第四話 2
五歳となったエリック少年は現在、勇者となるべく鍛錬に励んでいます。幼いながらもその実力は折り紙付きで、同年代はおろか、その辺の大人程度では彼に敵わなくなっています。
彼の俊敏な動きは風をも切り裂き、剣の一振りは大木をもなぎ倒します。さらに彼はそれくらいでは潔しとせず、さらなる精進を積んで順調に勇者として成長していったのです。
そうして来るべき日、彼は村人たち総出の見送りをへて、首都フィ・テールへ旅立ちました。勇者養成学校に入学をするために……。
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この世界の勇者養成学校を語るためには、この世界における勇者というシステムについても説明する必要があります。
この世界における勇者とはいわば資格、もしくは学位のようなものであり、勇者の称号を得るためには勇者養成学校を卒業しなければなりません。その勇者養成学校は全国各地に点在していて、その入学難易度は千差万別(と言っても、どれも相応の成績が求められます)なのですか、首都フィ・テ―ルにある王立フィ・テール勇者学校はその中でももっとも難しいとされている学校です。
それ故に、彼のような辺境の村出身者が試験をパスすること自体難しく、またこの世界における勇者とはとても名誉ある役職であるため、彼は村の期待を一身に背負っているのです。
入学当初、彼は自信にあふれていました。彼より強い者などもう村にはおらず、幼い頃より神童として扱われてきたためです。村出身者である彼の世界は、常に彼を中心として回っていました。しかし残念なことに、その自信は早々に打ち砕かれることとなるのです。
入学式直後、入試の点数が発表されるのですが、その時の彼の成績は三十四位でした。このことは彼に多大なショックを与えたのです。前述しましたが、今まで彼は自分より強い者に出会った事がありません。ましてや同年代など競う相手ですらなかったのです。しかし現実という名の点数は、彼より強い者が三十三人もいるのだと冷酷に示しているのです。
しかし彼は思いました。俺より上の順位の奴が何人いようと、それは今の時点でだ。奴らは俺よりも良い環境で入試に特化したトレーニングを積んできたに違いない。だから俺はこれから努力すれば奴らなど直ぐに追い抜けるだろう、と。
それから一年が過ぎ、彼の成績は三つ落ちました。その次の年には五つ。そして何人か同級生が退学した結果、彼は最下位の成績で勇者養成学校を卒業することとなったのです。
その頃にはもう、彼は自分の成績が低いことについて気にすることはありませんでした。俺はこの世界でもっとも優秀な集団の内の一人なのだ。その考えだけが彼を支え、また彼の向上を妨げたのです。
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勇者養成学校を卒業すると「勇者」という資格を得ることができます。そして卒業した勇者たちは、各々が望む道へと進むのです。
人気の進路は上級勇者学校へと進むことなのですが、進学条件は在学中の成績が優良であることなので、彼にはその選択肢がありません。他には官僚を目指す人だとか、政治家を目指す人だとかもいます。彼らは「勇者」であるということをうまく活用している人たちです。
しかし一番多いのはやはり兵士でしょう。身分は安定していて、また「勇者」であることから一定の地位を得ることができます。そして他に多いのは冒険者でしょうか。夢を追う事ができるのも、「勇者」という信用のある身分だからです。
エリック青年は最初進学を希望しましたが、教官に鼻で笑われたことできっぱりと諦め、また兵士という身分は彼の趣向に合わなかったため、冒険者になることに決めました。しかしそれも消去法での選択、志などありません。
けれども「勇者」されども「勇者」、それも王立フィ・テール勇者学校卒です。その資格だけで大手冒険者ギルドへの内定が決まりましたが、困ったのはその後です。
なんと彼は「勇者」であるにもかかわらず、現場で全く活躍できなかったのです。
実力はそこそこ、頭はそれなり、しかしプライドだけはとてつもなく高く、誰かとパーティを組んでも独断専行が目立ち、彼はギルド内で孤立していきました。