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1000年後に、虹の瞳と旅をする。  作者: 電脳ドリル
八章【SHINING SURVIVORS -死の霧を超えろ- 】
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195話『矜持を胸に、己のやり方で』

休みます。

また明日

「オボボボボボゴボボボボオェェェェェェ!!!」


 その気味の悪い悲鳴に思わずさしものアラタも足を止め、ハングドマンはラウルのした所が何であるかを察して、一旦大人しく身を引く。


「なんだ、何をしやがった!?」


 声に焦りを浮かばせるアラタが見たのは、開放されたキッカーがこぼれ落ちた剣を拾うのも忘れて、飛び出さんばかりに目を見開き、涎を垂らしながら喉元を押さえた姿だった。 気持ち悪そうにうろたえるキッカーは、戦いを続けられる様子でなく、ひたすら気持ち悪そうに喉の奥から粘ついた音を漏らしている。


「オェッ……オロ……ゲェッ、ゴホッ!」

「フハハハハ! そのお気楽そうな脳みそで何をされたのか考えてみろ! ワシがちょいと命じれば、与えた肉蟲がハラワタを内側から食い破るぞ!!」


 その言葉で、キッカーが何をされたのか、アラタは嫌でもわかってしまった。


「さぁ、助かりたくばあの大剣使いを殺せ! 成果を上げれば助けてやらんこともないからな!」


 青い顔をするキッカーに、絶えずラウルは非情な言葉を浴びせかける。

 人を人とも思わない所業に、見ていたアラタは大剣を握りしめて怒りに言葉を震わせる。


(てん)、前()ぇ…………! このドグサレ野郎が……!!」


 あまりに急変した事態に、キッカー自身は理解が追いつかないまま、ただ腹の底で蠢く気配にゾッとするものを感じていた。

 段々と回り始めた思考が本人に悲惨な未来を教え付け、キッカーは沸き上がり始めた死の恐怖に、迷いの眼でアラタを見た。

 知らぬ場所に迷い込んでしまった子羊のような眼で見てくるキッカーに、アラタは哀れみを覚えながらも強く言い放つ。


「いいぞこいよ、オレが介錯してやらァ」


 荒々しい言葉の奥には、一片の慈悲があった。強くしか生きられない戦士が持つ、不器用な優しさであった。

 無残に殺されるくらいなら、スパッと苦しみなく終わらせてやろう。それがアラタなりの解答であった。

 それが示すところは悲惨であった、しかし死に逝くものへの敬意があった。だからこそ、キッカーもラウルを睨みつけ、自分の言葉を言えたのだ。


「こ……断る! お前の言いなりにはならない!!」

「……ほう?」


 眉を吊り上げる老僕へ、キッカーは腹底を這う苦しみに背を曲げ、焦りを顔に浮かべながらも、その眼と言葉だけは気高い輝きを湛えて言い放った。


「ボクは誇り高き翅族の勇士キッカー・ハンサ! 冒険者として名乗りをあげたのは、人々を守って正義を成すため。例え自分の命が危うかろうと、悪党に与することは絶対にない!!」


 勇敢なる言葉が言い放たれた後、そのキッカーの腹が内側からブシュリと裂けて血を吹き出した。

 突き出てきた肉蟲の暴威にキッカーは目を剥き、ラウルはやれやれと呆れた様子で首を振っている。


「カッ……ハッ……!」

「……ハァ、つまらん。興味が失せたわ、早々に果てよ」


 無邪気な子供が道端で見つけた虫を千切り殺すよりももっと残酷に、我が物顔で人の命を摘み取る。

 あまりにも呆気もなく、あらゆる尊厳を許さず踏みにじるラウルのやり方を目の当たりにし、アラタは口元を怒りに歪めて眼光をギラつかせた。


「この……カスが……!!」


 憤怒と共にアラタが踏み出そうとした時、目の前にガッシリした手がかざされて動きを制された。

 腹から肉蟲が生えた状態で、なおも二本の脚で立つキッカーが、苦痛に悶えながらもアラタに話しかけてきたのだ。


「ゼェー、ハァー……! 落ち……着き、給え……アラタ……! いや、落ち着かなくとも良い……だがキミには……キミの戦い方があるんじゃないのか……っ!!」


 声を絞り出したキッカーは、腹の肉蟲を自らの両手で掴み取った。


「ぐっ……ぬぉぉぉ……!!」


 いつも爽やかであった彼に似合わぬうなり声を上げながら、暴れる肉蟲をズルリズルリと腹の中から引きずり出し、引き抜いた蟲を目の前に掲げるとそのまま握りつぶす。

 潰れて動かなくなった肉蟲を床に打ち捨てたキッカーは通路の壁に背を預けて、汗の流れる顔に無理矢理にも笑みを浮かべてアラタへと微笑みかけた。


「キミは……何のためにここにきた……くだらない挑発に、乗るためではないだろう……?」


 キッカー・ハンサ。独善的な面もある彼であったが、その胸に宿る信念は本物の輝きを放っていた。

 気高さを貫く男の姿を見せつけられたアラタは、自らが何者であったかを思い出させられ、改めて自らの存在意義を噛み締める。


「あぁ、そうだ……! オレの使命はこの世の邪悪・異形をことごとく葬り去ること……!!」


 唱えたアラタの肉体の奥底から、ゴキメキと硬い何かが擦れ、打ち、研ぎ澄まされる音が響き始める。

 服の下の肉体を膨張させ始めたアラタは、手に持っていた二刀の大剣を放り捨て、顎から伸びた牙を見せた。

 変異する。拳はすべてを粉砕できるよう巨人の如く肥大化し、腕からは骨が袖を突き破ってまとわり付き、背中から伸びた触角が血を垂らす。膨れ上がった筋肉が服の下からでも浮かび上がり、顔もまた人ならざる者と化し眼が九つに増えて赤い色を帯びる。


「そこで待ってろ、冒険者キッカー。コイツは、ここで終わらせる……!!」


 身長も増し、2メートルを超える図体に骨を武器と鎧としてまとったアラタの異端なる姿を見上げて、ラウルは自分と近しい臭い感じ取って呟いた。


「フン……人体実験の末の生体兵器と言ったところか」


 アラタは膨張する肉体のコントロールに必死で「フゥー……フゥー……!!」と荒々しい息を漏らしながら、暴れる筋肉を抑え込んでいる。

 その間に挟み撃ちするよう位置を取ったラウルとハングドマンが同時に飛びかかり、その瞬間に暴風が弾けた。


「グォォォオオオオオオ!!!!」


 この世のものとは思えない激しい雄叫びを上げたアラタは、巨大化した拳をハリケーンのように振り回して、ラウルとハングドマンの体をただの一打で徹底的に打ち砕いた。

 車椅子を粉砕されたラウルは四肢をひしゃげさせながら床に放り出され、ハングドマンは壁に叩きつけられてシミのように体を散らばらせる。


 ハングドマンの肉体は両腕と下半身が黒い霧のように四散していた。散らばった部位がコウモリ状に変異して、壁に張り付いた本体の周囲を飛び回るが、すぐには再生できずにいる。


「体内にある134種のナノマシンのうち約半数が動作不能……なるほど……彼の全身そのものが、不死滅殺の祝福を帯びている……か」


 冷静に推察するハングドマンの前で、アラタは体をビクビクと波打たせながら、光り輝く九つの赤い瞳でラウルを睨みつける。


「テメェは殺す! 徹底的に殺ス!!! 我が使命のままに……」


 繰り返し繰り返し、アラタが言霊により自らの定義を定めて行く様子を眺めながら、ラウルは再生の追いつかない上半身を起き上がらせてニヤリを笑みを浮かべる。


「世を狂わす悪党は皆殺しだぁぁぁああ!!!」

「来い!!! お前の憎悪も、死への供物としてみせようぞ!!」

 調子悪かったので明日に投稿したい気持ちはあったけど、キッカーさんを蟲蟲したまま放置プレイってのも可哀想だったので短めだけど投稿。

 別にグロいシーンを書きたいわけじゃないんですが、ラウルお爺さんの性質考えるとこうなっちゃうのよね。

 まあその分、キッカーさんやアラタさんも好きに生きてるからフェアよフェア。

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