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A Hole New World  作者: やまけん
4/5

Hole4 穴殺機関

「バグが見つかった」

 チェイスの研究室のお茶飲み場の椅子に座るハージは、手を組み、神に祈るポーズを取って、テーブルにうなだれていた。

「おっ、思ったより早かったね〜」

「どんなやつだ?」

 この展開を見越していた俺とチェイスは、全米を席巻する商品を売り出し中の企業の、健康生命情報管理部長の突然の告白に対して、1ミリも動じなかった。

 アメリカン・ヘルスケア社のHealth New Worldは販売から1ヶ月で全米にて100万ユーザーを獲得するほどの大ヒット商品になっていた。

「おまえらが危惧していた結果になった」

「ぶっこわれたのは通信モジュールだ」

「どうやら、原因はわからないが生体内でHNWを稼働させると約1ヶ月で通信モジュールが壊れるらしい」

「100%?」俺はハージに聞き返した。

「いや1%だ。ただ全米の1%だ」

 いまやHNWの利用者は100万人を超える。制御できなくなるHNW保有者は1%でも1万人もいる。

「とりあえず、まだ通信ができているユーザーに、今すぐ大腸菌自死プログラムを起動させたら?」

「……」

「もう既に実行済みだよな」

 俺はハージの方を向いて言った。

「自死プログラムは……、コストカットのために、……付けなかった」

「てめぇ!!」

 気づくと俺に殴られて、ラボの冷蔵庫に叩きつけられているハージがいた。

「そうするしかなかったんだっ! 頭の固いオヤジどもを黙らせるには、一度導入するだけで永遠に使える形にして、低価格で出せる商品と売りださないと……」

「うーっぷす……」

 俺は天を仰いだ。

「最悪の展開だね」

「いいかい? ハージ」チェイスはしゃがみこんで、床にころがるハージに話しかけた。

「僕らはね、そのうちHNWのバグが見つかって生体内から除去しなくてはいけない事態になって、君が泣きついて来る展開は容易に予想できていたんだ」

「それでね、その時に備えて、アラジンのコンドームを用意しておいたんだ」

 ハージは目を見開き、イエス・キリストに祈る出で立ちでチェイスを見つめている。

「ジャスミンパウチの大腸菌に抗HNW物質を生合成できる機能を追加した、アラジンのコンドームを」

「要はお前んとこのHNWをぶっ殺すコンドームを用意しておいたってことよ」

「でもね、これは通信できるユーザーに対してHNW大腸菌自死プログラムであらかた対応して、通信さえもできなくなったユーザーに対して逐次対応する道具として用意していたんだ」

「100万人……」

「そう、100万人のユーザーに対して使うデバイスじゃないんだよ」

「まぁ、ハージが今から全ユーザーにアナルファックしにいけるスーパーマンっていうんなら、話は別なんだけどなー」

「じゃあもう、どうすることも……」

「ガラッ」

 急に研究室入り口の引き戸が開いた。あれ? ドアじゃなかったっけ?

「話は聞かせてもらった」

「誰だ、お前は!」

「国防省の広報官、ジョン・ホールだ」

「そんな国防省の役人さんが何しに……、あっ」

 俺は床に座るハージを見た。

「ひっ!?」

「こいつを国家転覆罪で逮捕するのが正規ルートだが、それよりもまずはHNWを処分するのが先だ」

「あ〜、それはもうどうにもならないって……、話聞いていたんですよね」

「話は聞いていた。聞いた上でこちらでHNWは処分できると判断した」

「いや、だから……。もしこのアラジンのコンドームを使って処置をするなら、全米でこのコンドームを使ったアナルセックスが大流行するしかないんだよ!」

「そんなのを国防省が奨励できるわけがないし、殺人デバイスがあなたのお腹の中にありますなんて知られたら全米がパニックになるし、生物兵器として外国が確保し始めるだろうね」

 チェイスは俺と検討済み展開を述べた。ジョンさん、残念だけどこのゲームはもう詰みなんだ。

「なるほど。もちろんそんなパニック報道はしない。だが、全米でこのコンドームを使ったアナルセックスを大流行させる、という点は我が作戦と同じだ」

「どうやっ……」

「テレビ、ラジオ、街の看板といった媒体を介して、アナルセックスがしたくなる広告を実施する」

「私はアナルセックスをするタチとされるネコに、言語に関して一定の傾向(文法)があることを発見した」

「「「!」」」

 驚きおののき俺とハージは菊門を両手で抑え隠した。きゅっ。

 チェイスは暴走機関車トーマス並みに鼻をフンフン。

「アナルセックスが人間の本能的なものならば、人間にはアナルセックスを起こす素質が備わっている。アナルセックスをする文法を広めれば、その素質を呼び覚ましアナルセックスを引き起こすことができる」

「今回の場合はアラジンのコンドームを使いたくなる文法も、それに挿入しなくてはならないが」

「不可能ではない」

 ジョン・ホールの目は嘘八百を並べるペテン師のそれではなかった。

「あんた……いったい何者なんだ?」

「ただの元言語学者だ」

 予想していなかった救世主の登場と展開の早さに俺の脳みそは追いつかず、説明に矛盾はないかずっと演算を続けている。他の2人も同様に黙りこくってしまった。

「まぁ、何にしても」

 チェイスが沈黙を破った。

「Assは明るいね」

 カタコトの日本語で。

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