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第一話 1

「こ、ここは……」


「ここは、まあ、転生する際の例のあれです」


 と私は言いました。だってこの殺風景の白空間なんて、それ以外に形容のしようがないじゃないですか。


「三ノ宮重伍さん、二十七歳。大学四年間はパチンコにはまって就活に失敗。それからしばらくの間は派遣会社で働き、彼女なし、友達なし、貯金なしで細々と生きてきたものの、二年前に若年性の癌が見つかる。それを受けて派遣会社を退職し、親のすねをかじりつつ治療に専念した結果完治するも、トラックに轢かれそうな猫をかばったために死亡……はぁ。これ、あなたの経歴に間違いないですか?」


 先ほどメルンさんから渡された資料を読み上げ本人確認。これでもし本人で無いようでしたら、上の方へ――すなわちメルンさんでしょうか?――即刻連絡し、指示を仰ぐようにマニュアル(タブレット上にまとめられています。天界でも近代化が進んでいるのかもしれませんね)には書いてありましたが、こんなにも現実を突きつける必要があるのかどうか私は毎回考えてしまうのです。


「……ああ、まあ。確かに俺の人生を端的に表すならばそうかもしれない。だけど君は……」


 この質問は良く聞かれる質問ベスト三には入るでしょう。私はそれに対して本名を名乗ったり、適当な名前を名乗ったりと色々なパターンを試してきたのですが、結局次のように答えるのが、一番通りが良いのだと最近理解しました。


「まあ、便宜上天使とでも呼んでください」


 私がそう答えると、三ノ宮さんは再度辺りをきょろきょろと見渡し、また私に視線を戻した後、ひとり合点のいったように頷きました。


「なるほど、天使さん。つまり俺はこれから転生するわけだ」


 ニタニタと笑う彼の顔は明日への強い希望で満ちていました。ここに来る人たちは、大体死んだというのに悲観すらせず、このようにニヤニヤしながら妄想にふけるのですが、それを天使視点で俯瞰してみると、とても奇妙なことのように思えます。


「一言でまとめれば。そうなりますね。しかしあなたのようなニートが……」


 そう言いかけたときに突如空間内にビープ音が響き渡りました。ああ、これはメルンさんからの呼び出しです。私は何か失態をやらかしてしまったのでしょうか。


「すみません。三ノ宮さん。少しだけお待ちください」


 そう言って私は次元の狭間的なところから扉的なものを召喚して平行世界間移動的なことを駆使してメルンさんのところへと向かいます。何をしてるか分かりませんか? ええ、私も分かりません。


 向こうの世界の扉を開けると可愛らしく頬を膨らましたメルンさんが居て、「もうだめだよ!」とぷんぷんお怒りになられていました。聞いてみるとこの転生案内はあくまでも客商売であり、お客様は神様であるから――なるほど、故に私たちは天使なのですね――その考えに乗っ取った行動をとるように、とのことでした。


「それに笑顔! これ一番大事!」


 そう檄を飛ばされて私は再度世界の扉を開き、三ノ宮さんのところへ向かいます。


「はいはい、お待たせいたしました」と私は扉を開けるや否や言いました。「つまりごく一般的な現代人では異世界転生は荷が重すぎるため、所謂チートスキルを持って行って頂くのが習わしとなっております。あと異世界の設定でご要望などはございますか?」


「ふふふ、それなら日夜考えていた設定がある」


 と三ノ宮さんはあくまでも自信ありげです。なんとまあ、その自信を少し分けてほしい。


「舞台設定としては、核戦争で世界が荒廃し秩序が乱れた世界。生き残った僅かな人類は食料と安息の地を求めて旅をし、時に奪い合い、そして時に争うというまさに世紀末。そんな中、突如現れた救世主たる俺は世界を平定へと導き、人類復興へと寄与する……。というのはどうだろうか」


 唐突で突拍子も無い設定に絶句しかけた所を、強引に口を開いて質問を投げかけます。


「……ご自身に対する設定はあまり明確ではないのですね。例を挙げるならばどのようなチートスキルをご所望でしょうか」


「うん? うーん……。まあ、とりあえず最強であれば良いかな、と」


 はは。最強というざっくりとした言葉。しかしながらこういう転生者に対するマニュアルというのはしっかり存在するのです。


「でしたら……世界観と最強を鑑みた上で、『失われた武器を蘇らせ、自在に扱える能力』などはどうでしょうか? 武器に対する知識はおありで?」


「いや、そんなものはないかな」


「でしたら初回転生特典で知識付与も致します。単純な戦闘能力については転生後、ご自分で修業を積んでください。師匠の方はこちらで適正者を用意しておきます」


 我ながら何を言っているのか、とツッコミを入れたくなるのですが、名誉のために言っておくとここまですべてマニュアル通りです。一言一句に至るまで私念は含まれておりません。私のそんな思いとは裏腹に、彼は「おお!」と感嘆の声を上げています。実に単純……いえ、これ以上はお客様に対する態度として不適切でしょう。


「では、問題が無ければこのまま転生していただきます。転生してから当面の間は無事が保証されていますが、成長してから食料だけには気を付けてください。死にはしなくてもお腹は減ります。頃合いを見計らって一度だけ私が伺うことになると思いますので、その時はどうぞよろしくお願いいたします」


 大分早口。噛まないように必死です。


「ああ、分かった。あとは世界の事は任せてくれ」


 いったい何をおっしゃっておられるのだか。


「ええ、それでは良い転生を」



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