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第三話 1

「そうよ、だから私は死んだのよ。これは……これは彼に対する復讐なの」麗華さんは勝ち誇ったようにそう言いました。「私が死ねば、どんなに私が彼にとって大きな存在だったか、理解できるはずなんだから」


 しかし麗華さんのそんな言葉は、かすかに震える唇と潤む瞳を見ていると、強がりであるとすぐに看破できたのですが、それを指摘することはこの場合の適切な対処ではありません。彼女は現在、口に出している言葉だけで自身を支えているのです。失われた体はもう戻ってこないし、失ってしまった彼氏さんもまた、戻ってくることはありません。その不安、後悔は私ごときでは測ることすら叶わないでしょう。


「それで、転生って絶対にしなければならないの?」と麗華さんは言いました。


「はい、まあ。一応そういうことになっています」


 正確には私のようなイレギュラーがあるのですが、それを勧める段階としては早すぎますし、またこれに関しては私の一存でどうこうできるものではありません。


「そう、でも、私にはもう……」


「……望むものなど無い、と」


 私がそう問うと彼女は小さく頷きました。彼女は淡い微笑を浮かべていましたが、私にはその微笑が彼女を支配し、動かしているように見えました。


「私、死んだら消えて無くなるものとばかり考えてた。思い出も、苦楽も、そして……」と彼女は言いかけましたが、そこで口を噤みました。「とにかく、転生の事はあなたに任せるわ」


「……すみません。できる限り麗華さんが後悔なさらないよう、世界設定を作り込みますので」


 私がそう言うと、彼女はやはり笑顔で答えました。


「気にしないで。因果応報ってやつよ。全部私が悪いの。そう、全部ね」



       ○



 天使に「今からあなたを転生させます」と言われて、次に目を覚ました瞬間、私は夢を見ている様な感覚に陥った。


 辺りを見渡すと見覚えのある懐かしい光景。だけどあのタンスも、机も、私が知っている物よりずっと大きい。台所から香る煮物の匂い。様子を見に行くために体を起こそうとしたけれど、それが叶うことは無かった。体が思うように動かない。


 誰か助けて、と声を上げようとすれば、自然とそれは泣き声となって部屋に響き渡る。


 すると台所から慌てたような足音が聞こえてきて、それがどんどん私の方に近づいて来る。私を覗き込んできたその顔は、やっぱり見覚えがあって……。長い間あやされ続けても、私が赤ん坊だからか泣くのを止めることができなかった。




 小学生になるまでの間、私は天使に騙されたのだと思っていた。彼女が転生させた世界は私の子供の頃の記憶通りで、幼いころ見た夕日の美しさも、海の広さも、全てをそのままに表現していたから。


 だから私はまた人生をやり直すのだとばかり思っていた。だとすれば、今度はもう間違いなんて侵さない。私はもう誰も愛さないし、誰からも愛されない。そうすれば傷付くことも、誰かを傷つけることも無いでしょう? 


 けれど転生というのは、やはり別の世界に生まれ変わっているのだと理解したのは、小学校の入学式の時だった。


 校門の桜はあの日と同じように満開で、一年三組の教室と少し大き過ぎる私の机からは懐かしい木の香りがした。私の隣の席に座ったかつての親友は、今日この日から親友となった。他の人たちのこともほとんど全て分かったけれど、後ろの席に座った男の子の事だけは誰だか分からなかった。


「なあ、お前、どこかで会ったことある?」とその男の子は言った。いかにもボーイソプラノといった感じの高い声。でも何故だろう。一度も聞いたことのないはずのその声に、かつて忘れてしまった何かを揺さぶられる。


「……さあ、きっと気のせいよ」


 だって私が知っているはずの「あなた」は、私にそんな笑顔を浮かべたりしないんだから。



       ○



 転生する前の世界であなたと出会ったのは大学生の時だった。当時のあなたは世間と関わりを持つことを避けている様で、それでも私と居続けることは不思議でならなかった。けれどそれって、寂しかっただけなんでしょ? 私じゃなくても良かったんでしょ? いや、そうじゃない。「私じゃなくても良かった」じゃなくて、「私じゃない方が良かった」か。




 だったら私は、転生したこの世界でどう生きればよいの?


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