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1000年後に、虹の瞳と旅をする。  作者: 電脳ドリル
六章【朝へ向かう夜の狩人】
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125話『今日も今日とて立ち塞がるのは難問だらけ』

 靖治とアリサが話し込んでいると、やがてメカ恐竜の死骸を観察していたイリスとナハトが戻ってきた。

 元気な力を瞳に湛えているイリスの隣で、ナハトは機械についてレクチャーを受けたことで満足そうな顔をしている。


「お二人ともおまたせしましたー!」

「勉強になりましたわ」

「よし、じゃあそろそろ行こっか」

「なんとか今日のうちには、人が住んでるところまで行きたいわね」


 再び荷物を背負って出発の準備を整える一行であったが、森のどこからかズウンと重たい振動が響いてきて足元をわずかに揺らす。


「この音は……」

「チッ、新手か」


 各々が目を鋭くし周りを探るが、すぐに振動の発生源は現れない。この鬱蒼とした原生林の中では、遠くまで外敵を見通すことは出来なかった。

 もしや音の主はそのまま通り過ぎていったのかと一同が思い始めた直後、鬱蒼とした森の一角から葉っぱを散らしてローター音が鳴り響く。

 そちらへ顔を向け身構えていると、原生林の中から飛び出してきたのは、野生のヘリコプター型機械生物だった。

 プロペラで木々の上へ飛び上がりながら、胴体から生やした屈強な腕に巨大なアサルトライフルを装備した野良ヘリを見て、アリサが目を丸くして声を上げる。


「うええ!? アイツ空飛んでやがる!?」

「もはやほとんど生物関係ありませんね!?」

「でも腕は生えてるね、キモカワイイよ」

「アレがカワイイんですかぁ!?」


 一体どういう進化ルートでこのような生命体が存在するのか理解しがたい物体であったが、現に生きているその野良ヘリはサーモカメラから靖治たちを確認すると両手のアサルトライフルを突きつけて、体内で自己生成した弾丸を浴びせかかってきた。


「わぁお、撃ってきた!」

「チッ、アグニ! 防御!!」


 閃光のように襲いかかってくる無数の弾丸に対し、咄嗟にアリサが魔人アグニを作り出し、パーティの前に立ち塞がらせて銃撃を防ぐ盾とした。

 両腕を構えるアグニにぶつかった弾丸は、炎のように燃え盛る魔人のエネルギーに弾かれ、目標から反れた場所にある地面や木に着弾した。


「このッ、マズいわね」

「空ならお任せをっ!」


 険しい顔をするアリサの隣で、ナハトが片翼を広げる。彼女は即座に白銀の鎧を生成し、呪符から亡失剣ネームロスを引き抜くと、魔人を飛び越えて空へと躍り出た。

 新しい標的に対して野良ヘリは銃口を向けてトリガーを引く。だがナハトは恐るべきスピードで揺れ動き、照準を撹乱すると、そのまま野良ヘリの真上にまで飛び上がる。


「あっ、ナハトさん直上に回りましたよ! アレならプロペラが邪魔で敵は狙いづらいです!」

「でもあそこからどうやって攻めるつもりだろ」


 飛行のために回転し続けるプロペラを障害物とすることで、ナハトは一時の安全を手にした。だが逆にナハトから見ても攻めにくいはずだ。下手をすれば高速で動く回転翼に、ナハト自身が切り裂かれてしまう。

 だが野生のヘリコプターが敵に狙いをつけられず混乱する一瞬に、麗しき半天使は白銀の鎧を誇るかのように日差しで光らせると、鋭い目尻を更に引き締めて敵を見る。


「我が身を捧げましょう、息吹が共に有りて我が身は矢とならん!」


 そう言うとナハトは地上に向けて頭を下げ、片翼を畳んでしまった。

 重力に引かれ始めた体に風の魔法を加え、ナハトは一陣の疾風とともに猛烈な勢いで落下する。それはさながら獲物に飛びかかる鷹のようだ。


「プロペラに向かって加速した!?」


 見ていたイリスが目を丸くする前で、超スピードに達したナハトは刹那の時に引き伸ばした意識で迫り来るプロペラの回転を捉え、流水のような淀みのない流れで回転翼を避けてローターの脇を通り抜け亡失剣を振るう。

 するとナハトが野生ヘリの真下にまで降りてから、ローター部分が鋭い切断面を残して二つに別れ、プロペラの羽が千切れ飛ぶ。

 靖治たちが呆気にとられる前で、プロペラを失くした野生のヘリコプターは両腕をばたつかせながら急速に落下し、見通しの悪い森の中からバキバキと木を圧し折る音だけが聞こえてきた。


「すごい……スピードでプロペラをかいくぐって、ローター部を破壊しました!」

「やるねぇ、早すぎて僕じゃ見えなかったよ」


 イリスと靖治が感心していると、大活躍のナハトは細長い呪符に再びネームロスをしまい込みながら、風に乗って悠々とパーティの前に戻ってくる。


「ふう、駆動部分は弱い、よくわかりました。そういった部分は生物と変わりませんね」

「お疲れさまナハト」

「ちがーう! あんたたち、チンタラしてないで逃げるのよ!!」

「へっ?」


 敵を倒したというのに、依然として声を荒げたアリサに他の三人が眉を吊り上げた。

 険しい顔で焦りを見せるアリサに対し、イリスが不思議そうに尋ねる。


「でも敵は倒しましたよ?」

「イリスまで知らないわけ!? この世界には空飛ぶデカブツは真冬の酔っぱらいより長生きしないって諺があんのよ!」

「はあ……?」


 わかるようなわからないような、そんな諺に三人は首をかしげ、アリサは引き続き語気を荒げながら言葉を繋ぐ。


「いい!? 中途半端にデカイやつが空を飛ぶと、空間の干渉で境界が変容してどうやらって話でね!」

「空間と境界ってまさか……」


 不吉な単語に靖治が背筋を寒くさせる直後、上空から降り掛かってきた重圧に思わず空を仰ぐ。

 戦いを終えた一行の上空で煌めいていたのは、日の輝きすら押しのけるような美しい七色の極光の揺らめきだった。


()()()が出んのよー!!」

「うひゃあ!? 逃げましょう靖治さん!」

「やっばい、撤退撤退!」

「わたくしたちこんなのばっかりですわね!?」


 気を緩めていた頭上で、異世界とのゲートが開かれ不吉な空気の高鳴りが付近一帯を震わせる。

 靖治たちは泡を食って走り出し、転移が来る前にその場から逃げ出したのだった。




 ◇ ◆ ◇




「……で、どうしようこれ」


 呆然とした靖治の前に広がっているのは、先程までの機械生命体が跋扈する原生林ではなかった。

 生臭い熱帯のような空気と生い茂った木々は開かれた空間の穴の奥へととうに消え、代わりに赤みがかった大きなレンガで積み重ねられた壁。

 それまでそこにあった地形ごとまるっと入れ替わり、山のようにそびえ立つ異世界の遺跡が、威圧感を放って一行の前に立ち塞がっていた。


「こ、これって遺跡なんでしょうか?」

「っぽいよね、人工物だ」

「あーもう、今すぐってここを突っ切るってのは危ないわよ。中に守護者案件がいたりしたらゲキヤバだから、一日は様子見ないと」

「うぅ~、進行ルートがまるまる入れ替わっちゃうなんてぇ~!」


 遺跡のそこかしこには外を見るためのぞき窓や、何故か断崖に通じる扉などがあり、上部には見張り台らしき突き出た構造物もあった。靖治たちと向かい合った正面には巨大な門らしきものも見えるが、かなり風化していて扉の半分が崩れてしまっている。

 怪しげな遺跡にイリスが頭を抱えていると、上空から様子を見てくれていたナハトが地上に降りてくる。


「大きな遺跡ですね、元々密林があった場所が埋め尽くされています。しかし天井は塞がれていて、外からは見通せません」

「誰か住んでた?」

「いいえ見た限りでは。見張り台らしき場所に近づいてみましたが、人のいた痕跡はなし。雨風で崩れた場所なども、そのままにされているようでしたわ」

「整備もされずに放置されてるってことか」


 遺跡全体は巨大な箱のような形をしているらしい。正確には上が若干小さくなっているので台形だが、普通に住むにはけっこう不便そうだ。

 ナハトは少し顔を冷たくし、赤錆のような壁面を見上げた。


「少し不気味に感じます。外敵から身を護るというより内側を封じているようで、まるで死者が外へ出ないようにした墓標のようです」

「お墓ねぇ……」


 もしそうならピラミッドのような権力者の墓だろうか、何にしても不用意に手を出すべきではないだろう。


「とりあえずこのまま進むわけにもいかないし、一旦前の村まで戻って方針を決めなおそう」

「「「異議なし」」」


 もしこの遺跡の内部に守護者を呼び寄せるような、世界を揺るがすとんでもない異存在がいれば、再び怪獣大決戦に巻き込まれることになる。いくら守護者が周囲の人間に気を使って動いてるとは言え、間近で神様クラスのドタバタ騒ぎはゴメンだ。

 一行は遺跡に背を向け、昨日泊まったばかりの村へと引き返すこととなった。


「歩き旅って波乱万丈なんですね、こんなに苦労するとは思いもよりませんでした」

「普通ここまでてんやわんやしないわよ、このオトコ呪われてんじゃない?」

「アッハッハ、毎日面白くていいよ。今晩は何食べよっかなー」

「セイジさんはへこたれませんね……流石というか、若輩者の身としては羨ましい限りです……」

・ホッホ。最近ちょっと調子悪い日が続いて短めになっております。気長にお付き合いください。

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