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1000年後に、虹の瞳と旅をする。  作者: 電脳ドリル
三章【カルマ・オーバーラン!】
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39話『仕事の話をしよう』

 オーサカ・ブリッジシティ。近畿地方の中でも有数の大型空間結界により繁栄した大きな街だ。

 旧大阪湾砂漠に沿って流れる統合近畿河川のわずかに東側に、結界の中心点があり、陸地の大部分は農耕や畜産にあてられている。

 普段の人々の生活圏の八割が、川の上に闇雲に張り巡らされた橋の街にあるが、もちろん陸の上で生活している人々もいる。


 結界の中心地点は活気で賑わっており、その更に中央にあるのが街を統治するリキッドネスファミリーの本拠地だ。

 勢力間の争いに備えて頑強なコンクリート製の屋敷の一室には、窓ガラスから夏の強い日差しとうるさい蝉の鳴き声がよく入ってきていた。


「さて、賠償金を支払われたからと言って、そのまま釈放という訳にはいかない。我々にも体裁というものがあるからな、下らないように見えて、これが非常に重要だ」


 冷房が効いた部屋の中で、蝉の鳴き声を聞きながらそう切り出したのが、ファミリー現当主であるウサミミ男のアルフォードだ。

 客間で一人用の椅子に腰掛けており、眼の前のテーブルには彼が直々にコーヒーを注いだカップが四つ置かれていた。

 そのテーブルを挟んだ向かい側の広いソファに、右からイリス、靖治、アリサの三名が並んで膝を揃えて座っていた。


 アリサが街で大暴れしてまだ数時間、彼女の首には爆弾付きの首輪が装着されており、まだ自由の身にはなっていない。イリスのメイド服も一部が焼け焦げたままだ。

 現在はアリサの開放について、詳しい話をしている段階だった。


「そこでだ、君たちには我々の仕事を一つ片付けてもらいたい、この依頼の達成をもって手打ちとしよう」


 アルフォードの提案に、靖治が代表して返答をした。


「内容をお聞かせ願えますか?」

「ウム、まず街の状況をざっと説明しよう。一ヶ月前、この街の統治者にして空間結界の術者でもあったリキッドネス様が暗殺された。それ自体は予見されたものでもあったので、先代の死後、組織や街の統治自体は問題なく引き継がれた。だが空間結界はそう上手く行かなかった。現在は私が結界を行使しているが、力量及ばず結界の大きさは2割減。また性能自体も下がり、その影響が随所に出ている」


 話しながら、アルフォードはつい左胸のポケットチーフを指でいじる。話している彼自身の耳に痛い話題だ。


「元々、この街の空間結界には害獣除けの効果が盛り込まれていたが、これが低下している。陸地は目が届きやすいから良いが、特に問題なのは川から来る類だ」


 害獣、と言ってもこのワンダフルワールドにおいては、単なる野生動物の範疇にはとどまらない。

 ひっきりなしに異世界からの存在が転移してくることにより、神話やおとぎ話で出てくるような存在でさえ当たり前のように闊歩しているのだ。


「魔獣、化物、悪魔。まあ色々呼び方があるがモンスターという呼び方が一般的だな。どうやら結界をくぐり抜け、河川内で行動しているモンスターがいるようで、被害が相次いでいる」

「被害というのは物ですか? それとも」

「人だ」


 敏感なワードに靖治とアリサの顔が引き締まる、だが続いた言葉はそう思い悩むほどのものではなかった。


「と言っても今の所は死亡者はなし。暗い時間帯に一人で出歩いていた者が、川から街に上がってきた大きなモンスターに襲われた、というのが共通のケースだ」

「襲われたとは、どういうふうにですか?」

「川から上がってきた巨大な影が、いきなり体当たりを仕掛けてきてぶっ飛ばすらしい。被害者が動けなくなるとそのまま去るという話だ。大体は脳震盪か、悪くて骨折程度で見逃されてるな」

「なんだ、平和な話じゃない」


 アリサが言うように、怪我で済んでいるのならこの世界では大した話でもない。襲われた挙げ句身体に卵を植え付けられ生きたまま繁殖の巣にされる、みたいな話じゃないだけマシだろう。


「とは言え、被害者の中にはうちのファミリーでもそれなりに実力者も含まれる。容易な相手ではないということだ。君たちにはこれの解決をしてもらう。街を破壊したり、人を犠牲にしなければ手段も結果も問わん、必要なものがあれば内容によっては検討する。寝泊まりはこの屋敷の部屋を一つ貸そう、食堂の無料券を毎朝に配布。ただし仕事にあたってウチの新入りを一人、勉強として面倒を見てもらいたい」

「なにそれ、めちゃくちゃ好条件じゃない」


 罪人に対してどんな無理難題を吹っ掛けてくるのか、覚悟していたアリサは拍子抜けした様子で肩を落としていた。

 しかしすぐ訝しむ顔をしてアルフォードの無愛想な顔を覗き見る。


「オタクさん、何考えてるわけ?」

「別に、わざわざ人を苦しますサディストでもないというだけだ。我々としてもさっさと解決してもらいたいからな、必要な支援はするとも」

「んじゃ、この物騒な首輪も、さっさと外してもらいたいんだけど」

「おや、好みではなかったかな? 手錠もしているし、てっきりそういう趣味なのかと」

「ざけんじゃねーわよ」


 真顔で下らないジョークを披露するアルフォードを、アリサが苛立たしそうに睨みつけた。

 鋭い視線を受け流したアルフォードが、改めて口を開く。


「爆弾については、今回の件が完了するまでそのままだ。この屋敷から12時間以上離れん限り無害だよ」

「チッ、アグニが使いにくいったらありゃしない」

「あっ、じゃあ僕が代わりにつけよっか?」


 軽い調子で請け負おうとした靖治に、アリサとアルフォードも目を丸くする。

 そしてそれ以上に切羽詰った様子でイリスが食って掛かった。


「だ、ダメです靖治さん! 何考えてるんですか!?」

「だって僕、戦闘じゃ役に立たないわけだし。それならアリサが自由に動けるほうが良くない?」

「そうですけど危険です! そんないつ誤爆するかわからないものを靖治さんに着けさせません!!」

「あくまでそれはアリサ君への罰だよ、君が肩代わりできるものでもない」

「そうですか……残念、カッコいいのに」

「お前マジか」


 ファッション感覚で爆弾を身に着けようとする靖治のセンスに、アリサは信じられないものを見る目で睨みつけた。

 話が反れてしまい、アルフォードが咳払いをして軌道修正する。


「それでどうする、こちらの話を受けるか否か」


 尋ねられて、話を聞かされた三人は互いに顔を見合わせた。

 アルフォードが何を考えているのかわからないが、断る理由がないのは確かだ。

 三人はお互いの眼に迷いがないことを理解すると、靖治がアルフォードに向き合った。


「わかりました、提案をお受けします」

「よろしい、では明日からだ。今はこのコーヒーでも飲んで、英気を養っておけ。砂糖も多めだぞ」


 なにせ大騒動の直後なのだ、みんな大なり小なり疲れている。

 真っ先に靖治が「ではありがたく頂きます」と答えてカップを手に取り、アリサもそれに続いてコーヒーを口にした。

 口内に染み渡った深みのあるコクと香りに、靖治はメガネの奥で眼を輝かせる。


「んっ、美味しいですね」

「まあ、確かに。そこらの店よりかマシね」

「ふふふ、わかるか。淹れ方にもこだわっているのだよ」


 アルフォードが珍しく仏頂面を崩して得意げに薄く笑う。

 しかし靖治の隣に座ったイリスは、カップに手を着けなかった。


「イリスは飲まないの?」

「私は基本食事を必要としませんから」

「機能はあるの?」

「もちろんです! 人間と変わらない味覚センサーが搭載されております!」

「じゃあ試しに飲んでみたら良いと思うよ」

「せっかく淹れてたものだ、飲んでくれたら私も喜ぶ」


 周りから促され、イリスは「じゃあ……お試しに」と言って、銀色の細い指でカップを取り、コーヒーを一口飲んでみた。

 音を立てずに含んだ液体を舌で転がして、味と匂いを確かめてみる。


「どうだ?」

「んー、よくわかりません!」

「そ、そうか……」

「すみません、アルフォードさん。彼女は人の習慣に慣れてなくて」

「いや、気にしなくとも良い」


 靖治のフォローにアルフォードは手を立てて返す、彼は真実怒ってはいなかった、というか無邪気になじられてちょっと興奮していた。軽いマゾだった。

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