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1000年後に、虹の瞳と旅をする。  作者: 電脳ドリル
三章【カルマ・オーバーラン!】
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50話『夜に二人きり』

 日が沈み暗くなった夜のオーサカ・ブリッジシティで、シュナイダーを連れ帰ったミールは橋の下の係留所で面倒を見ていた。

 質の悪い照明に照らされながらミールは階段に腰を下ろし、市場で買ってきた一匹分の鶏肉を手に、がっつくシュナイダーをたしなめている。


「ガウッガウッ!」

「っと、そんな慌てんなって。ほらゆっくり食え」


 夜の時間、更に暗くなった橋の下には誰もやってこず二人っきりで、静かな水面に話し声がよく響いた。

 巨大な顎で骨ごと肉を噛み砕くシュナイダーの様相は、中々に豪快で間近で見ると迫力があったが、ミールは特に気にした様子もなくシュナイダーの肉を投げ入れる。

 それを口でキャッチしたシュナイダーは、口からバリボリと音を立てながらミールに目を向けてきた。


「ガーウ、ガウガウ」

「怖がらないのか、って? そりゃお前ガタイは良いけど、俺らと似てるしそんな怖くねえよ」


 普通の人間から見ればまったく違う生物のシュナイダーだが、ミールから見れば同じ鱗を持った同士のよく似た隣人だった。

 むしろ一般に人間と呼ばれてる者たちと比べれば、シュナイダーのほうがよほど親しみやすいように感じる。


「俺らみたいなのはさぁ、こっちの世界じゃリザードマンだとかトカゲだとかで一緒くたにされてよ、まったく失礼な話だぜ」

「ガッ!」

「おっ、慰めてくれんのか? へへっ、ありがとよ」


 お礼にシュナイダーのタテガミを撫でてやると、目を細めて気持ちよさそうに「ウゥ~……」と声を出した。こうしていれば話のわかる気のいいワニ、もとい霊獣だ。


「それにお前より怖えやつを知ってるからな」


 一瞬、遠い目をしたミールは、丸く大きな背中を脳裏に浮かべ、すぐにシュナイダーへと視線を戻した。


「お前の前のパートナーってアレか? あの猿みたいなのか?」

「ガウッ」

「そうなのかぁ……他の世界じゃ、人ってみんなああらしいな。俺の世界とは全然ちげえ、あんなおっかない猿いねーよ。どいつもなんかつえーよな、腕力とじゃなくて、背中がシャンとしてるって言うか……」


 それまで狭い村を中心として狩猟生活を送っているだけだったミールには、ワンダフルワールドに来て、いきなり世界が広げたことに大いに困惑したものだ。

 どこにも行くあてはないし、どこに行っても良い。村から出て、街から街へとさすらいながら、その自由と空の大きさに押し潰されそうな日々だった。

 だが同じステージに立ちながら、この世界に生きる人々はみんな力強く生きている。ミールにはその光景は眩しすぎて、驚くばかりだ。


 そうして語っていると、不意にシュナイダーがミールのことについて尋ねてきた。


「ガウルル」

「……俺の仲間はみんな死んじまったよ、もう俺一人だ。お前と同じだよ」


 語りながら、寂しさを紛らわすようにシュナイダーのタテガミを繰り返し撫でる。


「オレぁな、村の仲間たちと一緒にこの世界にやってきたんだ。そんで、村のミズホスってヤロウがリーダーになって、他人から奪いながら生きてきた」


 正直、嫌な日々だった、逃げ出したかった。でも行くアテがないからと流されてきた。

 そんな自分に自己嫌悪して、自己嫌悪する自分を笑ってしまって、そうすると次に浮かんでくるのは、いつもミズホスの丸い背中だった。


「ミズホスのやつはな、すげー嫌なヤツなんだ。すぐ機嫌悪くなって怒鳴り散らして、前に出たがるくせに頭が悪くてよ。面倒事は他のやつに押し付けてばっかで。でもこれがよー、強いんだ、俺もこっそり鍛えて追いつこうとしてみたけど、全然かないっこねえし」


 撫で付ける手が、段々と遅くなっていく。

 表情が歪み、視線を下げたミールは、か細い声で漏らした。


「ホント……嫌なヤツだったさ……」


 複雑さを増した声を、シュナイダーは黙って聞いている。

 思いつめたミールは、ぽつぽつと身の上話を漏らし始めた。


「今日、お前が戦った女二人がいただろ、あいつらが俺の仲間をやっちまったんだ。けど構うこたねえ、みんな悪さしてたんだ、殺されて当然さ。だからどうともねえよ」


 ミールの言葉は冷静ではあったが、思考ばかりが先に行きがちでもあった。

 それをたしなめるように、シュナイダーがミールを見上げながら唸り声を漏らしてくる。


「グルル」


 ――それでいいのか?


「……だから言ったろ、自業自得だって、復讐なんて逆恨みもいいとこじゃねえか。そんなことに煩ってる暇ねえよ、俺は生きなきゃなんねえんだ」

「ガウルグルガウ」


 ――生きようとする意思、それは立派だ。だがそれだけで足りるのか?


「なんだよ、それ……」


 ミールの言うことは一理あるだろう、だが彼自身がその言葉に納得が行っていない。

 そのことを伝えるかのように、シュナイダーはじっとミールを見つめたまま目を離さない。


「そんな眼で見んなって……」


 その真っ直ぐさに思わず怯えてミールが顔をそらす。


「ガウガウ、ガウ」


 ――胸の内にしまい込んだ気持ちは、いつしか嘘になり自分を苦しめる毒となるぞ。


「嘘でいいだろ、怒りだとか恨みなんて気持ち」

「ガウグルル」


 ――なら、実際に彼女たちと戦って確かめてみろ。


「馬鹿言うな、殺されちまうよ」

「ガウ、ガウガウ、ガウ」


 ――生きてるとな、誰だって無性に冒険をしたくなる時がある。

    野を超え、森を超え、どこまでもどこまでも駆けずり回って。

    そういう時はな、深い深い谷の上だって、飛べてしまうものだ


「無理だよ俺には」

「グル」


 ――何故だ?


 短い問いに、ミールはしばし視線を漂わせた後、深い溜め息を付いて階段に寝転がった。


「……飛ぶ気がねえ!」


 ――わかっておるではないか。


 シュナイダーは満足そうにグフフとくぐもった笑いを漏らした。そして春の川辺のような優しい光を目に浮かべて、ゆっくりと喉を震わす。


「ガウ、ガウグル」


 ――のう、ミールとやら。冒険は、良いものだぞ。


 それは頭ごなしの説教ではなく、遊びに誘って手を差し出すように柔らかき音色で、ミールの胸を緩やかになぞる。

 しばし階段の先に広がる星空を見上げたまま、ミールはシュナイダーの声を噛みしめると、少し絆された気になってつい苦笑を零して身を起こす。


「へっ、そんなに言うなら、お前が協力してみろよ。俺のパートナーになるってんなら、考えてやってもいいぜ」

「グウゥガウ」

「臆病者は背に乗せない……って、んだとテメー!」


 カチンときたミールが怒鳴り声を上げると、悪態をつきながら立ち上がった。


「もう良いだろ、俺はもう帰るぜ。明日迎えに来るからちゃんとここにいろよ」

「グウウッ!」


 しかしファミリーの屋敷に戻ろうとしたミールの尻尾に、シュナイダーが食いついてきて足を止めさせた。


「うわっと、なんだよオイ!?」

「ガウルッ!」

「一人じゃ寝られんって……偉そうなこと言ってたクセに、ガキかオメーは! ……うわぁっ!?」


 怒鳴りつけるミールにシュナイダーは首元のタテガミを寄せたと思うと、突然毛先が勝手に動き出してミールの身体に絡みついてきた。

 そのままミールの身体を浮かばせたシュナイダーは、彼を自分のタテガミに埋めさせると、ご満悦の様子で鳴き声を上げた。


「キュウ~ッ♪」

「ぐおお……てんめ、覚えてろよ」


 暑くてうだりそうな夏の夜、タテガミのベットはしっとりサラサラで意外と寝心地は悪くなかった。

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