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1000年後に、虹の瞳と旅をする。  作者: 電脳ドリル
一章【虹の門出】
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19話『決着』

 イリスたちの戦いが終わった頃、新たな来訪者と守護者との戦いも佳境に入っていた。

 轟々と燃える戦場の直上では、熱量に巻き上げられた空気により、成層圏にまで達する巨大な積乱雲が発生していた。

 大きくなり続ける白い粘土のような雲が、業火に照らされて戦火の色を映し出す。

 それを背負い、守護者はその眼に炎を宿し、足音を響かせてにじり寄った。




 ――ピギィィィィィィィィィィィィィ!!!



 悲鳴を上げたワームが、いくつもの魔法陣を口の中に浮かべると、次々に異端の魔術を行使して攻撃を仕掛けた。

 雷の塊が、柱のような炎が、槍の如き氷が、極限にまで圧縮された水が、刃と化した疾風が、あるいは形をも持たない純粋な呪いの波動が、がむしゃらに発射されて守護者の身体に殺到する。

 猛攻が硬い甲殻を削り始め、いくつもの力が重なって爆発を引き起こした。それは爆煙が守護者の身体を包み込むほどにまで繰り返される。

 もうもうと地上に溜まる黒煙であったが、その中から翼を羽ばたかせた守護者が猛然と飛び出してきた。


「グォォォォォォォオオオオオオオオオ!!!」


 ワームに至近距離まで近づくと、守護者は両腕を開き、前腕部を変化させてスラスターを作り上げた。

 握り込んだ拳をナノマシンの白い煙で加速させて、ワームの頭部に両側から挟み込むようにして打ち付けた。

 スラスターが噴射を続け拳を押し込む。鉄拳がワームの表皮を力任せに砕き、潰し、体内にまでめり込んだ。


 ――ギィ、ギィィィィィ、ギィィィィィィイイイ!!!


 ワームが痛みのあまりのたうち回り、砂漠を削りながら身を振り回すが逃れることは出来ない。

 守護者はワームを拳で固定したまま、翼にスラスターを増設させた。ロケットエンジンのような巨大なノズルが四つ、骨格に沿って創り出された。

 ノズルから今までの比ではない量のナノマシンが吐き出され、地表を白い煙で覆っていく。その過程で広まったナノマシンが、守護者の吐いた炎を鎮火させた。

 猛烈な噴射で守護者の身体が垂直に浮かびあがり、引っ張られてワームもまた空に浮かんだ。二体の怪物が、積乱雲に突っ込んで見えなくなっていく。

 10kmの長大なボディが地を引っ掻いて抵抗したが、大地に留まることは出来なかった。


 ――ィィィィイィィ、ィィィィィィイィィィィィィ!!!


 とうとうワームの尾が地上を離れる。鳴き声に勢いを無くしたワームを持ち上げたまま、守護者は更に加速して積乱雲の中を突っ切った。

 雷の起こる雲を突破し、成層圏を越えた。宇宙がどこまでも広がっていて、地球の丸さと青さがよく観察できた。

 そこから守護者は更に加速して、上へ上へ。そして電離層を越えようとしたところで何かに捕らわれて動きが止まった。

 千年前の異変からある、時空間の断層だ。干渉した断層が赤い光を中空に発し、行く手を塞いでいた。

 だがそれでもなお守護者は高みへと進み続ける。体表全体に張り巡らせたバリアのような力場で空間を歪めてゆく、徐々に頭部が断層にめり込み始める。

 やがて首まで越えた辺りで、突如として空間が割れるようにして断層が崩壊し、守護者はワームごと壁の外へと飛び出した。


 ついに守護者は高度一万kmまである熱圏を突破し、宇宙空間にまで突破した。

 減衰のない太陽光が襲いかかるが、守護者は微塵も痛痒を感じず、押さえつけていたワームを地球の外側に投げ飛ばした。

 支えのない無重力の暗闇を知らなかったワームは、必死にもがくことしか出来ない。

 そんな哀れな最期に、守護者はトドメの一撃を用意した。


 守護者の足元に広大な魔法陣が広がっていく、竜の巨体を飲み込んでなおも大きく。

 その中央で守護者の灰色の身体が、炭火のような光を発し始めた。

 自身の身を焼くほどの熱量が、肥大化と爆縮を繰り返して、守護者の裡に溜まっていく。

 やがてワームに向けて大きく口を開いた守護者は、眼前に新たな魔法陣を敷くと、大小二つの魔法陣に挟まれた身体が電撃を帯びた。

 増大と収縮の理。その身を加速装置のように利用して、膨れ上がったエネルギーを一気に放出した。


 地表に放てば核にまで達しかねない光芒が、魔法陣を基底として宇宙の闇に一筋の境界線を敷き、生死を分けた。

 流れる光がワームの身体をまるごと飲み込み、圧倒的なまでの力でその存在を滅ぼしていく。

 光の中でワームは叫ぶこともできないまま、端から肉体を分解されていき、未開の宇宙に塵一つなく消え去っていったのだった。


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