21話『アリサ・グローリー』
――あたしの人生は裏切りばかりだった。
誰もあたしの隣に居続けてはくれなかった。
親なんて、最初からあたしのことは眼中になかったし、優しくしてくれた人も、誰もがあたしから離れていった。
あたしたちを護ってくれるといった優しいおじさん。
あたしたちをこき使ったマフィアの大人たち。
そして、お兄ちゃん。
薄暗い雲から降りしきる雨。大人たちから追われる中、転んでしまったあたしから遠ざかっていくあの背中。
手を伸ばしても届かなくて。泥で汚れた冷たい指に、その姿が隠れてしまうことがどうしようもなく悲しくて。
みんなあたしを裏切って去ってしまう。そうしてあたしは一人ぼっち。
独り暗闇の中、背中に浮いた灯火だけを頼りに道を歩く。
この道はどこへ続いてるの? いや、本当にあたしは、道なんてものを歩けているのかな?
風が吹いている。砂漠でバカでかいイモムシみたいな化け物と、みんなから守護者だなんて呼ばれてるアホほどデカイ竜。
化け物どもがぶつかり合って、衝撃波が吹き抜けた。空を飛んでいるあたしは大きく揺らされ、背中のマントがバタバタとうるさい音を立てる。
朝から日差しが強い。夏は嫌いだ、能力も合わさって熱いったりゃありゃしない。
空想でしか語られなかったアホほどデカイ竜。鋼鉄と銃弾、異形の化け物に、あたしの世界から数百年先を行くテクノロジー。
こんなごちゃまぜの酷い世界で、あたしは何も信じずに生きていくしかない。
街を目指しながら、あたしは頭上の魔人を仰ぎ見た。
赤い腕、火の魔人。すべてをぶちのめす暴力的な見た目と威圧感。
今までで唯一、あたしと供にあり続けてくれたチカラ。
誰も信じられないあたしにピッタリな、壊すことしか出来ない乱暴な能力。
「ねえ、アグニ。あんたはいつあたしを裏切るの?」
あたしを浮かべる赤熱の魔人は前だけを見ていて、何も答えてくれなかった。




