした。

 だがそれをシュナイダーは長い頭を振り回し、力づくで吹き飛ばしにかかる。

 ハンマーのように強打してくるシュナイダーの攻撃を、ミールは両腕でガードして耐えきってみせた。

 しかし衝撃で土俵際に押しやられてしまい、ステージから落ちそうになところを両手と尻尾を必死に振り回して踏ん張る。


「うわっとっとっと!?」


 なんとか踏みとどまったミールは、体勢を整えるともう一度腰を落として身構えた。

 巨大なシュナイダーに睨みつけられて、プレッシャーを鱗に感じながら、負けじと笑って睨みかえす。

 善戦するミールに、観客達も沸き立ち始めた。


「おぉ!? 意外とつえーぞあのトカゲ!」

「トカゲってどっちだ? どっちもトカゲみたいなもんじゃん」

「やれー! 兄ちゃんいてまえー!!」


 勝負を眺めながら、オーガストがアルフォードの隣でつぶやきを漏らす。


「ほぉ、あのミールという新人、中々鍛えられてるな」

「そうなのか?」

「あぁ、動きのところどころに迷いがあるが、それでもよく練り込まれた筋肉だ。日頃からトレーニングしていると見える」


 大勢のギャラリーを魅せて、詰め寄ったミールの張り手がシュナイダーの顔を叩いた。


「オォラ!」


 バシンッと大きな音が鳴らされて会場に響き、観衆を驚かせながらミールの立ち回りが続く。

 シュナイダーが身体全体のタックルを仕掛けてくるのを、ジャンプして転がるように飛び越して避ける。

 立ち位置を入れ替えたミールは、そのまま相手を土俵から追い出そうと回し蹴りを放つと、シュナイダーの身体がわずかに揺らぐ。


「まだまだぁ!!」


 続けざまに拳に切り替えて二発目、三発目、四発目。

 絶え間なく打ち込まれる攻撃で、徐々にシュナイダーの身体が土俵際へと押しやられていく。


「おぉ!?」

「いけっかー!?」

「頑張れミールさーん!」


 迫真のせめぎ合いに歓声が上がり、靖治も拳を握って声を張り上げた。

 だが攻め過ぎたミールが息切れしてわずかに動きが鈍った瞬間を狙い、シュナイダーが体を捻って尻尾で薙ぎ払ってきた。


「しまっ――グッ!!」


 腕で身体をかばったものの、今度は衝撃を殺しきれずミールの身体が土俵から浮き上がり、場外にはじき出されてしまった。

 音を立てて地面に倒れ込むミールを見届けて、アルフォードの判定が響く。


『一本!』

「かぁー、いてぇー……ハハッ、やれると思ったんだけどな」


 悔しがりながらも、思いっきり打ち合えたミールは爽快感に目を細めて笑っていた。

 そんなミールに、シュナイダーはのそりと土俵から降りて来ると、ミールの隣に歩み出てきて身体を横たわらせた。


「ガウッ」

「ハア? 何だ、乗れって? どういう……」


 目を丸くしたミールが、つぶらな瞳のシュナイダーとしばらく見つめ合い、口端を吊り上げて笑いを零した。


「……んじゃま、参加賞ってことで」


 観衆に囲まれる中でミールがシュナイダーの身体に登り、タテガミの後ろに馬乗りになる。

 ミールがしっかりと腰を落ち着けるやいなや、急にシュナイダーは目を光らせて大きく口を広げて吠えて立ち上がった。


「ガーウ! ガウガウ、ガウ!」

「うわっ!? お、おい、ちょ……」

「ガウッ!」

「掴まれって!? お前なに言って――うわああああ!!!?」


 驚く暇もなくシュナイダーは背中にミールを乗せたまま走り出し、見物客を蹴散らしながら広場から逃げ出してしまった。

 ふっ飛ばされた観客が悲鳴を上げて阿鼻叫喚に包まれる光景に、靖治たちも呆気に取られて眺めていたがすぐに我に返った。


「追いかけようイリス! アリサ!」

「はい靖治さん!」

「チッ、何やってんのよあいつ!」


 後を追う靖治たちが、轢き逃げ現場を辿って川の方角へと駆け出した。

 三人を見て、オーガストも豚鼻を鳴らす。


「むっ、俺も行くか……」

「待て、オーガスト!」


 緊急事態と見て続こうとしたオーガストを、アルフォードが制止した。

 アルフォードはメガネを光らせながら、誰もいなくなった土俵を指さした。


「お前はこっちだ、大会の主役が抜けた分を補え」


 会場からはシュナイダーが消え去って「おい、どうしたんだ!?」「俺もう参加費払ったんだけどー!?」と批難の嵐が運営側に向けられている。

 なのでアルフォードの言うことはわからないのでもないのだが、参加者の中に前々からファミリーと敵対していた武闘派が何人も紛れているのを見ていたオーガストは、冷や汗をかきながら言葉を返した。


「……俺は各方から恨み買いまくりなんだが、参加者が殺す気で来るだろ」

「構わん、お前なら大丈夫だろ、行け」

「豚使いの荒い……」

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