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1000年後に、虹の瞳と旅をする。  作者: 電脳ドリル
二章【栄光のきざはし】
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22話『これがオーサカだ!』

 ボロボロになった救急車に乗った靖治とイリスは、旧大阪湾内の砂漠から大阪の街外れまでやってきていた。

 砂漠沿いに建てられたガレージの近くで車から降りたイリスは、シートの下から薄緑色をした折りたたみのリュックサックを取り出して、助手席のダッシュボードの中身を移し替える。

 靖治が覗き込んだリュックの中には、ゴムで括られた大量の札束やキラキラ光る宝石や貴金属で溢れていた。


「うっわぁー、こんなの入ってたんだ」

「私が放浪した二百年で集めた財産です。お金があれば何かと便利ですから、こつこつ貯めてたんですよ」

「綺麗だなぁ、延べ棒とか初めてみたよ。これが金塊の肌触りかぁ、おほほ」


 ツヤツヤした純金をほっぺたで楽しんだ靖治が延べ棒をリュックに戻すと、イリスが蓋をして背負いあげた。


「この車はどうするの?」

「到着と同時に故障したようですし、売ってもお金にならなそうなのでここに置いていきましょう。欲しい人が勝手に分解してパーツを取っていくと思いますよ、ほらあそことか」


 イリスが指さした先には、建物の影からこちらを覗き込んでいる人影が見えた。

 目の部分がバイザーと一体化しているサイボーグらしく、手にはペンチを握りしめながら「くるま……くるまっ……新鮮な車の死体……!」などと呟いている。


「たくましいなぁ……」

「それでは、出発と参りましょう!」

「うん」


 二人は話をしながら砂場から歩き出す。建物に沿って、少しずつ西へと移動した。

 途中、やたらと人で賑わっているガレージがあり、建物の中からは「金返せー!」「カネー!」「勘弁してくれー!!」などと言った切実な叫びが聞こえてきていた。


「1000年後でもお金は必要なんだね」

「はい、異世界から転移した人たちもみんなお金が好きみたいですね。何かと儲けようとする人が多いようです、大阪もいろんな店がありますよ」

「そういえば、街ってどうなってるの?」

「今の時代、長期的に生活を行うには、次元光への対策が必須です。街の真ん中で転移が起きたら大変ですからね」

「あー、上からあんなの降ってきたらマズいよね」


 さっき見た巨大ワームが落ちてくる光景を思い出す、寝ている時にでも降ってこられたら家ごとぺしゃんこだ。

 あんなのに怯えながらでは、とても生活は成り立たないだろう。


「なので、人々はみな次元光よけの『空間結界』を敷いて、その内側で暮らしています。力ある術者が、それぞれ独自の方法で結界を用意しており、空間結界の規模によって街の大きさも左右されるわけです」

「へえ、じゃあその術者さんが街では一番偉いのかな」

「おおよそその認識で合ってます。空間結界の崩壊は住居の破棄とほぼイコールなので、自然と術者を中心として環境が出来上がります。これから行く大阪の街は、この地方でも三本指に入る大きさなんですよ」


 説明を受けながら歩いていると、靖治たちの目の前に大きな川が見えてきた。

 遠くにある向こう岸には砂漠でない土地が広がっているらしく、草や木々が青々しく茂っている。


「おっ、川だ」

「あの川も、これから行く街の重要な要素の一つです」


 久々に見た砂漠以外の地形にどこか安心を感じた靖治だが、すぐに面食らった。

 川幅がいやに大きい、日の光を反射させキラキラと光る水面がずっと続いていて、向こう岸まで何百メートルもある。


「さあ、ご覧ください靖治さん! ここが水と豊沃の街、オーサカ・ブリッジシティです!」


 川岸の近くまで来たところでイリスが左手で示した先にあったのは、大きな川の上に建物が連なり、それらが水上で繋ぎ合わされて、川をまたがる橋のようになっている光景だった。

 水上に出来た建物は、石造りだったり木製だったり、あるいはコンクリートだったりして、それらが縦横無尽で無秩序に組み合わさっており、横から見ると一種のモザイクアートにように水の上で映えていた。


「水の街……? あれって、川の上に街ができてるの!?」

「はい、その通りです! 大阪湾内に転移したこの砂漠は、概念的に水を寄せ付けない性質があったんです。そのため、淀川を初めとしたいくつもの河川が合流し、川幅1km以上の巨大な川となり砂漠のすぐ外側を迂回して流れているのです。ここはそこにできた街なんですよ」


 深く観察すると、川の中から生えている建物がポツポツと点在するのが見えた。

 どうやら川の底から土台を伸ばした建物がいくつかあり、それを中心として傘のように足場を形成して別の建物を構築、及び連結を繰り返して街が続いているらしい。

 中には木製の平らな足場が真横に生え、その上に家屋が立っているところもあった。下を支えるのは細い木の棒だけ。物理法則的におかしい光景だが、多種多様な技術が集合するこの世界の特異性がそれを解決しているのだろう。


「へぇー、ヴェネツィアみたい……けどアレともまた違うな、もっとハチャメチャだ」

「建築物のあいだに小さな橋がいくつもあったり、ボートで水上の交通が発達しているのは似通っているところでありますね。靖治さんはベニスに行ったことがあるのですか?」

「いや、写真だけさ。実際に見てみたいと思ってたけど……はは、違った形で夢が叶ったよ!」


 建物だけでも見ていて飽きないが、靖治は一度視線を外して川岸に近づいた。川の中を見てみると、積み重なった砂漠の砂を壁にして透明な水が穏やかに流れている。


「すごいな、水面の下はほぼ垂直に砂漠が立ってて水に晒されてるのに、全然砂が崩れたりしてない、それに水も透き通っててとっても綺麗だ」

「この川には環境調整用のナノマシンが琵琶湖から流れ込んできています。生物の繁殖に適した状態に管理されており、人々は川から引いた水で畑を耕したり、川で育てた魚を獲ったりして食料としているんですよ」


 もう一度辺りを見てみると、網を載せたボートもいくつか川の上に揺られていた。


「空間結界の中心地点は向こう岸の陸地にありますが、地脈を利用する関係で川を含んで空間結界が構築され、土地がもったいないので川の上にも建物が作られました。それがいつしか川全体を横切って岸を繋ぎ、橋の街と呼ばれるようになった、というわけなのです!」

「へぇー、すごいや! 変化した環境に、ここまで合わせて生活の場を整えるなんて」


 さっきまでは砂漠だったのに、いきなり水源と緑に溢れた豊かな土地が現れたギャップに、靖治は感嘆の声を漏らすばかりだ。

 死を身近に感じてばかりいた靖治だからこそ、こうやって生き延びる人のたくましさには、熱いものを感じる。


「こうしちゃいられないな、早く行こうよイリス! 実際にこの眼で見てみなくちゃ!」

「わわっ、待って下さい靖治さん! 走ると危ないですよ!」


 目を輝かした靖治が、声を上げて橋の入口へと走り出した。イリスも慌てて彼の後を付いていく。

 坂道を超え、橋の上に足を掛ける。

 砂漠と橋をつなげるその部分は、ヨーロッパを思わせる頑丈な石造りになっていて、広い道の橋には家屋や看板を掲げた商店が並んでいた。


「ここが大阪!」

「はい! ここが、これからの私たちの新天地――」


 その新天地にあった建物の一つが、爆発を引き起こして破片を撒き散らした。

 橋の上にガラス片が散乱し、建物の中からモウモウと黒煙が上がる。


「な゛っ」

「おっしゃブツは手に入れぞ! 車に詰め込め!」

「食料だ! 缶詰から持ってけ!」

「や、止めておくれよ! そいつはウチの大事な商品……」

「ウルセェ、離せババア!」


 イリスが驚いてうめき声を上げる前で、覆面を付けた男たちが店主らしきオバサンを蹴飛ばし、銃器を片手に店から食料を略奪していく。

 靖治は「あっ、僕と同じ人間だー。トカゲ人間以外も強盗やってるんだね」と感想を述べる目の前で、男たちは軽トラに物資を乗せ終えると、自身もトラックの上に飛び乗った。


「よぉーし! 車をだ」

「死ねぇー!! ボンクラどもぉー!!!」


 急に横から飛び出してきた2メートルくらいのサイズがある緑色の巨人っぽい人種の人が、トラックの運転席にタックルを仕掛け、運転手をぺちゃんこにしてしまった。

 生き残った男たちが驚いた声を上げて発砲したが、巨人の人にはあまり効果がないらしく、腕の一振りで残った強盗も吹き飛ばされてイケナイ方向に体を曲げることになっていた。

 いきなりの救世主に、店のオバサンは手を合わせてすり寄る。


「た、助けてくださってありがとうございます、この御礼はいつか……」

「ッシャアー! 漁夫の利ー! こいつは俺が頂いていくぜウェーイ!!」

「な゛……な゛……!?」


 驚きっぱなしのイリスの前で、巨人は軽トラを担ぎ上げるとその場から逃走を図る。

 だがそこにどこからか飛んできたミサイルが、軽快な爆発で巨人をふっ飛ばしてしまった。


「ぬがぁー!?」

「ピピ……危険分子ヲ発見。『オーサカ・ブリッジシティ』ノ緊急規定ニ基ヅキ消去シマス消去シマス」


 ローラー音を鳴らしてどこからか現れた、細いフレームで作られた簡素なロボットたちが、血みどろの巨人に群がる。

 すでにミサイルで生き絶え絶えな巨人に対し、ロボットの手に持たされた銃が向けられた。


「や、やめ……投降す……」

「「「ファイア!」」」

「ギャーッ!!!」


 あっという間に巨人は蜂の巣になる。血みどろの肉塊を一つ作り上げると、ロボットたちは強盗犯が起こしたボヤ騒ぎに白い煙を吹きかけて火を消し、そそくさと去っていった。

 残されたのは「ケッ、ウチのモン盗もうとするからさ、ザマーみろってんだい!」と毒づくオバサンと、死屍累々の惨状のみ。

 事件が起こったというのに近くに歩いている人は「まーたやってるよ」という程度で、物見遊山すらせずに遠ざかっていく。


「な゛……な゛……何ですかこの混沌とした状況はぁー!? 安心安全な新天地はいずこぉー!!?」


 泡を食った様子で喚き散らすイリスは置いといて、靖治は辺りと見渡すと、道の脇で木箱に座った髭の長い老人に声をかけた。


「ねえお爺ちゃん、どうしてこの街こんなに治安悪いのか知ってる?」

「んあ……? なんやお前さん、知らんのかいねぇ」


 杖で上半身を支えている老人は、プルプルと体を震わせながら靖治を仰ぎ見た。


「つい一ヶ月前になぁ、空間結界を作って下さってたリキッドネス様が殺されてしもうてなぁ。今は側近のアルフォードさんが後を継いでるんじゃが、結界が小さくなってな、外側になってしもうた場所じゃどこもかしくもこんな騒ぎじゃけんのぉ」

「そうなんだ、教えてくれてありがとう」

「ええよええよ、飴ちゃん食う?」

「いいの? ありがとー」


 老人から貰った包み紙を開けて、すぐに飴を口に入れた靖治は「美味しいよ、ありがとう」とお礼を言うと、イリスに顔を向けた。


「だってさイリス」

「な……な……何でこんなトラブルばっかりぃー!!?」

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