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1000年後に、虹の瞳と旅をする。  作者: 電脳ドリル
二章【栄光のきざはし】
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24話『窮地に少女の救いあり』

 すっかりイリスとはぐれてしまった靖治は、早速ピンチに陥っていた。


「うへへー。坊主いいところにきたなぁ、オレらぁ夏だってのに懐が寒くてなー」

「変な服着てるし金持ってんだろー? 分けてくんねぇかなー? 金持ちの義務の麗しきボランティアってやつさ、わかるだろほら?」


 暗い路地裏に引っ張り込まれた靖治の前に立っているのは、いかにもそれらしいモヒカンに真っ黒のマスクを付けた細身の男と、スキンヘッドにまさに世紀末が棘付き肩アーマーを付けた大柄の男の二人組だった。

 どうやら彼らは、この世界では珍しい学生服を着た靖治を金持ちと睨んだらしい。

 これ見よがしに腰にぶら下げた短機関銃を揺らす男たちを前にして、靖治は目を丸くして羨望の眼差しを送った。


「おぉー、すっごい! モヒカンー! 僕リアルで初めて見た!?」

「え、ぉ、なんだぁ?」


 カツアゲの対象がいきなり楽しげに話しかけてくることに驚いて、モヒカンの男が大きくたじろぐ。

 続けざまに靖治は想い投げつけた。


「うわぁー、毛が立ってる部分以外ツルツルだぁ。念入りに手入れしてますね!」

「お? わかるかぁ? いやさぁ、無駄なところは毎日カミソリで剃ってんだぜ。中央は縦まっすぐに増毛して密度も上げててな?」

「おい! お前まで乗るな!」

「そっちのあなたも! 肩アーマーカッコいいですね」

「お、おぉ!? ホントか!?」

「はい!」


 相方をしかりかけていたスキンヘッドのチンピラも、靖治の純粋な声に照れくさそうに頭をかくと、肩をアピールするようにポーズを取る。


「いやぁ、わかるやつに会えて嬉しいよ。見ろ、この鋭さ! 喧嘩でもタックルするのに便利でカッコいいだぜぇ?」

「あっ、実戦でも使えるんですね。どこで買ったんですか?」

「売ってやしねぇさ、手作りだぜ。じゃねえとこのトガリは出せねぇよ」

「ほうほう、ちょっと触ってみていいですか?」

「おうおう、気ぃ付けねえと怪我するぜ」

「じゃあ遠慮なく……いたっ」

「へっ、だから言ったろ?」


 人差し指を軽く刺した靖治は、指先からぷっくりと溢れた血を、軽く舐めて嬉しそうな顔をした。


「へへへ……」


 ずっと病気を患いながら生きていた頃は、周りの人は靖治を気遣って彼を危険から遠ざけた。

 こうやって指から血を流すということも彼にとっては新鮮で、ズキズキした痛みも含めて面白かった。


「ありがとうございます。僕はそろそろ行きますね、連れとはぐれちゃったんで探さないと」

「おぉそうか、見つかると良いな!」

「悪いやつに絡まれねえよう気ぃ付けてなー」


 和やかーな雰囲気になり、靖治は男たちの脇を抜けて路地裏から表通りへ出ようとした。


「じゃあ、ねえ!? サラッと行こうとしてんな!?」

「あっ、駄目です?」

「駄目に決まっとろうが!」


 通りに出ようとした靖治を、チンピラは首根っこを引っ掴んで奥へと引き戻した。

 改めて威圧感を発し、靖治を脅しかけてくる。


「兄さんらとお茶飲むのはいいけど、お金は連れが持ってるんで、今はちょっと手持ちが」

「ンなこと聞いてねぇんだよーぉ!? いいから出すもん出せや! 金ねぇなら内蔵売りに行こうって、な?」

「おい、こいついいとこの坊っちゃんそうだし身代金でも……」


 話の通じない男二人が、語気を荒げて詰め寄ってくる。

 靖治がどのタイミングでこの場から逃げ出すか伺っていると、路地裏の入り口で何者かがバッグを地面に落とし、ボスンと音を立てた。


「オイ、あんたら止めときな」

「あぁん?」


 男たちが振り返り、靖治も同じくそちらを見た。

 明るい通りを背に丸底のバッグを地面に垂らしたのは、紅いツインテールに、マントを背にした一人の少女。

 重い枷の嵌められた手を腰に当てて立つ彼女に、見覚えのある靖治は目を丸くする。


「ンだよ嬢ちゃん、この坊っちゃんの知り合いかい?」

「そいつのことなんてどうでもいいわよ。それより目障りだってのよ、ブチのめされないうちに帰ってクソして寝てろ、このハゲ」

「あぁー!!?」

「このクソガキィ!?」


 バカにするように見下してくる少女に、男たちはいきり立って突っかかって行った。

 その数秒後、男たちは強烈な力によって路地から叩き出された。

 地面に投げ出された男たちは、暗い路地にそびえ立った揺らめく炎の魔人を見て、恐ろしそうな悲鳴を上げた。


「ひぃー!? やべえっ、赤熱のアリサだ!?」

「お、お助けぇー!!!」


 彼我の戦力差を知った男たちは、へっぴり腰で立ち上がり一目散に逃げ出していった。

 様子を眺めていた靖治は、魔人を背に浮かべた少女に驚いていた

 この少女はイリスと戦ってたあの女の子だ、彼女と同じく手枷のついたこの魔人を見間違うはずもない。

 朝方は戦艦で随分乱暴を働いた彼女だが、こうやって人助けもする人らしい。


「ったく、しょーもなっ。あんたも、弱っちいくせに一人でぶらぶらしてんじゃないわよ」

「あっ、うん。ありがとう」


 咄嗟に返す靖治の前で、アリサは魔人をかき消して振り向いた。

 右手の指にバッグの綴じ紐を引っ掛けて、肩から回して背中に提げると、呆れた様子で靖治の顔を見ながら説教を垂らす。


「今はただでさえ殺気立ったやつが多いってのに、そんなんじゃすぐに殺され……ん?」

「どうかした?」

「あぁ、いや、なーんか見覚えが……」


 アリサは顎に手を当ててよーく靖治の顔を覗き込む。こんな優男は知り合いにいないはずだが、どこかでこの顔を見たような気がする。それもごく最近。

 記憶の糸を手繰り寄せようとするアリサは、靖治に手を向けてクイっと指を動かした。


「あんたさ、その眼鏡外してくんない?」

「うん、いいよ」


 伊達メガネを外して靖治の姿が明らかになる。

 その顔をじっと見つめていたアリサは、やがて心当たりを思いついて「あっ」と声を上げた。


(こ……こいつ、あの病院戦艦にいたっていう男じゃないのよ!?)


 アリサは昨日のうちにハヤテから渡された顔写真を思い出して、愕然とした顔をした。

 思えば学生服を着た靖治の珍しい身なりも、あのメイドっぽいロボ娘の知り合いとすれば頷ける。

 ということは、この近くにあのメイドロボがいるかもしれないということだ。


(ジョーダンじゃないわよ、信じらんない! 依頼もなしにあいつと戦ったって一銭にもなりやしないじゃない……逃げとこ)


 アリサから見て、戦艦にいたというこの少年は信じられないくらいのほほんとした間抜け面を晒している。その動揺のなさからして、こちらが戦艦の襲撃メンバーと気付いていないようだと考えた。

 ならばこのまま何事もなく立ち去るのが穏便だろう――実際には、靖治もアリサの立場には気付いていたが。


「あんた助かったわよね? 怪我してないわよね? 無事よね?」

「うん、おかげさまで」

「ならあんたは慌てず騒がず、感謝と共にお家に帰りなさい。あたしはもう行くから、金輪際会うことはないでしょう、いいわね? んじゃそういうことでっ」


 距離を取ってまくし立てたアリサは、後からこのことで因縁を付けられないように確認すると、片手を上げて即座に路地裏から去っていった。

 置いていかれた靖治はすぐさま考えを巡らせる。



 反応からして、あの少女は自分が戦艦にいたことを知っていたのかもしれない。イリスと敵対していたから警戒して離れたんだろう。

  ↓

 つまり根に持つタイプじゃないし、避けられる争いは回避する程度には穏健だ。

  ↓

 っていうか詳しい理屈抜きにしても、見知らぬ人を助けてくれるって優しいよね。

  ↓

 頼りになりそうだし、彼女のそばにいればひとまず安全では?



「ねえ、ちょっと待ってー!」


 図々しいことを考えた靖治は、慌てて路地裏から飛び出して、早歩きで先を行く少女を追いかけた。

 対してアリサは知らん振りを決め込もうと思い、コンクリートで固められたエリアにツカツカとブーツを鳴らして歩く。

 丸まった背中からはあからさまに関わってくるなオーラが出ているが、靖治はまるで気にせず擦り寄った。


「助けてくれてありがとう! 僕は万葉靖治、君はなんて名前なの?」

「どうだっていいでしょ、そんなこと」

「アリサって呼ばれてたよね、有名なの?」

「うっさいわね、ついてくんな黙れ」

「さっきの魔人カッコよかったねー、怖い人を簡単に追っ払ってすごいや」

「知るかバカ」

「君って貫禄あるねー、何歳なの?」

「16よ、死ね」

「あっ、奇遇だね、僕と同い年だー」

「だー! ウザいからあっち行けってのよ、わかんないのド阿呆!?」


 しつこく言い寄ってくる靖治に、アリサはたまらず中指を立てながら火を吐く勢いで言い捨てた。

 睨むアリサとぽやぽやした靖治。視線を交わした二人は、密かに相手のことを推し量る。


(こいつ、さっきセイジって名乗りやがったわね……昨日の夜、メイドロボが言ってた名前もセイジ。やっぱアレのご主人様がこいつか……面倒だわチクショー)

(この子かわいいなぁ)


 靖治は鋭い視線を受けながらもまるで動じずに、にへらと笑いながら恥ずかしそうに頭をかく。


「行きたいのは山々なんだけど、連れとはぐれちゃって。一人じゃ君の言う通りサックリ死んじゃいそうだし……お願い、助けて! あとでお礼するから!」

「知るかー! こちとら慈善家やってんじゃないのよ! とっとと失せろ、しっし!」

「大丈夫! そば置いてくれるだけでいいし迷惑かけないから!」

「ンな問題じゃねえー!!」


 手を合わせて頼み込む靖治にアリサは激しく吠え立てたが、言葉以上の脅しは掛けないので、結局靖治はついていった。

 夏の暑い中、アリサがそこら中を無駄に歩き回ってみても靖治はピッタリと着いてきた。

 お天道さまが真上まで来たころにはお腹が減ってきたので飯屋に寄る。

 椅子の下にバッグを置いて席についたアリサだったが、丸テーブルに並べられた川魚のフライ定食の向こう側に、ちょこんと座った靖治を前にして、思わず頭を押さえていた。


「クッソ……こいつ昼飯までついてきやがった……」

「美味しそうだねー、味噌汁もついてくるんだ」

「やらないからね!? あんた弱っちそうな顔してるくせに、信じらんないくらい図太いわね!?」

「へへへ、それほどでも」

「ほ・め・て・ねぇー!」


 怒ったアリサが握りこぶしでダンッと机を叩いたが、靖治は相変わらず脳天気に微笑んでいる。

 どうしても居座る気の彼に、アリサは諦めると舌打ちをして箸を掴んだ。



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