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1000年後に、虹の瞳と旅をする。  作者: 電脳ドリル
二章【栄光のきざはし】
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31話『アリサの選択』

「アリサ先に出ちゃってたんだねー、残念」


 宿で起き出した靖治は、服を着て身支度を整えながらそういった。

 ズボンを履いてベルトを締める靖治の隣で、イリスが上着を持って待機している。


「靖治さんはアリサさんのことをしきりに気にしますね、何故ですか?」

「助けられたし、優しそうだし、彼女とは仲良くしたいよ」


 そう言いながらイリスから上着を受け取り自分で袖を通す。夏場だが特性素材のおかげでそんなに暑くないし、防弾防刃で安全なので一応着ていた。

 二人の脇を、同部屋の男たちが通り過ぎていった。


「じゃあなボウズども~」

「達者でな」

「はい、縁があればまた。イリス、僕らも行こうか」

「はい!」


 イリスは今日もリュックを背負って、靖治の隣に並んだ。

 靖治は昨日のうちに買ったパンを食べながら、人が増えだした朝の街を歩いていく。


「今日はこれからどうするの?」

「川の上流に行きましょう。街の外では淀川を使った琵琶湖との定期船が出ています、この世界では非常に珍しい安全な交易ルートです」

「船かぁ、初めて乗るから楽しみだなぁ。荷物は今日も任せて大丈夫? 問題があれば僕も持つよ」

「心配いりません! このイリスにお任せ下さい!」


 二人は空間結界の範囲内を超え、再び退避推奨区域に足を踏み入れた。

 街の北西部分、この辺りは住民の避難が終わっているようで、ほとんど人影が見えない。


「街の南側は結界の外でも人が多かったけど、ここらへんは少ないねー」

「この街の空間結界は、水害への防御も兼ねていますからね。この辺り川が氾濫した際に守られず、危ないので解体されるそうです。そのため北側の生活は厳しく取り締まられてるそうです、と宿のおじさんが言ってました!」


 足元の下に流れる川を、時折建物の隙間から覗いて自然を感じながら歩く。


「――よォ、脳天気なお二人さん」


 そこに、二人の進行方向を塞ぐようにして、アリサがマントを揺らしながら脇道から現れた。

 何やら好戦的な笑みを浮かべた彼女に、靖治は喜んで声をかけようとした。


「やあ、アリ――」

「いっちょおっ死ね」


 アリサの背後に猛然と燃え立って現れた赤熱の魔人が、雄叫びとともに振りかぶり、拳から炎弾を撃ち放ってきた。

 ボーリングほどの大きさの炎が飛んでくる光景に、イリスは驚愕し、瞬時に意識を切り替えて、靖治の前に飛び出た。


「トライシリンダーセット! シュート!」


 右手を開きながら前方にかざすと、シリンダーを展開して即座にフォースバンカーを放つ。

 チャージ率は各10%。低出力だが、手の平から放たれたエネルギーが障壁を作り出し、魔人の炎弾と打ち合った。

 相殺された爆風が一瞬視界に広がる。炎は嵐が吹きすさぶようにうねりを上げながらも、間一髪イリスの両側へ弾かれ、代わりに地面には楕円に沿った焦げ跡ができあがる。

 黒煙が漂う中央で、眼を見開いて真っ直ぐ相手を見据えるイリスの背後から、靖治がメガネを光らせて話しかけた。


「アリサ、これどういうことかな?」

「ふん、決まってるでしょ。ぶっ殺しに来たのよ、依頼を受けてね」


 魔人を浮かばせたアリサはポケットから折り畳まれた契約書を取り出すと、二人の前にかざしてみせた。


「ミズホスのやつを倒されて、あいつの部下共はカンカンよ。大金を抱えてあたしに依頼してきたわ、そこなメイドをぶち殺してくれってね」

「あれは正当防衛だよ」

「頭に血が上った奴らにそんなの関係ないわよ、逆恨みでも何でも、トカゲ共はそいつのことぶっ潰したくてウズウズしてるわ」

「そうじゃなくて、君の話だよアリサ」


 紙切れを隔てて得意げに話すアリサに向かって、靖治が真っ直ぐ語りかける。


「復讐に手を貸して、それで満足するような人なのかい?」

「……ふん、そういうのがムカつくってのよ。お人好しが」


 顔を歪ませたアリサが、契約書を丁寧に畳んでしまいこみ睨みつける。

 相対するイリスも真剣な表情で、敵をしっかりと見つめていた。


「靖治さん、申し訳ありませんが、荷物をお願いできますか」


 イリスは展開していた右腕部のシリンダーを格納すると、一瞬も油断しないようアリサへと注意をはらいながら、背負っていたリュックサックを靖治に渡した。


「戦えるかい?」

「彼女は油断できない相手です、昨日の戦闘では遅れを取りました。しかし靖治さん、信じて下さい、イリスは負けません」


 身軽になり、イリスが身構えると、呼応するようにアリサもまた魔人アグニの火力を強めた。


「イリス! 参ります!!」

「ぶっ壊してやるわよ、ポンコツ女ぁ!!」


 戦闘開始――イリスが太もものスラスターを展開し、即座に飛び込んでいった。

 アリサに向けて牽制のジャブを打ち込むが、魔人が前に出てアリサをかばい、腕で防いだ。

 魔人が両腕を振り回して反撃する。大気を揺らして振るわれる二つの拳を、イリスは防がずに紙一重で避ける。

 そのままアリサの周囲を飛び跳ねるようにして揺さぶりをかけながら、戦場が靖治から離れるよう、より街の外側に向けて誘導していった。


 アリサもマントをはためかせて走り出す。

 握り込まれた魔人の拳が見捨てられた家屋に穴を開け、駆け巡るイリスの靴が足元を踏み砕き、二人の戦いが加速していく。

 置いていかれた靖治は、リュックを深く背負って紐をキツくしめてメガネをかけ直すと、二人の行末を見据えた。


「よし、僕も行くか」

・一行後書き

 クリスマスなのでプリン食べました。

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