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1000年後に、虹の瞳と旅をする。  作者: 電脳ドリル
七章【過去を見るは昏き瞳】
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158話『ここで二手に別れよう』

 やたらとマイペースな少女マナが泊まっている部屋は、戦場もかくやな散らかり放題の煉獄だ。足の踏み場はどこにもなく、およそくつろぐだとかリラックスとかいう概念が塵も見受けられない。

 こんもり積もった雑貨たちに見かねたイリスが「これを見過ごしてはメイドの名折れです!!」と奮起したため、彼女と靖治の手で片付けられることとなった。


 片づけと言っても簡単なものだ。扉と窓を開けて換気しつつ、落ちているものからゴミは捨てて、道具はひとまとめにするだけなのでそこまで時間はかからない。

 散らばった道具はチェスやらバックギャモンやら、どこから仕入れたか電池切れの携帯ゲームからスマホまであり異常に物が多かったが、それでも部屋の隅に寄せるだけでそれなりにはなる。少女が持っていた白い杖だけは、着替えと一緒にベッドのそばに立て掛けておいた。

 10分もすれば散らかった部屋は無事に一掃され、人が日常を過ごすには問題ない程度にはスペースが確保された。これで生ゴミまであれば地獄だったが、その一線を守る理性はあったようで幸いだ。

 先程までと比べれば広々と見える部屋に立ち、イリスは果たした仕事にグッと拳を握った。


「まとめただけですが、これで広くなりました!」

「色々あったねー、カセット式のウォークマンとか初めて見たよ」

「異世界から流れ着いてくることはありますから、あっても不思議ではないのですが、それでもこれだけの量を……もしやこの方たち行商人?」

「だったら商品をこんな杜撰に扱わないんじゃないかな」

「確かに、かなり問題ですね」


 話し合う靖治とイリスの前で、この部屋を散らかした根源である奇妙な少女は、いそいそと着替えだしていた。

 寝間着にしていたキャミソールの上からそのまま青い法衣をかぶり、服の中でモゾモゾと蠢いてから「ぷはぁ」と顔を出すと、服のシワを手で払って整える。

 大方身だしなみも済んだ少女は、部屋の真ん中で「シャラーン」と口で効果音を刻みながらクルリと華麗に一回転し、イリスと靖治の前で小さな背筋をシャンと伸ばした。


「綺麗な部屋に綺麗な美少女は気持ちがいい、そう思うでしょう? お掃除ありがとうです」

「いえ、どういたしまして!」

「次からは自分でやってね」

「覚えてたらやります」

「図太いなぁ、この子」


 おおっぴらにやる気がないことをアピールした少女は、寝ぼけているのかいないのか、よくわからない平坦な声色で自分の名前を語った。


「改めまして自己紹介ですよ。ウチ、マナって言います。あんじょうよろしゅう」

「私はイリスです!」

「僕は万葉靖治、よろしくね」


 微妙に関西弁混じりな言葉を話すマナに、二人も続けて自己紹介をする。


「しかしマナさん、どうやったらこんなにも酷い有様に……?」

「フフン、ロボットにはわからないのね……」


 尋ねられたマナは、何故か胸を張って意味深な微笑みを持って返す。


「人間には、想像を超えた散らかり因子を持つ者がいることを!」

「それは威張ることではないのでは……?」


 訝しむイリスの隣で、靖治は神妙な顔をしてでマナのことを見ていた。

 不思議な子だ。振る舞いも独特だが、それよりもイリスのことを『ロボット』だと見抜いた。

 お互いに数日は同じ宿に寝泊まりしているのだから、何かの拍子に知ったのかもしれないが、靖治にはなんとなくマナが最初からすべてを知っていた気がした。彼女が持つ雰囲気には、靖治が知る黒の魔女や無名の神と似たような超然とした空気が感じられたのだ

 この少女はぼんやりした琥珀色の瞳で一体何を見ているのか、視線の移ろいを興味深い目で追っていると、老人のしわがれた声が換気のために開けっ放しのドアに飛び込んできた。


「くぉらマナァー! いつまで寝とるんじゃ、さっさと降りてこーい!」

「ハッ、ヤバい。じいじキタ!」


 廊下の奥からドスドスと足音が近づいてくる。恐らくはマナと共に旅をしている剣を背負った老人だろう。

 何故か声に危機感を抱くマナから、イリスが顔を背けた。


「保護者のおじいさんですか……うわ!?」


 部屋の外を覗き見ようとしたイリスだが、突如として顔に覆いかぶさったなにかに大きく体を揺さぶられる。マナが小さな体を弾ませて、勢いよく飛びついてきたのだ。

 閉ざされた視界にもがくイリスが張り付いたマナを引き剥がすと、至近距離に見えた少女の顔に目を丸くして驚いた。


「な、なんですかなんですか!?」

「イリスちゃん、逃げるの手伝って。じいじに捕まったら虐待される、このままじゃ明日は筋肉痛間違いなし」

「え、えぇー!?」


 それは虐待なのか微妙なラインを提示するマナは、困惑するイリスの耳元に口を寄せるとボソッとウィスパーボイスを吹きかけた。


「一緒に来てくれたら、お料理上達する方法を教えてあげるよ」

「っ!」


 思いがけない言葉にイリスの瞳が驚愕に揺れる。その背に靖治が話しかけた。


「イリス、おじいさんが来るよ、その子連れてったほうが良いんじゃ……イリス?」


 廊下の様子を見ていた靖治が部屋に向き直ると、そこにはマナを背中に担いだまま開かれた窓から身を乗り出そうとするイリスの姿があった。

 窓枠に膝を掛けたイリスは、強い眼差しで振り返ると決意を秘めた表情で熱い言葉を靖治へと語る。


「靖治さん……これより私はメイド兼ロボット兼、逃亡の鬼となります!!」

「へっ?」

「追いかけるほうが鬼なのね」

「そうとも言います!」


 微妙にズレたことを言うイリスに靖治が呆けていると、マナの連れである老人が部屋の前に現れて、手に持ったダーツ盤を見せつけてきた。


「おーい、マナや! 近所の婆さんからいらないダーツもろうってきたから今日はこれで修行をつけてやる……って、待たんかマナ! 逃げる気か!?」

「じゃあねじいじ、ウチは旅に出ます。ばいばい」

「すみません、お子さんは私が責任を持って連れ回します!!」


 背中に乗って柔らかく手をふるマナと共にイリスが窓から颯爽と飛び出そうと足に力を送る。

 だがその瞬間、老人はマナのことを睨みつけて年老いたとは思えないほどの気迫を発すると部屋の中を灼熱の覇気で包み込むと、靖治の横に飛び込んで手に持ったダーツ盤をスナップの効いた手で投げつけてきた。


「逃さんそぉい!!」

「なっ!?」


 ビュンビュンと風を切り裂いて飛来するダーツ盤に対し、マナを背負ったイリスは突然の攻撃に逃げるのが一瞬遅れてしまう。

 しかしマナはボンヤリとした顔で、ベッドの横に立てかけられた白いトネリコの杖へと手をかざすと、その杖がひとりでに宙を奔り、直撃しそうになったダーツ盤を弾き返してマナの手に収まった。


「えっ、マナさん今のは!?」

「早く行って」

「は、ハイ!!」


 杖を握ったマナに急かされ、イリスは窓から飛び出して宿の外で出ていってしまう。

 老人が窓に飛びついていがり声をあげるさまを、取り残された靖治は呆然と見つめるしかなかった。


「行っちゃった……」

「こりゃー! マナー! このジジ不幸もんー!!」


 拳を振り上げて叫んでいた老人は、街の中へ逃げていくイリスとマナを見失うと、やれやれと肩を落として踵を返した。


「まったく、せっかく暇だからダーツを利用した画期的な修行の一つでも付けてやろうと思ったのに」

「虐待ってそういうことかー」


 マナが嫌がる理由がおおよそ見えて靖治は納得する。あのマイペース至上主義な女の子だ、修行などというのは苦手だろう。

 しかし置いていかれたこの老人は若干かわいそうではある。そう思いながら靖治が見ている前で、老人は白い顎髭を撫でながら思案する。


「どうしようか、予定が空いてしもうた……おっ、こんなところに世界を救いそうな男子が一人おるではないか」

「えっ、僕!?」


 唐突に向けられた矛先に靖治が驚いていると、老人は音のような身のこなしでいつのまにか靖治の背後に回り込み、シワだらけの手で襟首を引っ掴む。


「ちょうどいい、ちょいと修行を付けてやろう。なぁに心配するな、ワシは天才じゃから素人でもどうとでもなる」

「ぐえっ!? ちょっ、ちょっ、待っ! この人強引だな!?」

「あぁ、ワシの名はロイ・ブレイリーじゃ、宜しくな将来多望な若造よ」

「靖治です! でも名前は別に聞いてな、ぐえっ! 歩くから引っ張らないでくださいって!!」


 抵抗しようにも恐るべき馬鹿力で掴んでくる老人に、何の戦闘能力もない靖治は否応にも引きずり倒される。

 こうして奇妙な行き違いから、イリスはマナという不思議な少女に、靖治はこのロイという名の強引な老人に連れ回されることとなった。

 いやー、前回は急に休んだのに短くてごめんなさいね。何かと心労を溜め込みやすい性格なんで、突発的に現実逃避しちゃったりするのだ。

 なお反省もしてないし後悔もしてない、これからもちょくちょくやることになると思う。そういう人間だからしょうがないね(


 ところで関係ないですがイボ痔から血が出ました。

 痛いです。座って書くの辛い。

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