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最終話 2

「メルンさん、メルンさん」


「なーにー?」


「どうすれば彼女、納得して転生すると思いますか?」


 私はメルンさんに問いました。


「……それはきっとね、私に頼っちゃいけない事だと思うよ」


「……つまりどういう事でしょうか?」


「それをあなた自身が考えなくちゃ」


 メルンさんはそう言うと、またエリックさんの時のように右手を頭上に掲げました。私は来るべき閃光に備え、固く目を瞑りました。


 瞼の裏からでもはっきりと分かる強烈な光が起こり、私はさらに目を手で覆い隠しました。



       ○



 気が付くと、また何時ぞやのように、瀬里奈さんが生まれる瞬間に立ち寄ることとなりましたが、今回私の隣にメルンさんはいらっしゃいませんでした。


 瀬里奈さんの人生は全く普通の、日本人の女の子の人生といった感じで特筆すべき点は特にありません。ただ毎日を楽しんで生きて、勉強は赤点を取らない程度に行って、数学はとても苦手で、毎週土日友達と遊んで、夜遅くまで頻繁に連絡を取って……。そんなふうな、きっと世の中にはありふれた人生のうちの一つでした。強いて変わった点を言うのであれば、彼女は常に笑顔を絶やさない、ということでしょうか。


 彼女はたとえ転ぼうと、テストの点数が悪かろうと、いつも輝かしいばかりの笑顔を浮かべていました。


 しかし彼女は決して、世間的に褒められるような人間ではありません。前述の通り、彼女は真面目ではありませんし、頭も良くありません。高校生の内から酒は飲みますし、そのせいで死にますし、両親や先生にもだいぶ迷惑をかけています。けれども、どんなに上げ足を取ろうとも、彼女はそれを幸せと感じるのです。


 一方で私は、自身のかつての人生についても考えていました。私は彼女と比べたら真面目であったと言えるでしょう。しかしそこまでです。最後に心から笑ったのは、一体いつでしょうか。


 隣の芝は青い、そして取れない葡萄は酸っぱいのです。しかしながら、青い葡萄や酸っぱい芝生など誰も求めないのです。なんて、それらしい言葉で煙に巻こうとしても、何も意味がありませんよね。でも、そんな意味が無いことって、時々ならばあっても良いのではないでしょうか。




 そうして運命の日、白熱した王様ゲーム中にイッキをした彼女は、急性アルコール中毒で死にました。一般的に見てそれは哀れな死に方でしょうし、一緒にいた友人たちにとっても迷惑な死に方でしょう。今まで幸せを積み上げてきた結果が、望まぬ死につながり、そして転生する。私はこの世界の理というものが見えたような気がしました。


       ○


「おかえり」


 瀬里奈さんの人生を見終わった後、再び真っ白な空間に戻ってくると、メルンさんがそこに居ました。


「なんで人が転生するのか分かった?」と彼女は言います。


「いいえ」と私は言いました。「だからこそ、人は転生するのですね」


「そうかもしれないね」


 そう言ってメルンさんは微笑みました。それはいつものような笑顔ではなく、淡く微かで、とても静かな微笑でした。


「じゃあそろそろ終わりで大丈夫そうだね」


「え? 何がですか?」


「うん? いんたーん」


 メルンさんがそう言うと、世界は光に包まれました。それは目をくらますような強い光ではなく、むしろメルンさんの微笑みのような、優しく包むような光でした。



       ○



 目を開けると白い空間にいるような気がしました。また振出しかと思ったのですが、よくよく目を凝らしてみると、白いのは空間ではなく、天井であると気が付きました。


 体を起こし、辺りを見回してみると、ここが病室なのだと分かりました。腹部には鈍い痛みがあります。背中には羽など無く、本来あるべき私の姿そのものでした。

部屋の窓からは夕日が差し込んでいました。赤く澄んだ光は、どこまでもどこまでも続いているように感じました。


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