38話『これからの契約』
街中での一悶着があってから数時間後、アリサはオーサカ・ブリッジシティ中央の、リキッドネスファミリーに拘束されていた。
幸いにも人的被害は出なかったとは言え、あそこまで大暴れしたのだ、まあしょうがないとアリサは自主的に拘束を受け入れた。
元々つけていた手枷を鎖で繋がれた上で、爆弾付きの首輪を着けさせられて、薄暗い牢屋の中でベッドに腰をおろし、目を閉じて休んでいる。
牢屋部屋の入り口の金属製扉が、ギイイイと音を立てて開かれて、アリサが少しのあいだ目を開けて牢屋の外を見た。
部屋に入ってきたのはウサミミを揺らしたスーツの男、ファミリーの現当主のアルフォードだ。
牢屋の前に歩み出てきた彼は、ピシッと両足を揃えてアリサを見下ろしてくる。
「随分と殊勝な態度だな、もう気が済んだのか?」
「まあそんなところね」
「今回のことは放棄予定の退避区域ゆえに人死には出なかったが、随分な損害が出た。滋賀のファクトリーから仕入れた警備ロボがいくつも壊れたし、無計画に街を崩されて瓦礫の除去も人手がかかる、ついては街の法律に基づいて損害分の金額を請求させてもらう。当分はタダ働きだ、それが嫌なら内臓でも売りに行くことをオススメする」
「ヘイヘイ、わかってます、働かせてもらうわよ。処刑されないだけありがたいと思わなくっちゃね」
街に逆らった逆賊として見せしめに殺さないだけ、この男は有情だ。
素直なアリサに対し、アルフォードは左胸のポケットチーフを指でいじりながら、続けて口にした。
「ところで、お前の損害賠償を肩代わりしてもいいと言っている者がいるのだが」
アリサは何食わぬ顔で、片目を開けてアルフォードを見上げた。
◇ ◆ ◇
「やっほーアリサ。元気してるー?」
「お久しぶりですアリサさん! 先程は失礼しました!」
牢屋から出て面会室に来たアリサを待っていたのは、やはりというか靖治と、リュックを背負ったイリスの二人だった。
ガラスの仕切りの向こうから、靖治はのんきに笑顔で手を振ってきていて、イリスはボロボロのメイド服のまま敬礼するようなポーズで明るい声を上げてきている。
アルフォードが監視する中、椅子に音を立てて座ったアリサは、肩の力を抜きながら呆れたように口を開いた。
「やっぱ、あんたらだったか」
「そりゃもちろん。僕はまだ諦めてないからね」
「一緒に旅ねぇ。そっちの女はあたしが入っても良いわけ?」
イリスの方へを見やる。思えば彼女が一番振り回されたわけだが、イリスは清々しい笑顔で言葉を返した。
「ハイ! アリサさんが靖治さんの人生に必要な方というのなら、迷うことはありません!」
「ったく、大した忠犬だわ」
「ところで、どうしてアリサさんはあそこまで私と戦おうとしたのでしょうか? まだよくわかっていないのですが」
「聞くな、恥ずかしい」
正直なところやけっぱちになっただけというのが大半なので、アリサは頬を薄っすら赤らめて顔を背けた。
そのまま横目で靖治のとぼけづらを覗き見て、すぼめた口で言葉を吐く。
「……あんた、酒と煙草はやる?」
「うん? どっちもやらないよ、お酒はちょっと興味あるけどね」
「そうか」
アリサは一呼吸おき、素知らぬ顔で考えておいた文面を述べる。
「あたしに迷惑かけるほど飲まないこと、それが条件よ」
ぶっきらぼうに、努めて事務的に言葉を並べてやった。
「それができるってんなら、賠償金の肩代わりを報酬に契約してやっていい。契約書の書面は後で整えるわ」
あくまで傭兵としてのスタンスを取るアリサに対して、靖治は満面の笑みを浮かべて嬉しそうに拍手を鳴らした。
「よっし、決まりだ! これからよろしく頼むねアリサ!」
「はいはいよろしく。しかしあんたも馬鹿よねー、あたしみたいなの誘っちゃって、あとで後悔しちゃっても知らないわよ」
「しないさ、きっとね」
憎まれ口を叩くアリサに、靖治は真っ直ぐな視線を向けてくる。
曇りのないその眼を見て、アリサは少しだけ、けれど久しぶりに笑えた気がした。
「ったく、しょーがないやつ」
話を聞かないやつだけど、心の声は聞いてくれるやつだから。
こんなにも真っ直ぐ、あたしを信じてくれるやつだから。
まあ、こういうのも悪くない。
「いつにも増して随分と甘い処置じゃないか」
薄暗い廊下を歩きながら尋ねられ、アルフォードはポケットチーフを指でいじる。
「なんだ、不満かオーガスト?」
「そうではない、ただ疑問なだけだ」
「リキッドネス様からのお達しだからな、機械の少女きたらば道を閉ざさぬように」
尊敬する先代への想いを込め、それだけ唱えれば後ろのオーガストは納得する。
しかしそう言った彼自身がそれだけでは納得していないかのように、顎に手を当てて神妙な顔で何かを思案していた。
「とは言え、このまま開放というのも芸がない。少し試させてもらうとするか」
To Be Continued!
・後書き
ハッピーニューイヤー! 明けましておめでとうございます! ゆかてん!
というわけで二章まで書くことができました、読んでくださっている皆様ありがとうございます。
たまたま新年と同時に区切りがいいとこまで来ました、面白い偶然ですね。連載というのもけっこう大変な部分も多いですが、ボチボチやっていきたいと思います。
二章に入り、そろそろ主人公らしい尖りっぷりを見せ始めた靖治くんの脅し……もとい説得により、無事(?)にアリサを仲間を加えることになりました。
すでに常識人寄りで苦労人な気質が漏れ出してますが、この先ももれなく苦労します。靖治に眼をつけられたのが運の尽きだ。
ぶっきらぼうだけど面倒見が良くて可愛いアリサちゃんをよろしくおねがいします。でも本人にちゃん付けすると多分睨まれるよ。
実は今回、36話『靖治が征く!』にて、後から宝石や巻物を使うシーンで詠唱文や元々の製作者を匂わすモノローグなどを追加しました。
こういう後から書き足し書き直しなどは、すぐに読んでくれる人に失礼だし、筆から緊張感が薄れてしまうので良くないなーと思っていたのですが、今回は「いや、やっぱあったほうがいい!」と強く思い書き足すことに。投稿直後に読んでくださった方は申し訳ありません。
未熟者故あまり確信を持って書けず、少しずつ試しながら書けることを増やしていっている作者ですが、よろしければ引き続きお付き合いくだされば幸いです、楽しんでいただければもっと幸い。
それと作者の脳天気な頭にて、何故か今まで『介護』と『看護』がごっちゃになってましたので、イリスの生い立ちを『介護ロボ』から『看護ロボ』に書き換えました。書き直してばっかりでごめんちゃい!
調べたら介護と看護の定義って曖昧なのでどっちでもそこまで間違ってないみたいですけど、病院づとめなので看護ロボットにしておきます。
ところで作者は、元々東方畑で百合SSを耕してまして、ゆかてん(八雲紫×比那名居天子)の作品ばかり書いてました。
この二人を殴り合わせたり、イチャイチャさせたり、ぶつからせたり、仲睦まじくしたり、殺意を持って戦わせたりしてたわけですね、喧嘩はゆかてんの華。
魂から衝突し合うゆかてんのお話、もしよかったらご覧くださいませ、そして作者と一緒にゆかてんの沼に落ちよう!
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