第二話 1
「あれ? 今回はメルンちゃんじゃないんだ。君新人?」
「え? ああ、はい」
唐突な彼の問いかけに、私は自身の驚きを隠しきれませんでした。しかしこの驚きは、マニュアルを事前に読んでいなかった私の怠惰から来ているのだと、直ぐに理解します。
「堂嶋敦さん。……転生回数十三回、今回の十四回目で転生最多記録を更新、ですか」
手元のマニュアル、もといタブレットにはたしかにそう書かれていました。なんとまあ。それはメルンさんの事を知っていても何ら不思議ではありません。そう言われてみると、彼の無造作に伸ばされた髪やひげからは、歴戦の勇者の風格を感じさせます。
「あ、そうだ。久しぶりにメルンちゃんに会いたいから呼んできてくれないかな?」
堂嶋さんがそう言いました。私には別段、彼の指示に逆らう理由も無く、彼の要求ももっともであるような気がしたので、指示に従うべくメルンさんのもとへと通じる扉を生成します。その際、堂嶋さんからは「うぇーい」などという良く分からない歓声がおきましたが、それは冷ややかに無視して、扉の先へと向かいます。
「メルンさん、メルンさん」
「なーにー?」
メルンさんはいつも通り愛らしい表情で、ふわふわとした返事をしながら首を傾げています。
「なんだか堂嶋さんがメルンさんにも会いたいようです」
私がそう言うと、メルンさんは目をキラキラと輝かせて、「え! あっくんが来てるの?」と答えます。
そんな私に対しては絶対にしないであろう反応を見ていると、なんだか心中にあまりよろしくない感情が沸き上がってきます。しなしながら、今の私は仮にも天使なのですから、その感情を名状してしまうのはやはり避けるべきなのでしょう。
そんなこんな、胸の中で御託を並べている内にメルンさんは先に堂嶋さんのところへ向かってしまったので、一人きりになった私はわざとらしい大きなため息をつくのでした。
「わぁ! あっくん久しぶり!」
「おう、しばらく」
なんて思い出話に私が入れるはずも無く、ああ、友達の友達とはなんと扱いにくいものなのでしょうか。けれども私はまさに蚊帳の外、そんな私に気をかけるものなど、このただっ白い世界には居ないのです。故に私は己の心で自身の心配りをするのです。ええ、言わずもがな、もう一度大きなため息を吐きました。
「へー、それでメルンちゃんは天使業を引退したの?」
「ううん、まだ引退はしてないけど、お手伝いをしてもらってるんだ」
はいはい、そうでしょうともそうでしょうとも。こんなふうに私が入る余地のありそうな会話さえ、発言のしようがないのです。
「あ、そうだ、ところで今回の転生の事なんだけど……」
と彼が言った時、少し風向きが変わったように思われました。それはさして大きな変化ではないのですが、例えるならば、熱中症をおこし倒れそうなときにそよ風が吹いた、と言ったところでしょうか。ともかく、ようするに些細かつ確かな変化が真っ白な世界を包み込んだのです。
「俺、最近テンプレものの転生ばっかりで飽きちゃったんだよね、なんか真新しい転生はないかな?」
テンプレ、すなわちテンプレートの略語であり、日本語で言うならば雛形です。それに飽きたという事は似通った型に当てはまった世界にはこりごりだという事でしょう。そんなテンプレを打破するための転生世界設定に、新人である私が駆り出されるのは至極当然なことです。しかし私は少々疑問に思ったのです。何故彼だけが、そのテンプレに飽き飽きするほどに転生を繰り返すのでしょうか。私が知る限り、二回、三回と転生を繰り返す人は居ませんし、もっといえば十回を超える転生など予想だにしていませんでした。
「あのー、何故あなたはそんなにも転生が多いのでしょうか? それと参考までに今までどんな『テンプレ』と通り抜けてきたのか教えていただいてもよろしいでしょうか」
私がそう問うと、まずメルンさんが口を開きました。
「あっくんはね、すっごく魂が強いから何度でも使いまわせるんだ!」
はあ、なんとまあ。
「ちなみに俺が今までに転生した世界は……」
と彼が今までのテンプレを例示していくのですが、それはそれは紛れも無いテンプレであり、テンプレそのものであると言って過言ではないラインナップでした。この場で私が言うのもはばかれるほどにです。およそ最強の名をほしいままにし、多岐にわたる世界の女どもを従え、征服した星は数知れず、時には独自魔法で別世界にまで転移してテンプレを成し遂げる……。なるほど、それは飽きるわけです。
「分かりました。あなたが今までに体感したことの無いような世界を、私が作り上げましょう」と私は胸を張って言いました。
もはやここまでくるとテンプレに沿った世界にする方が難しい、そう踏んでの自信です。そして結論から言えば、その目論見はみごと的中し、また私の自信及び自尊心は粉々に砕け散ったのです……。




