21話『ちなみに彼らはというと』
靖治たちの少し先で、一台の装甲輸送車がノロノロと砂漠を走っていた。
運転席に座った狼人のハヤテは、気怠げそうにハンドルを浅く握りながらシートに背中を埋める。
「あー、えらい目に合ったぜ。おぅい、ケヴィン、収集したデータはどうだ?」
「全体の半分程度しか手に入らなかったけど、今解析中ッス、もうすぐ終わるっすよ」
後部の荷室では、ケヴィンが着たままのパワードスーツをノートパソコンとケーブルで繋いでいた。
戦艦に潜入した際、コピーしたデータを閲覧しようとしているのだ。
「まったく、まさか次元光が出やがるとはな、もうちっとだったのによ」
「ウホ、世の中ままならないものウホ。ミズホスのやつも災難ウホ」
「つってもあんな戦艦奪ったところであいつらに扱えるかって話だがな、あれを起点に各地を占拠するとかほざいてやがったが、京都の化け狐と琵琶の巨大ロボ相手にかなうわけねーし」
「それを知りながら手助けするんだから悪いやつウホ」
「へへっ、お褒めに預かり光栄だぜ」
ハヤテの隣に座っていたウポレが相槌を打つ。
「アニキー! 解析出たっすよ!」
「おっ! どうだ中身は?」
「えぇーと、なになに……『機動戦隊ガンジャム』」
「あっ?」
「『デジタルアドベンチャー』『アーケード・コア』『機神旧世紀ゾノド』『ウミウシとタイガー』『トライアルガン』……」
「んだそれ?」
「アニキー、これ全部旧文明のサブカルチャーっすよ。漫画、アニメ、その他盛り沢山っす」
「はぁー!?」
気に入らなそうな声を出したハヤテがハンドルを揺らし、車体がフラフラと向きを変えて曲がりくねったタイヤ跡を残す。
「んだよー、せっかく東京のデータが手に入ると思ったのによー」
「でもこんだけ大量のデータ、欲しいやつのとこ持ってけば金になるッスよ」
「そうかもしれねえけどよ……チクショー、巨大戦艦だぞ? なんでそんなのがあるんだよ! ……まあ土産くらいにはなるか」
うだるそうに声を出すハヤテに、ウポレが神妙な顔で尋ねた。
「そういえばハヤテ、あの戦艦で見かけた子供、何者だと思うウホ?」
「なんだウポレ気になんのか? そりゃあ……なんでだろうな?」
眉をひそめたハヤテが、ハンドルに顎を乗せて悩み始める。
「あの少年、メイドロボにかばわれてたように見えたウホ」
「オレっちはチラッと見ただけッスけど、それホントに異能力者だったんすか?」
「いや、実際に確認したわけじゃねえ。立ち振舞いが異様だったんてそう当たりをつけたが、考えてみれば不審な点も多い」
最初の襲撃の際、銃で狙いをつけられた状況で、まるで焦らずに歩いていた少年を見て、てっきり異能者の類と思い込んでいてしまった。
だが異能力を持っているにしては、積極的に戦闘に絡んでくることはせず傍観に徹していた。立ち位置がわからないが、戦場に首を突っ込んできながら何もしなかったというのは不自然だ。
「そもそもあの船に何の目的で、いつから乗ってる? あのトンチキメイドは船の外に出てもほとんど一人で活動してる。異世界から流れ着いた機械文明の遺跡の探索に熱心みてえだが」
「アニキはあれに粉かけたんスよね? どうだったんスか」
「ナシのつぶてだ、いくらナンパしてもこっちをチラ見すらしねえ。そんなヤツに助けられるとは、あのガキはメイドの好きな機械文明の情報でも持ってたのか?
それにここのとこあの戦艦を監視してたが、一ヶ月前にメイドが帰ってから出入りはナシ。一体いつからあの船の客になったんだ」
「最初から乗員だった、という可能性はないウホか?」
「あの船が東京から出てきたのは二百年前だぞ? そんなの……ありうるかもな」
普通に考えればありえない、だがこの世界において『普通』なんてものを信用ならない。
「おい雉! おめぇの故郷も文明レベル高かったよな。昔の人間を保存しておく技術はどんなのがあった?」
「キー、そうっすねぇ。ベターなところでコールドスリープ、次点でサイボーグ化、不老不死、ぶっ飛びで空間ごと時間凍結とかッスかね。最後ウチの世界でもSFっつかファンタジーッスけど」
「ありうる……ありうるぜ。聞いた話じゃ、東京の原住人類は異世界の神と契約してすんげえ技術力を得たって話だ。それくらいは用意できてもおかしくねえ。
あの東京で三百年前に何らかの異常が起こったのは確かだ、そこからあのメイドがガキを連れ出した! だがアイツは眠りっぱなし、起こすには何らかのピースに欠けていて、それを探していた! そうするならあのメイドの行動に辻褄が合う!」
仮説に仮説を合わせた無理矢理な結論だが、一応筋は通った。
これが一番可能性を高いと決めたハヤテが目を輝かせる。
「もしそうなら……あのガキは東京内部に続く鍵でもあるってことだ!」
「おお!?」
「ウホ!」
「そうと決めればあのガキとっ捕まえて情報を聞き出すぞ!」
「おぉーッス!」
「ウホ!」
話がまとまりウキウキ気分で大阪に戻ってきたハヤテたちは、ガレージの中に輸送車を停車させた。
「さぁーてと、まずは何から……」
「あっ、ハヤテさん!」
下車したハヤテたちに、飛んできた声があった。
ガレージの入り口を見ると、一般的な人類系の女の子が外から覗き込んできている。
確か街の食堂で働いている、店長の愛娘だ。おさげがカワイイおてんばな年頃で、男心がそそられる。
「おっ、なんだベイビー。仕事帰りを出迎えてくれるなんて、もしかして今晩付き合ってくれ……」
「ハヤテさん! 昨日までのツケ返してくださいよ!」
「え゛っ」
「アニキー、何やってんすか」
「だらしないウホね」
「やっ、だってよ、今日のが上手く行けば、手に入った武器売っぱらって金ができるはずだったんだし!」
「もう三日分も溜まってるんですよ、すぐ支払って下さい!」
「いや、そう言われてもなぁ、今ちょっと手持ちが……」
ハヤテのことを白い目で見るウポレとケヴィンであったが、すぐに彼らも人のことを言えなくなった。
「あーっ! いたぞハヤテたちだ! ウポレとケヴィンもいるぞ!」
「ホ?」
「キィ!?」
外から続々と覚えのある顔が入ってくる。
古びたレコード店の店主、鳥人系のキャバ嬢、柄の悪いガンショップの親父、同類の荒くれ者、エトセトラエトセトラ。
その誰もが、怒りをたたえた剣幕で、唾を散らしながら三人に詰め寄ってきた。
「ウポレさん、レコードディスクの金。後で払うって言ってたよな」
「ウ、ウホ……」
「ケヴィンちゃん、キャバクラの代金、今日返してくれるのよね?」
「えーっ!? いやだって、大したサービスもしてないのにあんなボッタクリ価格……」
「おいハヤテ! この前の銃弾の金ちゃんと寄越せよ!」
「貸した酒の代金、そろそろ返せって」
「俺から映画代ぶんどったの忘れてねえぞ!」
「ねえ、ブランドのバッグ奢ってくれるって言ったじゃ~ん」
「ゴロツキと喧嘩して壊した店の看板! 修理代!」
「いや、ちょ、まっ」
「私のもちゃんと支払ってよー!」
「俺のもー!」
「カネ!」
「金ー!」
「金、金金、カネーッ!!!」
ガレージの住みに追い込まれた三人は、街の住人たちを前にして縮み上がる。
「お、おいウポレ……お前のへそくりとか……」
「そんなものないウホ。宵越しに銭は持たない主義ウホ。ケヴィン、データが売れるって言ってたウホ?」
「この街じゃちょっとしか買い手いないッスよー! そんなすぐ大金にはならないッス!」
青い顔をして相談し合う三人だが、とてもじゃないがこの金額をすぐには用意できない。
取り立て人たちは、鬼のような形相で眼を光らせて、地獄の門番のような恐ろしい声を響かせた。
「「「「「お前たち、金を払うまで、この街を出ていけると思うなよお!?」」」」」
「あ……や……その……カンベンしてくれえ!!」
「ウホー!」
「ッスー!」
「「「「「ゴメンで済んだら借金取りはいらねえー!!!」」」」」
冒険団オーガスラッシャー。
オオサカの街に長期残留(足止め)決定!
最初の一章を読んでくださりありがとうございます。
当方は東方の百合SSばっかり書いていた者であります。
オリジナルの長編小説というのは初めての試みで、この先どうなるかわかりませんが、できる限り遊びまくってみる所存です。ヒャッホーイ!
一応、日に3000字くらいのペースで投稿して行けたらなー、って考えてます。まとめて投稿した場合そのぶん更新までの日にちが伸びます。
多分途中で詰まってしばらく休みとかありますけどね! まあそん時はそん時だぁ!
靖治とイリスはこれから、なんやかんやで1000年後の日本を旅するわけですが、その旅路はハッキリ言えば自分でもどう転ぶのかわかりません。
作者として楽しみつつ、彼らの旅に着いていきたいなぁと思ってます。
よかったら生暖かい目で見守ってやって下さい。見守るとどうなる? 作者が小躍りする。
少年(16)少女(300)の旅に、祝福のあらんことを。




